第6話 企画3課のアリス

 終業30分前に帰社し、今日も成果は無かったと課長に報告すると、やはりネチネチクドクドと嫌味を言われはじめた。


 終業時間になると、塚本はタイマー仕掛けのように、デスクを片付けて帰宅していった。一色も、千秋達にペコリと頭を下げて部屋を出ていく。


 課長の嫌味はその後30分ほど続いたが、もういい帰りなさいと言われ、千秋も帰途についた。


 会社を出て、駅の方に歩いていくと、なにか妙な空気を感じた。ふと足を止めて振り向くが、雑踏の中、自分と同じような帰宅途中のOLやビジネスマンばかりが目にとまっただけだった。ふたたび歩き始め名古屋駅近くまで来たら、見覚えのある2人を見つけた。


「一色くん、塚本さん」


 路上で何か話している2人が、千秋の方を見る。


「チーフ、お疲れ様です」


 塚本はペコリとだけ頭をさげる。千秋は、本当に無口なんだな、さっきも言葉でなくて身振り手振りで会話していたしと心の中で呆れる。


「すいません、先に帰ってしまって」


「いいのよ、あんな意味の無い時間につきあうこと無いわ」


 一色の言葉に千秋は笑顔で返す。この言葉に一色と塚本は笑顔になった。


「だけど早く帰れましたよね」


「理由は分からないけど、課長もわりと早く帰りたがってたからね、終業間近なら早めに切り上げると踏んでたの。当たりだったわ」


 千秋の朗らかな話し方に2人は笑った。


「ねえ、2人とも時間があるなら食事につきあってくれない。もちろんおごるわよ」


 一色は塚本に行こうと促す。塚本は先に帰った負い目を感じたのか、珍しくこくんと頷いた。




 居酒屋に行こうかとおもったが、塚本の事を考えてライト感覚なレストランを選んだ。


「呑まなくていいんですか、チーフ」


 料理とサケを頼んだとき、千秋がサケをやめてウーロン茶にしたのを、一色は気にしていた。


「さっきまでそのつもりだったんだけど、何となく呑まない方がいいような気がしてね。2人は遠慮しないで呑んで呑んで」


「では甘えます。そのかわりいくらでも愚痴を聞きますし絡まれますよ」


「一色くんてホント、イケメンよねぇ。ねえ塚本さん」


 背中まである長い髪を下ろし、フェミニンなワンピース姿で、グラスビールを両手持ちしながら呑んでいる塚本は、こくんと頷いた。


 普段は、髪をまとめて紺のタイトスカートタイプのビジネススーツに、開襟シャツ姿しか見ていないので千秋には新鮮だった。


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