召喚!中二病の俺は下僕様~魔王となりて美女を救う~
ホウセイ
第1話
「我が名は魔王【ルキフェル】!
我はあらゆる魔を統べ、深淵を纏いし者!我が眼は全てを見通し、我が耳は全てを拾う!我が言葉には全てがひれ伏し、我が振る舞いは事象全てを操る!
我こそ世界、宇宙、次元!全てにおいて最強の―――え、何?これ!?魔方陣!?―――キタコレ!!召喚ってやつか!?ヤッホーーーー!これからは俺のいや、我のでんせ――――」
「―――――つの始まり!・・・・は?」
「え、えっと・・・」
え?誰?貴女は・・・・っ!?
すっごい!び、美人!!
え?何?あなたが俺を喚んだのかな!?
やったぜ!!
お姫様・・・・っぽくは無いね?何処ぞのご令嬢って感じかな?
むはぁ~。綺麗!
綺麗な金髪ロングに真っ赤なドレス!目鼻立ちスッキリの色白美人!ブルーの瞳と少しつり目気味のクールな感じも相まって、マジビューティフォーです!
『召喚』ときて、『美人』とかマジテンプレで嬉しい限りです!!
「あ、貴方があ、悪魔?」
悪魔・・・・・・・・あ~・・・うん。え?
ちょっと待て?これ、『悪魔召喚』なの??
な~んでこんな美人さんが『悪魔』を喚ぶんだ?普通『勇者』とか『英雄』とか『救世主』とかさ?意表を突いても『天使』とか『神』じゃない?なんで『悪魔』?
ん?ってことは俺ってば『悪魔』として喚ばれたってこと!?まさかの悪役!?
「あ、あの?」
いや、まぁ、別に良いか?自分で「我は魔王」とか言ってたわけだし?
それと何で美人さんが悪魔を喚ぼうとしたのかだって、別に誰が何喚ぼうが勝手だよね?テンプレとしては美人が喚ぶの『勇者』や『救世主』だとは思うけど、人それぞれに事情はあるわけだし?
ただ『悪魔召喚』は怪しげなババアとか怪しげなジジイとかがテンプレ。だから美人に喚ばれた俺としては嬉しい限りです!
「あ、あの!」
「ん?」
あらやだ、ガン無視してた!ゴメンなさい!!
「ヒッ!」
・・・え?何故に怯えるの?
ま、まさか!?ただ見ただけでも不愉快になるとかですか!?クッソ!イケメンじゃなくてごめんなさいね!?
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・あ、あの?」
怯えながらも気丈に目を開けて声を上げる姿・・・・最高じゃね?
「・・・・・?」
くっそかわいい!
いや、違う。
綺麗です!
美人って何やっても様になるって本当なんですね。首をかしげているだけなのなマジで絵になる!
・・・・・・・じゃなくて!
「あ、あの、貴方様のお名前をお聞かせ願いますか?」
な、名前?
名前は
「・・・・・・・ん?」
「え?」
いや、え?ちょっと待って?
俺の名前って、何?ぜんっぜん!出てこないんですけど?え?は?マジ?意味わかんな・・・・・おぉ。これが名前?マジか・・・・・・ハハッ。
「我が名は【ルキフェル】・・・だ。」
「【ルキフェル】、様。」
あれれ?何故に偉そうな口調なの?
俺ってば普通に喋ろうとしたよね??
「ルキフェル様!どうかわたくしの願いをお聞き届けください!」
・・・ん。ん~。まぁ、そりゃそう来るよね?わざわざ召喚したんだから願いの一つや二つあって当然だよね?
でもね?待ってね?
俺ってさ?ただの中学三年生のクソガキなんだよね?特別な力を持った魔王とか妄想しちゃったイタイ奴だけど、そろそろやべーなーって気が付いて卒業記念に盛大にやらかしてる最中に召喚されちゃったただの一般人なの。
ドゥーユーアンドスタンド?
「わたしくしの願いを叶えてくれるのならば、わたくしのこの身、この命、如何様にもお使いください!」
な、なんですと!?
お、女の人が自分を好きにして良いとか軽々しく言っちゃ・・・・ホントに良いの?えへへ~。マジか~。どうしよう!まいっちゃったな~・・・って、だから俺!一・般・人!だから!!
俺に出来ることなんて基本的なパソコン操作とゲームと簡単な料理くらいで、あとは~・・・・・は?なん、だと!?
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
【ルキフェル】
『魔を統べし者』『深淵を纏いし者』
『魔王サタン』『大天使ルシフェル』
『堕天せし者』『堕天使ルシファー』
《全視》《全知》《神言》《創造》
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
あ~。うん、これってさ?俺の『ステータス』的なやつ?ってこと?
・・・・・・・・・なんかさ~。めっちゃ馴染みある感じするし、なんなら見たこともあるわー。
ハッハッハ。
問題は、これ、ホントに使える力なの?
先ずは俺的に一番気になる《創造》!
《創造》って言うくらいだから『想像』でなんでも出来るよね?
イメージは俺の足元からゆっくりと黒い炎が俺を包んでいく感じ!当然ながら地獄の業火であり全てを燃やし尽くす最強の炎!だけど俺にはノーダメージ!
おぉ!!!マジか!?!?
「キャ!!!」
おぉ~。そりゃ驚くよね?
でも大丈夫!オレ、アツクナイ。
次に!
黒い炎が俺を完全に包み込んだら服装チェンジ!
真っ白なシャツに真っ黒のパンツ。そして真っ黒のロングコート!所々に鎖のアクセをジャラリと付けて、コートの裾は白い炎の柄小さく入れて、袖と襟のふちは金色で装飾!
そして元天使の証の翼を生やして、堕天の証として黒く!
そしてそして何より大事なのは顔!
切れ長の鋭い目に眉。高い鼻筋に怪しげであり且つ色香を纏う唇。もう兎に角超絶クールでカッコ良く!
髪は超絶ロングの白髪!・・・・本当は白銀と言いたいところだけどキャラが被りすぎるからNG!!
ま、白も白銀もパッと見変わらんけどね!?
そうして・・・・・翼をバッ!と広げれば黒炎は消え去り、俺のこの凄まじき妄想スタイルが顕に・・・!!
「っ!?」
「良かろう。ソナタの願いを申してみよ。」
ムッはー!!俺ってば、かっくいい!!そして相変わらずの謎口調も相まってカッコいいぞ!オレ!
「・・・・ど、どうか、この地に!平和を!!」
・・・・・ワッツ?HEIWA?何故に??
「・・・・・平和、だと?」
「も、申し訳ありません!で、ですが、今この地は聖なる力により混沌の世になっているのです!
