第6話、受勲式


「ねえ、タウ」

「あう」

「黒板と竹ペンの考案者という事で、お城に呼ばれているんだ」

「ひ・お」

「ああ、国に貢献したって王様から直々に褒美を取らせたいんだってさ。

だけどね、迷っていたんだ。

タウを、そんな大勢の前に連れ出すと、辛い思いをさせるんじゃないかって」

「うう・ん」

「ああ、そうだね。

王様の前だろうと、私の息子だって堂々と……ううっ

王様にこれを贈呈してやろうじゃないか。

羽を象った金のペンだ。

私の息子が作ったんだぞって……」

 母さんは大声で泣いた。



 当日、朝から余所行きの服を着せられた。

 七五三みたいだ。

 追加で作った金の墨入れと金の羽ペンは、化粧箱に入れられ母さんが持っている。


 ガタゴトガタゴト

 生まれて初めての馬車は、あまり乗り心地が良くなかった。

 今度、サスペンションを作ってやろうか。


 城の大広間には100人ほどの男女が並んでいた。

 今回の褒章は3組だという。

 俺と母さんが大広間に到着すると息をのむ様子が分かった。

 ヒョコヒョコと歩く姿で、それは嘲笑に変化した。


 母さんが心配そうに俺を見るので、笑って返した……返せたと思う。


 順に功績と名前が読み上げられ、王様の前に進む。

 俺は一番最後だった。

 順に勲章みたいなのと、金一封が渡され、俺たちの番になった。


「スカーレット女医の息子タウよ」

 王様が不意に大きな声で話しかけてきた。

「あ、あう」

「無理をせんでもよい。

1年前にドラゴンのブレスで半身を焼かれたのは承知しておる。

動かぬ手と足で、ここまで来させたこと申し訳なく思う」

「あう」


 会場がざわめく。

 王様が大勢の前で詫びたのだ。前代未聞の事である。


「しかしな。見えない目と聞こえない耳。自由にならぬ指で黒板と白墨を生み出し、今また、竹ペンなる筆記具を考え出した。

黒板と白墨は、母親と筆談するため。竹ペンは、紙の無駄をなくし、誰でも読みやすい字を書くためのもの。

黒板も竹ペンも、今や城中どころか国中に普及して、筆職人を泣かせておるわ」

 クスクスと笑い声が聞こえる。

 俺も、ニッと笑ったつもりだ。

「一年前には、歩くこともできず、右腕はまったく動かなかったと聞く。

だが、これだけのハンデを乗り越えて回復したばかりか、これほどの功績をあげて見せるとはな。

母スカーレットよ」

「はい」

「よくぞ、ここまで育ててくれた。お前も辛かったであろう。

身動きのできぬ息子を見守り、余計な手助けをしないようにしたお前の力があったればこそ、息子はここまで成長したのだ」

「はい、ありがとうございます」


ああ、もう顔はぐしゃぐしゃだな……

「よって、ここにスカーレットを名誉男爵とし、空位であったワイルズ家の称号を与えるものとする」

「えっ」 「あっ」

 パチパチパチパチパチパチ

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