第31話 推理する帰途
その言葉に、一色は納得できなかった。
「襲撃計画が必ず明日とは限りません、家まで送ります」
「一色くん、名古屋でしょ。大丈夫よ、栄から壱ノ宮までは明るくて人混みばかりだから」
何度か一色は送ると言ったが、千秋の言葉に不承不承、受け入れた。ならばと、栄駅の改札まで送らせてほしいと申し出、千秋はそれを受け入れた。
行く道、一色は終始無言であった。
「どうしたの、一色くん。怒っているの」
「いえ、考えてました。キジマって奴らは、何でこんなに安易に人を襲うなんて考えるのかなって」
「そう言えばそうね」
「まともな人間なら、まず思いつきません。さらに思いついても実行しようとしないでしょう。人としても倫理とか道徳が止めますし、そうじゃなくても刑罰が怖くて止めると思うんです」
「う~ん、そうね。課長を使ってのスパイ行為も、なぜ出来たかも謎よね」
「何というか、抑止力のハードルが低い感じがするんです。そこから想像すると、ひょっとしたら前にやったことがあるんじゃないでしょうか」
「成功体験てやつ?」
「それです。窃盗やギャンブルを繰り返す人は、1度成功してしまうと、その成功体験が忘れられず、また手を出すというやつです」
「キジマ達は以前その経験があると」
「可能性ですけどね」
「だから抑止力のハードルが低い……」
千秋は自分の呟きで、思い出したことがあった。スマホを取り出し、画像をひとつ一色に見せる。
「一色くん、この女性に見覚えない? うちの会社のコなんだけど」
「さて? 見覚えありませんが、この人がどうかしたんですか」
「私のストーカー(仮)らしいのよ」
「なんです、そのカッコカリっていうのは」
この女性が自分の通っているジムに3週間前に入会して、千秋の来る日にしかほぼ来なくて、毎回髪型と服装が違うことを伝えた。
「なるほど、偶然にしてはできすぎですね。特に髪型。毎回変えるのは不自然だと思います」
「3週間前からというのも気になるのよ、ちょうど私達がコンペを任命された頃だし」
「うちの会社の人で間違いないんですか」
「それは確かよ」
あらためて、一色は画面の女性を見る。
「う~ん、ダメですね。どこかで見たような気もしますが、思い出せません」
「塚本さんなら知っているかな」
「どうでしょう、彼女の交遊関係は少ないから……あ、このコひょっとして、あのコじゃないかな」
一色は何かを思い出したようだった。
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