本来は平和と繁栄をもたらす聖職者が授かりし天の力。それをあの者達は、あろうことか私利私欲に利用し、大勢の者達を苦しめている始末・・・・。彼の者らを罰するには神や天使のお力が最適であることは重々理解しておりますが、その力は彼の者らの得意とするもの。なれば、彼の者らとは真逆の力でもって罰を与えようと愚考し、お喚びいたしました。
・・・・・どうか、どうか!お力添えを!!」
うん。まぁ、そんなにビクビクしなくても良いんだよ?俺だってただの人間・・・・人間だよな?多分。色々と変なものが書かれた《ステータスプレート》?的な奴が見えて、更に《創造》だと思われる力が使えるけど多分人間だよ?だから怖がらないで?
それにしても聖職者、ね。あいつらマジ厄介だよね?
いや、真面目でまともな人は本当に凄くいい人なんだろうけどさ?でも、やっぱ糞みたいな人が多いイメージがあるし、またその糞具合が最悪なイメージもあるよねー。わかるー。
わかるよー。・・・・・そろそろ頭上げて?
「まぁ、良かろう。
契約を交わせば、我が力はソナタが望むままに振るう事になる。その結果この地にどの様な結果をもたらそうとも我には関係の無いことだ。」
「・・・・・・あ、ありがとうございます!!」
呆けた顔も、その後の感極まった顔も美しい!
こ、こんな美人さんが俺のじ、自由に・・・・!!
エ,エヘヘヘヘヘ。
翌々視たらスタイルも抜群だし、尚良し!
さぁ~て!やったるで!!!
「ソナタ、名は?」
相変わらずの口調・・・。
まぁ、普通に話そうとしても緊張で話せないけど!
「【リリス・ルジェント】と申します。」
【リリス】、ね?
これも何かの縁か?
一説にはルシファーが堕天して初めて出会ったとか産み出したとか言われる悪魔が【リリス】何だよな。嘘か本当か知らないわからないネット情報だけど!もはやどこでそれを見たのかすら覚えてないけど!
「『我【ルキフェル】は【リリス・ルジェント】と契約を成す。対価として我は【リリス・ルジェント】の全てを貰い受ける。』
契約に不服がなければ己の名と承諾の言葉を。」
「わ、わたくしは【リリス・ルジェント】!
【ルキフェル】様との契約を望みます!」
うっしゃー!演出は任せろ!
「良かろう!ここに我とリリスとの契約は成った!」
翼も両手も盛大に広げて黒い光って言う矛盾の塊を周りいっぱいに放出!!ついでに黒い羽もヒラヒラと舞わせちゃう!!
それを辛うじて見えるリリスの首の少ししたの部分へと集めてーーー・・・・・刻印しようとしたけど俺にはデザイン力がなかった!ど、どうし・・・あ、あれ?
「これ、は!?」
なんか勝手に紋章が出来てるー!
「あ、【悪魔神】の紋章――――!!」
あ、悪魔神?・・・・サタン的な感じですかね?
「あ、貴方様は・・・」
「わ、我が名は【ルキフェル】!
あらゆる魔を統べ、深淵を纏いし者だ。」
こ、ここで!ニヤリと軽く口角を上げる!!
「っ!?」
ど、ドや?カッコ良かろ??
・・・・・・・こんなんで良いのだろうか?
「お、畏れ多くも御身と契約を交わせた事。存外の喜びでございます。」
ホッ。良かったようでございます!
「こ、今後のお話は明日、という事でよろしいでしょうか?」
そんなにビクビクしなくてもよろしいのですよ?
「うむ。」
「で、では、本日は既に帳が落ちて御座います故、お休みにいたしますか?」
「うむ。」
それな。ほんと言うと眠いんですよね?
喚ばれたときももう夜中だったし?ってかここ異世界で合ってる。よね?
「で、では、どうぞこちらへ。」
行き先の方向を掌で示すリリスさんの振る舞いはとても優雅で・・・・何度も言うけど、美しい!
さて、リリスさんと言う芸術を鑑賞するもの非常に魅力的だけど、案内をしてくれようとしているのにそれを無視する訳にもいかない。取り敢えず翼だけは消しちゃって、レッツゴー!
「この屋敷は差程広くはありません。御身をお迎えするには格式が足りておりませんが、どうぞご容赦下さい。代わりとは言えませんが、身の回りのお世話は不自由しないように努めさせていただきます。」
「そうか。だが、我はその様な小さい事には拘らん。貴様の思う様にするが良い。」
口調的に『貴様』とかって呼んだ方が良いのはわかるんだけど・・・明らかなこの《魔王仕様》の口調どうにかなりませんかね!?女性には優しくしないといけないってお婆ちゃんが言ってたのに!
にして、『格式が足りない』って、さっきの部屋にしてもこの廊下にしても、絨毯とか所々に置いてある調度品とかすんげぇ高そうで怖いんですが?
「ご配慮、痛み入ります。
―――――――こちらがお休みいただくお部屋です。・・・何か御用はありますか?」
んー。・・・無いな。ってか、必要なものは
「必要ないな。」
「そ、そうですか。
――――――――で、では、先にベッドでお休み下さい。」
ん?
「あぁ。では、な。」
「は、はい。」
ガチャリとリリスさんが開けてくれた部屋へと入れば、あらまぁ、なんて事でしょう!
壁には数点の絵画。
等間隔で壁際に配置された見事な花瓶と花々。
ベランダから見事に作られはめ込まれた無色透明なガラスを通して降り注ぐ柔らかく優しい、しかし僅かな月明かりが部屋を照らしている。中央に鎮座する豪奢でありながらも品の良いソファーと月明かりをテラリと反射する光沢のあるテーブル。
部屋の入り口の対角線の奥には、またまた豪奢ながらも品のある天蓋付きのベッド。
うん。
一庶民の俺には勿体ないくらいのお部屋であります。思わず解説しちゃうくらいお部屋です!
「では、失礼します。」
「―――――――あぁ。」
うっわー。俺、寝れるかな?
ってか、俺ってば流れ流され流されて今ここに居るわけだけど、どう言うことなんだろうか?
・・・・・今更だけど。
ここは異世界?
それとも地球のどこか?
わからん。
でも、【ステータス】?っぽいのとか見えるし、何より《創造》っぽい力も使える。それを考えると地球じゃないよね?
いや、可能性としては別に有り得なくはないんだけど・・・・。
他の力でも使って調べてみようかな?
力の確認も出来るし、情報も集まるしで、一石二鳥じゃん?
では、早速。
《全知》!
・・・・・・って、うっわー。マジですかー。
うん。
ここは【カースント聖教国】。はい、知らない国です。日本じゃありません。
そして、この世界、と言うか大地は【エランドュール】。はい。地球じゃありません。
うん。見事に異世界だ!
