第8話 その3

 頼んだ料理を食べ終わったので、お開きにすることにした。

 店を出て挨拶すると2人は帰途につく。千秋も名古屋駅に向かい、JRで尾張壱ノ宮駅に帰る。

なんとなくまっすぐ帰りたくなかった千秋は、久しぶりにジムに寄ることにした。


「お、今日はジムの方なの」


 一昨日見たばかりの顔が、笑顔で迎えてくれる。


「お疲れ様、ケイ。ちょっと寝る前に汗をかきたくてね」


 千秋の友達である鏑井蛍は、カブライスポーツジムの、オーナー兼トレーナーでもある。


「じゃあストレッチからランで、軽いエクササイズそれからストレッチでしめようか」


「オーケー、じゃあ着替えてくるね」


 更衣室でトレーニング姿に着替えて、トレーニングルームに来ると、ケイと一緒にストレッチを始める。


「こんな時間までご苦労様、オーナー自らやるんだね」


「平日の夜間は滅多に会員さん来ないからね、トレーナーさん置いといても暇させるだけだしね」


「さすが経営者」


 辺りを見回すと、千秋達に以外にいるのは確かに少ない。仕事帰りのOLらしいのと、筋トレマニアっぽい人が数人いるだけだった。


「そういや、昨日ハジメに会ったよ。千秋に会いたがってた」


「ハジメに? 私も会いたかったなぁ」


「不規則な勤務だからなかなか会えないよねぇ、それでそっちの仕事の方はどうなったの」


「進展無し、変わり無し」


「ふうん、変わりないんだ」


 ストレッチが終わり、ランニングマシンで30分程走り、ふたたび蛍の指導でエクササイズをして、ストレッチに入った。マットに座り、前屈のストレッチを蛍が手伝う。


「ねえケイ」


「なに」


「依頼していい?」


 鏑井蛍はスポーツジムのオーナーではあるが、もう1つの顔がある。情報屋の顔だ。

 バックパッカーとして海外旅行をしている千秋と連絡とるために、蛍はインターネット覚えた。国や地域によっては連絡とりにくい事もあるので、蛍は千秋と連絡取りたさに、スキルをあげていく。そしてついにはハッカーレベルの腕前となってしまったのだ。


「何を調べればいいの」


「郡原物産と森友財団のコンペ関係者の趣味嗜好」


「あんたのところは?」


「そこは私がやるわ、時間が無いもの、そこまで負担かけられないわ」


「ふっふっふっ、見くびってもらっちゃあ困るねぇ」


「ダメよ、やり過ぎちゃ」


 蛍は千秋の為なら危ない橋を平気で渡るだろう。  自分の事で、友達を危ない目にあわせたくない、だから頼むのを躊躇していた。だが、何の進展もなくこのまま過ぎていては意味がない、蛍に頼るしか道が思いつかなかったのだ。

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