そんで、まー、この国、と言うかもう大陸全体だね?保々。他の大陸は至極全う、普通みたいだけど、この大陸は終わってますわ。
いや、もう、この国が教え広める【ガゼント教】。唯一神【ガゼント】を崇める宗教で、大まかな教義は『皆協力しよう』とか『時と場合には競争が必要』とか、『命は大事に』や『殺生は控えよう』とかだ。なのに、今現在阿呆どもが教義を都合の良いように変えまくっていて、自分達を崇めて貰うのに『神に選ばれし者を称えよ』とか、下手に教養や技術を手に入れて今の体制を壊さないように『競争は悪である』と決めつけてたり、極めつけは『神に選ばれし者以外の命は礎』とか訳のわからんことを言ってる。
うん。言葉が出ないとはまさにこの事。
これは――――――さっさと、この【ガゼント教】か【カースント聖教国】をプチッと潰さないと激ヤバだよね。
いやはや、スゴいね宗教。
そして、それよりも更に更にめっちゃスゴいのが《全知》だよ。
マジかよ。知っちゃったよ!わかっちゃったよ!
んで、あとは、《全視》と《神言》、か。
《全視》は、―――――――まぁ、そんな感じだよね。うん。見たいものが見れるわ。壁とか距離とか関係ないみたいだね。スゴいね!
問題は《神言》。
神の言葉?ってことだよね?
何それ?
うーーーーーーん?あ、《全知》で調べられるのでは!?
えーっと、これは関係ない。これも、これも―――――おっと、これだ。
フムフム。ほうほう。へぇー。
うん。やべぇヤツだった!
『コンコン』
ん?
《全視》!!
あら、リリスさん?
お着替えして来てどうしたんでしょうか?
と、と言うか・・・・うっすいネグリジェですね!?最早殆ど裸と言えますよ!?どうしたの!?
「どうした?」
「っ!?は、入っても、よろしい、でしょうか?」
え?その格好で入ってくるの!?
いや、嬉恥ずかしなんだけど!ちょっと待って!?あなた様のお陰でマイ☆サンが臨戦態勢で、とてもじゃないけど女性にはお見せできません!!男に見られるのはもっと嫌だけど!!
と、取り敢えずベッドに避難!天蓋が俺の尊厳を守ってくれる!はず!
「構わんぞ。」
「し、失礼します。」
お、おうふ。
《全視》オフしてない!もう、ね?目に毒だよ!?オフだオフ!!
「どうしたのだ?」
「わ、我が身にお情けを賜りたく・・・。」
・・・・・・・・・・・・・・・は?
「し、失礼します・・・」
え!いや、ちょっ!?
何でベッドにまで入ってきてんの!?
「る、ルキフェル様。どうか、お情けを・・・」
えっ・・・・と、つまり、そゆこと?
「ルキフェル様。」
そ、そんな潤んだめ、眼で、み、見られ、た、らーーーーーーー!!!!
◇◆◇◆◇◆◇◆
聖職者としてあるまじき行為を重ね、この世を絶望へと叩き落とした者達に鉄槌を下すべく力を求めた。
そして、わたしくしは悪魔の力を借りる事でそれを成せると確信した、までは、良かったのですが・・・・。
まさか、遥か昔から語り継がれる創造神と両極を成す悪魔の神を喚ぶことになるとは・・・・流石に想像もしていませんでした。
「して、先払いを受け、一夜明けた訳だが・・・・どうするのだ?」
お喚びしたのが夜だったこともあり、行動は明日からとした昨日。
悪魔の、それも悪魔神の機嫌を損ねる訳にもいかないと考え、この世の多くの者、特に業腹ではあるけれど彼の聖職者達が強く求める我が身。それを早急に捧げたさせて戴いた。
ルキフェル様はわたくしを優しく、まるで繊細で薄いガラス細工を扱うかの如く触れ、愛を囁き、我が身を愛して戴き、この身は存外の喜びと幸せを感じることが出来た。それはきっとルキフェル様も同様に、と思うのは不敬ではありますが、多少はそのお心を満たすことが出来たのでしょう。その証拠になるかはわかりませんが、起床して早々に今後の事について尋ねて来られたのは少なくとも不快なお想いはしていないと思っても良いでしょう。
ふとパチンと指を鳴らした音が響いた。
それだけで、ルキフェル様御自身の身体のみならず、ベッドや、我が身まで清めるその様子は思わず目をそらしてしまう程に様になっており、まるで物語の一場面かの様な、一枚の神聖な絵画である様な気がしてなりません。
「ま、先ずは、御身へと今のこの世界の説明をさせて戴けたら―――と、思っております。」
まだまだ中天とは言えない朝の光ではあるけれど、昨夜より確実に明るい空間。そこに急速に恥ずかしさを覚え、胸元を夜具に抱き寄せてしまう。
「・・・・その必要は、ない、な。
我は《全知》。流石に人の心内までは知らぬが、それでもこの世の事象など知らぬ事はない。」
そう口にするルキフェル様の口元がニヤリと僅かに笑みを作り、そして―――――
「大幅に時間を短縮出来るようだ。
ならば――――――」
怪しく光る眼がわたくしを捕え――――
「今はまだ、存分に、そなたを愛でよう。」
わたくしは光に呑まれてしまいました。
◇◆◇◆◇◆◇◆
・・・・・・・・・俺はもう、死んでいる。
―――――――え?なに?『愛でよう』って?『存分に』って、何?
正気に戻ったらベッドの隣でスースー寝息を立てるリリスさんが・・・・!?待って!?本当に意味がわからないぞ!?
あれって本当に俺か!?
き、昨日の夜は理性を失いそうな程にリリスさんが魅力的でヤバかったけど。持ち前のビビり根性と童貞的不安パワーでどうにかなった。口調は相変わらずだったけど!
お嬢様っぽいリリスさんは当然ながらこんな夜のお付き合いは初めての事で・・・・ちょー嬉しかった!――――じゃなくて!必死な俺に同じく必死なリリスさんはこちらの様子には気が付かないでいたと思う。
そんなこんなで脱☆童貞!
最高の夜だったです!
の、翌朝にはプレイボーイplayを決めるって何か俺、おかしくない?あんなメロドラマに出てくるイタイケメンみたいなセリフ・・・・。
―――――――――――ま、いっか!
別に何か困るわけでもないし?リリスさんもまんざらじゃない様子だったし!大丈夫大丈夫!問題なし!
さて・・・・・・腹、減ったな?
なんか《全知》によると俺ってば不眠不休で行動できて、不老不死で、食事すら必要ないらしいんだよな。うん。何かそんな設定考えたことあるなー。
でも!気分的に?腹減った!気がする!
別に睡眠も食事も必要ないってだけで取っちゃダメって事じゃないしやりたいようにやろうとも!
って訳で《創造》でイメージを固めて―――――パチンっと指を鳴らせば、あら不思議。少し離れたところにあるテーブルの上にモーニングセットが登場!
イメージ通りなら甘さを控えたフレンチトーストにフワッフワのスクランブルエッグが二皿。高級ハムを薄切りにしたやつが三枚ずつ。そんでフレッシュなレタスとキュウリ、プチトマトのサラダ。ドレッシングはオレンジドレッシング!これが一番!異論は認めるけど変更はしない!
最後にコンソメスープ。
あ、飲み物忘れてたわ。
俺はホットコーヒー。勿論ブラック!で良いとして、リリスさんは・・・・うん。聞けば良いか。
「おい。起きろ。」
「・・・・ん―――――んん?」
お、起きた。
「随分と遅くなったが、おはよう。」
「・・・・・っ!?も、申し訳ありません!」
・・・何が?
「わ、わたくしの方が長くお休みしてしまうとは・・・!本当に申し訳「構わん。」あり――――。」
「我は寛容だ。勿論踏んではならぬ、越えてはならぬ『線』と言うものはあるが、私生活においてその『線』を踏むことも越えることもない。
つまり、気にするな。と言うことだ。もう少し気持ちを楽にしろ。」
うん。相変わらず口調は絶好調。
『そんなこと気にしないで。そんな事で怒ったりしないから』って、簡単で短い言葉が何故ああなる?
「か、寛大なお言葉ありがとうございます!」
そんなに俺って怖いの?
そりゃ多少俺が考える魔王っぽい感じに想像してるけど――――これは後で鏡で改めて確認する必要があるな。
う~ん。もしかしたら俺が想像したのじゃなくて見るも無惨な不細工になってる可能性すら・・・!?ちょっ!?もしそうだったら昨夜のあれやこれやら、今朝のあれもそれも大事故どころか世界滅亡レベルの災害の可能性が・・・・・・・こうしちゃおれねぇ!後でなんて生易しい事言ってる場合じゃないぞ!今すぐ確認せねば!!
パチン!っとな。
フム。―――――――あらやだイイオトコ。
「あ、あの?何故鏡を?」
「ん?気にするな。少し気になる事があっただけだ。」
「さ、作用で御座いますか。」
う~ん。少しキツメと言うか冷たい印象は受けるけれどそんなに怖い感じは、しない、よな?・・・・謎だ。
「まぁ、良いか?それよりも食事を用意した。身支度は「パチン」これで良いだろう。」
あれやこれやとか汗とかキレイさっぱり!口内も歯磨き要らずでスッキリ!服もラフで簡素な物だけどバッチリだ。
「あ、ありがとうございます。―――まぁ。素晴らしい肌触りです。さぞ良質な物なのですね。感謝いたします。」
んー?適当に日本で着てた感じで《創造》しただけなんだけど、な?そんなにこの世界の服は品質が悪いのか?《全知》で知ろうと思えばわかることだけど、そんな事のために態々力を使うのもなぁ。
めんどくさいし。
「さて、食事だ。」
おぉ。すんなり手を差し伸べてるぞ!俺!
「クスッ。エスコートまで出来ますのね。流石は―――と言うべきでしょうか?まさか御身に手を引いて貰える日が来ようとは。嬉しい限りです。」
ん~。何かこの人今回思い立って悪魔を喚んだって言ったけど、前々から悪魔を崇拝してたような感じがする。【悪魔神の紋章】とかもすんなり受け入れてたし?何なら喜んでいた節すらあるし?俺にはあっさり身を許したし・・・・。まぁ、別に良いんだけど。
「まぁ!見事な食事ですね!」
「別に普通の食事だ。
リリス。飲み物は何が良い?」
「ルキフェル様は何をお飲みに?」
「ブラックコーヒーだな。我は食事時はこれと決めている。」
「こー、ひー?とはどんな飲み物でしょうか?」
「黒く苦い飲み物だな。一般的には砂糖かミルク、若しくはその両方を入れて飲みやすくする。我はその飲みやすくするなる物の両方とも入れんブラックコーヒーだ。」
ミルク?砂糖?ハッ!?意味わかんねぇ。コーヒーはブラックで飲んでこそのコーヒーだろうが!?異論は認めます。
なんならクッソ不味いコーヒー。具体的には長時間煮詰め続けたゲロ苦コーヒーと専用に開発されていない普通のコーヒの粉をぬるま湯で入れた意味わからんくらいに酸味のあるコーヒーには俺もミルクくらいは入れる。どうにもならんくらい不味いときは砂糖も入れる。
だ・け・ど!
今回のは『最高の物』をイメージして《創造》したのだ!不味いわけがない!よってブラック一択!!
「コーヒーの名を知らぬと言うことは飲んだ事がないのだろう?ならば止めておけ。無難に水にでもしておくか?」
「そう、ですか。残念です。
では、水をお願いできますか?」
「良かろう。」
なんかさ?すんげぇ偉そうな口調で喋ってる俺がやってる事って『召し使い』のそれっぽくね?口と行動が一致してませんな!?
「ありがとうございます。」
「構わん。我は今現在貴様と契約を交わし、貴様の為にこそ力を使うのだからな。」
おう。そうだな!・・・・って、何故か自然と出てきた言葉に納得したけど、発言者俺だし!どう言うことだよ!?
「では、わたくしに糧を授けていただいたルキフェル様に感謝を――――――」
・・・・食前の祈りってやつかな?
俺はしませんけど!おぉ!美味い!
「――――!!」
んふ?どうじゃ?美味かろう?
「これは――――まさに体に悪いくらいに美味しいですね。驚きました。流石は、ですね。」
ここは少し微笑んでクールに決めるべきか!?
「まぁ!お水も大変美味しいです!これほどの物、わたくし飲んだ事ありません!」
え?水でしょ?水に味って――――いや、ちょこちょこ小耳には挟んだことあるけど、正直理解できないんだよね。水は水でしょ?って感じ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「どれもこれもがまるで天上の食べ物でした。」
つい思い出してしまうルキフェル様が御用意してくださった朝食―――と言うよりも時間的には昼食となってしまった食事。
表面はカリリと焼き目の付いたパン。
口に含めば表面をサクッと割くような軽い歯応え、そのあとに続くしっとりと柔らかく蕩けるような中身。ほんのりと僅かに甘いそのパンは噛む度にサクサクとそしてとろとろと口を楽しませてくれる。
脇に添えられた卵と薄切りのハム。
コロコロと無数に転がる卵は驚くほど軽く柔らかで、ハムは適度な弾力で歯を押し返してくる。そのどちらもが僅かにしょっぱさを含んでおり、少し甘いパンとの相性は抜群でした。
そして今朝取れたばかりと言わんばかりに瑞々しいサラダ。そのどれもがそのままでも大変美味しいものでした。ですが、あれはいけません。
あのサラダにかけられた黄色いソース。
あれは間違いなくルキフェル様が直々にお作りくださった事からもわかるようにまさに『悪魔のソース』でした。
果実をサラダのソースに使うなんて―――――あぁ。思い出しただけでも口の中が蕩けそうです!わずかな酸味と甘味、そして柑橘類独特の清涼感!――――はしたないことにもう一皿追加して貰いました。ルキフェル様が落胆なさっていなければ良いのですけれど―――。
スープも絶品でしたね。
優しい甘味と複雑な旨味。一体どうやればあんなスープが出来上がるのか・・・・・おそらく人の手ではあの様には出来ないでしょうね。
今から夕餉が楽しみ――――「コンコン」
「――――ふぅ。どうぞ。」
「失礼します。リリス様。」
さて、気持ちを切り替えましょう。
「早速ですが、報告をお願いします。」
「はい。
この地方の教会に訪れる予定のガゼント教の大司教ゼートムントと大司教補佐レレイア。更に護衛の教会筆頭騎士ズーウルと以下騎士100名が予定通り明日の昼頃に到着するようです。」
予定通り、ですね。
この辺りは流石と言えるでしょうね。何が起こるかわからない長距離の旅路にも関わらず、予定に狂いはないのですから。
「明日の晩餐会は予定通りで構いませんか?」
「えぇ。構わないわ。」
明日の夜。
あの者共には神の―――いえ、悪魔神の鉄槌を下す。
「で、ですか!人手がありません!お嬢様とワタシただ一人!どの様に策を練ろうとも無謀です!」
「そうね。ですが、安心なさい。
―――――今日までご苦労でした。」
「・・・・は?」
「ナナルシェ。暇を告げます。・・・・貴女は故郷に帰り、その才で家族をお守りなさい。」
我が家に残る最後の家臣。
代々我が家に仕えてきた彼女との別れ。幼き頃よりわたくしの側を離れなかった貴女が居なくなるのは寂しいことですが・・・・・。
「・・・・り、リリス、様?」
「今まで本当にありがとう。貴女の事は決して忘れないわ。」
「そ、そんな!リリス様お一人でどうすると言うのですか!?」
「貴女が心配してくれる気持ちは凄く嬉しいわ。――――――ですが、貴女は当家ともわたくし個人としても先程関係は無くなりました。貴女の質問に答える義務はありません。早々に立ち去りなさい。」
「っ!?」
わたくしなりの精一杯の虚勢。
そしてこれは、わたくしがわたくしを守るために必要なことです。わたくしを本当に思うのなら、思ってくれるのなら・・・・・どうか、このまま黙って行って頂戴。
「・・・り、リリス、様の、お心遣いに、感謝、します!」
「・・・・。」
『心遣い』など―――そんな高尚なものではありません。ただ、わたくしの側に居ることで貴女を含め、これまで仕えいた多くの者達に不幸が舞い降りることになるでしょう。
わたくしはそんな行いをこれから行うのです。人に批難されるのは間違いありません。何せ、世のため人のためと言いつつ『悪魔』の手を借りるのです。
だからこそ。わたくしは一人で向かいます。
わたくしと共に行くのは悪魔であるルキフェル様だけ。きっと。ルキフェル様ならばわたくし一人であろうとも問題はないはずです。
人間としてはわたくし一人。
そして、悪魔としてルキフェル様お一人。
一人と言いつつルキフェル様が一緒と言うのは情けなくはあります。それに唯一心に引っ掛かるのはルキフェル様を巻き込んでしまうことですが―――――。
「さようなら。ナナルシェ。」
「さようなら、でございます。お嬢様。」
涙を流し、ここを去る貴女が、どうかこの先幸せでありますよう―――――「パタン」短い時間になるかもしれませんが、一人、この屋敷から祈っています。
「――――――――我が言うべき事では無いが」
「っ!?」
「良いのか?あの者は貴様が殊更大事に思っている者だと見えるが?」
こ、この部屋にはわたくしだけのはずなのですが!
?
「貴様が望むのならば、あの者を外敵より守るくらい我にとっては造作もないぞ?」
「る、ルキフェル、様?
・・・一体いつこの部屋に入って来たのですか?」
全く気配が無かったのですが・・・・しかし、わたくし程度の、高々人間としては多少優秀と言える程度ではルキフェル様のそのお力の前では例えどんな事でも無意味となりえるのでしょうけど・・・。
「つい今しがた、だな。
尤も、貴様の様子は常に見てはいたが。」
見ていた?
今しがたこの部屋に訪れたと言うのに見ていた・・・・?離れた場所も態々赴くこと無く見ることが出来る。と言うことですか。
「・・・不愉快であったか?」
「いえ!とんでもございません。
ルキフェル様なれば、例えどの様な時であろうとも構いません。」
ルキフェル様には何一つ隠すべき事も、隠したいこともありませんし――――さ、流石に入浴中やお、お通じの場はご遠慮願いたいですが・・・。
「そうか。――――それで、良いのか?あのナナルシェと言うの娘の事は。」
「そう、ですね。
――――あの者に限らずわたくしの為、この家の為にと尽力してくれた者達全員が、心配でなりません。それが本心です。ですので、心の奥底から『構いません』とは、口が裂けても言えませんが。・・・これが恐らくは最善だと、思っております。わたくしから離れようとも危険なのはわかっていますが、わたくしの側に居るよりかは断然安全でしょうから。」
「そうか。」
フワリと羽が舞っている気がした。それは気のせいなのはすぐに気が付いたけれど、その時にはもうルキフェル様のお姿は消えていて――――知らず知らず堪えていた涙が流れていた。
こんな情けない姿を目の前で御見せする事にならず安堵する気持ちと、一人となってしまった心細さ。
情けない上に厚かましくも我が儘な己の心に思わず苦笑が溢れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
やるべき事があると別れたリリスさんの顔付き。それは何かを必死に堪え、怯え、葛藤するようなものだった。
そんな顔に気が付いてしまっては一体今から何をするのかと気にならないはずはない。
そんな浅はかな想いで覗いたリリスさんとナナルシェさんのやり取りは悲しい物語を見ているようで、でも実際に今現実で起こっている悲劇で――――、我慢できずにリリスさんへと声をかけに行ってしまった。
リリスさんはナナルシェさんの安全を、ナナルシェさんはリリスさんの心配を。お互いがお互いに想い合うその関係は羨ましいと思える。
この二人をどうにかハッピーな状態にしたいとは思うものの、所詮まだまだ人生の経験が浅く、頭の出来がそう良いとは言えない俺には名案は浮かんでこない。
一人、部屋で声を圧し殺し、涙を止めようとするリリスさんと、涙を拭きもせずに屋敷に背を向けるナナルシェさん。
二人のそれぞれを眺めていれば――――
「クソ野郎どもは絶対にぶっ潰す―――!」
俺の心にはこれまで生きてきた中で感じたことがない暗く深い怒りが沸き上がっていた。
明日、晩餐会を行う予定で、そこでリリスさんは何かしらの事を成そうとしているのだろう。先ずはそこで徹底的に、そしてリリスさんが想像している以上に完璧に事を成そう。
きっと、リリスさんが笑える日が来る。
きっと、ナナルシェさんも―――。
明日が世直しのスタート。なんだな!
さて、先ずは――――「パチン!」。
ちょっと気持ち的に気合いを入れて、ついで指にも気合い。と言うか力を込めて鳴らした指は今までで一番の音量。それに、心なしか清んだ音だった。
「――――
「――――
「――――|マスター!どうぞご命令を!」
「今この屋敷に我以外に娘がいる。その者の周辺に――――いや、元周辺に居たもの達を守護せよ。だが、表だっての行動は許さん。が、我のこの命令よりもその者達の身と心の方が重要。必要とあらば表に出ることも許す。あらゆる危険、あらゆる悪意からその身と心を守れ。
―――――失敗は許さん。」
「拝命致しました。」
「心得ましたわ。」
「わかりましたぜ!」
闇から生まれた三人。
ん?悪魔だから三体と言った方がいいかな?ま、どちらでもいいけど。
それぞれに特徴を与えて創り、見分けが付きやすいようにしておいたお陰で、目の前で頭を垂れている三体がいるこの風景は心にクルものがあるね!
さてさて、《全視》を使って――――よし。順番に確認しましょうかね。
黒髪、短髪でイケメンメガネの執事風の装いで、悪魔的な特徴は三体の中で一番穏やかな『金眼』。
頭が良く何かしらの作戦の立案や雑事の処理、それから俺に代わって配下を纏めることが出来るように創った。それはキチンと《識者》としてステータスに現れている。
更に《天眼》もあるな。『金眼』と特徴があるのでそのついでだったけど、《識者》にとっても有用だろうから問題ない。効果も『視認することで、対象の全てを理解する能力』との事で無事に創れたようで安心。
戦闘力も最高の身体能力と暗殺系統の最高位として《
次に紅一点。深紅の長髪で勿論ながら美人の悪魔。
背中から大きな蝙蝠の羽と悪魔っぽい尻尾。それから見えにくいけど牙を与えた。設定として『バンパイア』を考えての事だったので、《死生者》としてステータスに現れている。要はアンデットってことだな。まぁ、別に何か不都合や弱点がある訳じゃないから良いだろう。
死体を使った《配下作成》と自分の体を霧に変える《霧化》もある。よし。
身体能力としては最弱だけど、人間としては軽く辞めているので問題はない。《血液操作》で遠距離も近距離もそつなくこなせるだろうしね。
あと何故かグラマラスなスタイルをしているのは何故だろうか?俺、別にそんな想像してないはずなんだけど・・・?
最後。
おバカで猪突猛進。でも命令は絶対厳守する戦闘担当。姿は完全に二足歩行のライオン。手や足はちゃんと人間っぽく出来てる。
普通にこのままでも十分に驚異的な身体能力は与えたつもり。三人で戦わせても俺の想像通り《創造》されているなら一番強い。更に《獣化》でその身を完全に獣の身体へと変化させ、その身体能力を爆発的に上昇させる。でもおバカ。
男―――オス?としては羨ましい限りの筋肉。『ムッキムキ!』ではなく『ムキムキ』くらいなので変な気持ち悪さもないし本当に羨ましいくらい。 でもおバカ。あと羨ましいけど今の体を変えるつもりはない!
「貴様らには十全に力を与えたつもりだ。頼んだぞ?」
三人ともが頭を下げてからこの部屋を出る。うむ。その忠誠心、良いよ~良いよ~。いや~やっぱり誰かから敬ってもらうのって気持ちいいな~。初めての経験だし、こう、なんか、タギル!
さてさて、俺は夕食まで何もすることはないし――――どうするかね?
◇◆◇◆◇◆◇◆
ふぅー。
漸く、一息着けました、ね。うっ、ゆ、油断するとまた、涙が・・・・。
こんな事では今後の、それどころか今夜の事でさえ上手く出来ません。今一度気構えしなければいけませんね。
気が付けばもう予定の時間まで幾ばくもありませんね。身支度しなければ。
少しばかり我が身の安全に不安がありますが―――。
「我が身を守るための物が欲しい、など。」
高望みしすぎです。
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
「ようこそお出でくださいました。」
「これはこれは、態々当主代理にお出迎えいただくとは、このゼートムント感動の極み。のう?レレイア?そなたもそう思うだろう?」
「そうですね。リリス様。存外の歓待、痛み入ります。」
相変わらず醜悪ですね。ゼートムント大司教は。その顔付きからして不快。悪質な思考が透けて見えるようですし、その体は一体何を詰め込んでいるのやら・・・・まるで巨大な水袋の様。一つ一つの動きは大袈裟ですし、じゃらじゃらと品のない装飾品も―――――本当に不愉快です。
それに相反していつ見ても綺麗に磨かれた肌と金糸の様な細い髪。整った顔立ちとわたくしと同じくいささか乏しい胸元以外は見事な身体です。何故この方はこんな
「とんでもございません。わたくしの出迎え一つでその様な――――どうぞ、こちらへ。我が家最高のおもてなしを準備してございます。」
流石に無防備―――と言うことはありませんか。
こんな世の毒にしかならない者であってもガゼント教会にとっては重鎮、同じ地位は三人しかいない『大司教』様だ。
やはり暫くは油断させるべく機会を待つべき、でしょうね。
「うむうむ。参ろうぞレレイア。」
「はい。」
ゼートムント大司教とレレイア大司教補佐。それから数名の護衛を引き連れつつの案内は覚悟はしていたつもりでしたが、とても、とても苦痛なもの。
その原因は不愉快な言葉の数々。
我が家を軽んじる発言から始まり、国を、世を作る民達から搾取し、贅沢三昧の毎日を送っているにも関わらず世の中の不平不満、罵詈雑言を垂れ流す。そして毎度毎度飽きもせずに、繰り返しの床へと誘う言葉。
我が家の事を罵る前にご自分の言動を返り見てはいかがでしょうか?
民の、多くの者達を不幸にした人が何故不満を漏らす必要があるのでしょうか?
せめて甘い言葉の一つや二つくらいは学んでから出直すべきではないでしょうか?
等々―――口には出せない、まだ出してはならない感情を圧し殺し、背後から纏わり付く不快な視線にも耐えながらの案内はわたくしの精神を急速に磨り減らしていく。
我慢の限界が見えてきた。一刻も早くこの者に鉄槌を―――そんな想いに囚われ始めた頃、漸く案内先へと辿り着くことが出来た。
丁度良い広さの部屋が無かったので仕方がないとは言え、何故こんな奥の部屋を選んでしまったのか・・・・。過去のわたくし自身を張り倒して差し上げたい気分ですね。
「此方です。少しお座りになってお待ち下さい。」
案内した先はわたくしの趣味とはかけ離れた、品性の欠片も感じることの出来ない豪華絢爛に
この部屋であれば
「ふぅむ。私は貴女がお相手くださるならいくらでも待ちますぞ?」
「申し訳ございません。わたくしにしか出来ないことが御座いまして、それが片付き次第御一緒致します。」
取り敢えずは貴方のその不快な視線から外れ、心を休ませなければ・・・・この先貴方の油断を待つ自信がありません。
「護衛の騎士の方々もおくつろぎ下さい。この屋敷ならば安全です。
とは言え護衛としては油断することは難しいでしょう。ですので、同室にて別途おくつろぎいただく空間を御用意してあります。そちらへどうぞ。」
「ふぅむ。仕方ないのぅ。おい護衛。
リリス様のご配慮ありがたく受けなさい。」
「リリス様。ありがとうございます。」
一つ礼をして、早々に辞させていただく。
扉を締め切り、一つ深く深く静かに息を吐き出す。それと同時に扉の取っ手を握った手に力が入る。
「(不快、不愉快!どうあってもあれは変わりません。いえ、今さら変わったところで許されるはずもありませんね。あれは民達を多くの者を貪る畜生。やはりどうあっても今夜、鉄槌を下します。)」
目指すはルキフェル様のもと。
早く、速く、はやく――――――――――
◇◆◇◆◇◆◇◆
「こんなものか。」
夕食、と言うかこの場合は・・・『晩餐会』とでも言えば良いのか?まぁ、そんな場でも不自然な物じゃないはず。
シンプルなダイヤのネックレス。
なんの宝石か知らんが青い宝石の指輪。
宝石は使わず銀と金のブレスレット。
ドレスも濃いブルーのものを用意。
「お待たせしました。ルキフェル様。」
「いや、ベストタイミングと言って良いな。」
本当にナイスなタイミングでございますよ?リリスさん。
「貴様の身を守るためのものを用意した。
ネックレスにはあらゆる『毒物』を無効化する。
この指輪には貴様の意思で盾を創り出す。逆にこの腕輪は不可視の玉を創り出し、飛ばすことで攻撃ができる。玉のサイズは自在だ。少しは練習でもしておくがいい。
このドレスには身体全体を保護する膜を張る。
今から行う事の前にこれら全てを着用しておけ。」
「―――格別なご配慮痛み入ります。」
ま、当然の保険だよな。
指先一つで思いのまま―――ではあるんだけど、油断することは当然あるし、何より・・・力を使うのが俺って言うのが今一信用できない。
ど忘れは当たり前、忘れ物も当たり前。おっちょこちょいだしすぐにパニクル。
うん。やっぱ大事だな。保険!!
「それとメイド達は必要ないのか?『晩餐会』も言うならば配膳なども必要だろう?我がやっても構わんが―――」
「そ、そんな!それは恐れ多い事です!
配膳などは確かに必要です。メイドが居るならば任せるのですが、わたくしがやろうかと―――。」
まぁ、そうだよね。
「ならば「パチン」コイツらを使うと良い。」
「っ!?」
「「「「ご主人様。ご命令を。」」」」
やっぱさ、必要でしょ?メイドさん。
「貴様らにはこの娘の指示にしたがって貰う。
貴様らにはメイドとして、従者として最高の知識、技能を与えた。存分にその力を振るうが良い。」
「「「「畏まりました。ご主人様。」」」」
「本当に、何とお礼を申し上げれば良いか・・・。」
そんな何度もお礼何て言わなくても良いのに。って言うか俺の力って見方を変えればリリスさんが俺に与えた力であって、しかも契約まで交わしてるんだからもっとリリスさんが好き勝手に使っても良いと思うんだよね?
「気にするな。それに契約を交わしたのだ。遠慮はいらん。もっと我を頼って良いのだぞ?
さて、あまり豚どもを待たせるのも悪い。貴様は着替えてこい。おい。二人程手伝ってやれ。」
「「畏まりました。」」
「貴様が着替えている間、豚どもの世話を二人。」
「「畏まりました。」」
「残りの一人は我が準備する晩餐の配膳準備だ。」
「畏まりました。」
よしよし。これで良いだろう。
「リリス。では我は豚どもの隣の部屋で待つ。貴様が望んだ舞台だ。怠るなよ。」
「はい。」
んじゃま、また、あとでってことで。
取り敢えずはあと準備するのは晩餐だけだ。豚は豚らしく残飯でも良いとは思うが、リリスさんの脚本通り進めるにはそれなりの晩餐が必要。
メニューは、っと。
前菜としてサラダを盛り付けたカルパッチョ。
次のスープに濃厚コーンスープ。
メインは仔牛のソテー。赤ワインソース添え。
最後にデザートはシンプルにバニラアイス。
主食はバターロール。日本人の俺としては断然ご飯をお勧めするところだが、リリスさんの話では口にしたことがないらしいしな。料理自体も料理名を聞いてもなんと無くしかわからないらしいので、主食くらいは馴染んだものの方がいいだろう。
ワインも用意しようとしたけど、それはリリスさんに断られたんだよな。『聖職者は禁酒。流石にわたくしが居る前では飲まないでしょう』だったか?リリスさんもわかっては居るみたいだけど、多分あいつら普段ガブガブ飲んでるよな?絶対。
うっし、確認終了。そして、部屋に到着。
「今から我が人数分の晩餐を用意する。配膳するに辺り必要なものを申せ。」
「畏まりました。では先ず――――」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「いや、はや、こんな素晴らしい食事は初めての事でしたな。うむうむ。私は今大変幸せを感じておりますぞ。」
「リリス様の雇う料理人は素晴らしいですね。」
「賛辞の言葉、大変ありがたく思いますわ。」
あぁ。幸せな気分が一気に霧散してしまいました。どれもこれもこの世ではどれだけ贅を凝らしても味わえないだろう至極の食事。口内から訪れる身体を駆け巡る幸せ―――それを・・・。
これもこの畜生のせい。本当に人を不愉快にさせる存在ですね。
「いやぁ。それにしても・・・グフッ。この屋敷の下女はグフッ。素晴らしいですなグフッ!」
っ!?
ほ、本当にこの下衆は・・・・!!っは!?お、思わずく、口調が・・・。
「リリス様は先程の様子を見るに本日は後気分が優れず、夜半の話し合いは出来ないようですね。で、あれば、グフッ。下女の一人を代わりに寄越して下さい。」
「・・・・・猊下。」
「ん?何かね?レレイア?」
我慢の―――限界、ですね。
「ゼートムント大司教――――いえ、ゼートムント。貴方はこの世界に不要です。」
「!?」
「・・・・・・・・あ゛?」
「貴方は、いえ、貴方だけではない。今のガゼント教は滅ぶべき『悪』です。貴方が本当に信徒であるならば即刻その首を差し出すべきです。」
「リリス様!?貴女何を!?」
「
はぁ。
「貴方が【神の子】?可笑しいですね。思わず笑いが溢れる程に。」
「リリス様!お気は確かですか!?」
ん~。やはりおかしいですね?
レレイアさんは本当にどうして・・・・?
「この!無礼者!!―――が・・・?」
「!?これ、は・・・?」
「どうやら薬が効いてきたようですね?」
「くす、り?わたし、には効かない、はず―――」
「心配せずともただ眠るだけです。どうぞ、安らかに・・・。」
・・・・・・・・・ふぅ。
「態々食事で眠らせずとも、我が眠らせれば良かったのではないか?――――今更だが。」
「わたくしもそうしたかったのですが、大司教ともなるとその身を守るために多くの魔法や道具を使っています。その内の一つに『連絡をする』道具あります。
これはごく簡単なやり取り『無事』『危険』の二つしか出来ませんが、登録者のみ使用できると言う強みがあります。」
「だとしても、それを誤魔化すくらいは我にとっては造作もないぞ?」
それは確かにそうなのです、が。
「ルキフェル様のお力を疑うわけではありません。ですが、より確実なのは本人に報告させることでしょう。無事に食事が終わってすぐに連絡していた様ですし。」
ルキフェル様のお力を疑うわけでは無いことは本当です。ですが、万が一、取り零しなどあっては困るのも事実。現にわたくしはゼートムント一人だけが持っていると思っていたこの道具。それをレレイアのみならず、護衛の騎士の一人にも持たせていました。
恐らくは命を狙われるのは日常なのでしょうね。ですから、ここまで警戒を強めていた。
「フム。まぁ、良い。我は貴様に言われるままにしか力は使わんからな。――――いや、使えんからな。」
「え?それは、どう言うことでしょうか?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
気が付いたのは隣の部屋で待機していたとき。
《全視》と《全知》で隣の出来事を見聞きしているとリリスさんよりも先に俺の方が限界になった。
「こんの下衆やろうが!?お前諸ともガゼント教を根絶やしにしてやる!!」となった訳だけど何故か一切の力が使えなかった。いや、『一切の』と言うのは語弊があるな。
《全知》や《全視》は問題なく下衆のクソ野郎どもを全部知ることが出来るし、見ることが出来た。だけど、その他の干渉、例えばてってり早く『殺す』とか、多少緩和して『呪いを与える』。もっと緩和して『痛い思いをさせる』等々どれもこれもが出来なかった。
「と言うことがあった。」
「それは・・・原因はなんなのでしょうか?」
おっと。下衆どもの介抱を頼んだメイド達も興味持っちゃった?
「申し訳ありません。ご主人様の強大なお力をもってしても干渉できない、と言うのは大変興味がありまして――――。」
ま、そうだよね。
メイド達に限らず先に創った三体の悪魔も俺への忠誠、と言うか本当に神の様に敬う対象になっているし、俺が出来ることの知識も理解している。そうすると当然ながら俺に出来ない事はないと思っていて――――。
そんな俺が『出来ない事』。
気になるよね~。
「我も『契約』を結ぶのは初めての事でな、知らなかったのだが、どうやら『契約』を行いこの世界に顕現すると【契約者】の許可がない限りこの世界に影響を及ぼす事が出来ないらしい。」
「――――そう、なのですか・・・。ですが、少しおかしくありませんか?
料理を出してくれましたし、装飾品やこのドレス、それにメイド達もルキフェル様のお力で生まれ出た者ですよね?これらは世界に影響を与える事ではないのですか?」
まぁ、それは俺も「何で?」とは思いました。
なので、キチンと調べましたとも!
「まず影響が我と貴様だけにとどまるならば特段制約はない。しかし、その他は貴様の許可が必要になる。あの下衆どもにも料理を出せたのは貴様から頼まれたからだ。これは『許可』と言える。
そして、身を守るために必要なもの、これはどうやら貴様が言葉を発したようだ。我自身はそれを聞いてはおらぬが、それが『許可』になったのだろう。」
「・・・そういえば―――。」
どうやら心当たりがあるみたい。
「最後にメイド達。これも遠回しではあったが貴様の許可があった。その為産み出せた。と言うわけだな。」
「あの『メイドは必要』と言う感じのお話の時、と言うことですね。」
「あぁ。」
いやー。こんな面倒な制約があるなんてね。気が付くのが遅いとは思うけど、まぁ、問題が出る前なんだからギリギリオッケーだろう。
「―――――そのような制約を一体
「『契約』と言うのはその契約者、今回はリリスと我の力でもって成される。つまり、我に枷を与えたのは我自身、と、言えるな。」
更に言うならば俺とリリスさんとが合わさった力だ。俺がどれだけ全力でその制約を破ろうとしてもリリスさんの力の分だけ力が足りない。という事でほぼこの制約が破られることはない。一応枷を無くせはするけど――――まぁ、別に困る訳じゃない。と言うかこれがなかったら今頃ガゼント教は「プチッ」とヤっちゃってるし。それはリリスさんが望むところではないはず。どうも俺の力で「はい、終わり」は納得できない様子。
「さて、次は外で待つ護衛の騎士達の対処か。」
「えぇ。彼らの無力化と拘束。お願いしてもよろしいですか?」
特に労力が必要なものでもない。指パッチンではい終わり、だ。
それでも一応変な道具類を所持していないか確認して――――うん。大丈夫みたいだな。
「パチン」っと、終わり。
「自意識を一時的に奪い、屋敷の部屋の一室に行くようにした。その後は互いに互いを拘束。そのあとに意識を完全に失う。我が許さぬ限り意識を取り戻すことはない。」
「ありがとうございます。」
さて、後は。
「本当に良いのだな?――――我が直接手を下した方が手早くかつ確実に殺せるぞ?」
「えぇ。構いません。ルキフェル様には『選別』と絶対に抜け出せないような拘束だけをお願いします。」
ま、リリスさんがそう望むのであれば―――俺としては問題ない。
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