さよなら地球、ハローワールド:the end of earth

にゃ者丸

プロローグ


――――――ある日、世界は終わりを迎えた。


 何の予兆もなく、天使がラッパを吹いた訳でも、大規模な異常気象が多数確認された訳でもない。

 予言者を名乗る占い師が、世界の終焉を予測した訳でも、決しておおやけにされない科学チームが未知の現象を観測した訳でもない。

 それは、まさしく突然の出来事だった。


 世界が、大空を覆う宇宙と星を隔てる壁が、まるでガラスの如く割れた。そんな詩的な表現が似合う程に、その光景は神秘的な美しさを宿していた。


 果たして、その光景を世界中の誰が確認できた事だろう。意識して、認識できた事だろう。現実にはあり得ないとされる〝超能力者〟や〝魔術師〟と言った、非現実的な存在が本当にのなら……その光景を目の当たりにする事が、出来たのだろうか。


 事実がどうであるのか、それは誰にも――――分からない。





・・・

・・・・・

・・・・・・・





 咆哮が轟いた。獣の咆哮ではない、噴火や轟音といった自然の咆哮だ。

 天をも振るわす大地の鳴き声だ。


 数多の罅割れた人の認識できぬ空間から、言葉通りに大地の欠片が。人々の目には、まるで空中に突然、大地か巨大な岩塊が現れたように映っただろう。

 脳が認識に追いつけず、空中から迫る大地を人々はぼーっと視界に入れたまま動けず、漸く認識が追い付いた時には…………既に大地の下敷きになっていた。


 悲鳴、悲鳴、悲鳴。そこかしこで阿鼻叫喚の光景が生み出される。


 降って来たのは大地だけではない。大量の水も、植物も、生き物も……見た事もない何かが雨のように星に降り注ぐ。


 衝撃にガラス窓は激しく割れて飛び散り、隕石の如く膨大な熱を内包した岩塊に焼き貫かれて、あっさりと倒壊して瓦礫の山と成り果てる。


 それは、まさしく数多の自然が降り注ぐ、さながら大自然のゲリラ豪雨。誰も未知の天災の暴威に抗う事など出来ずに、矮小な身で甘んじて死を受け入れるのみ。


 だが、運よく逃げ延びた者は安心など出来る筈がない。なぜなら、天災は空から降り注いでいる訳では無かったから。

 そう、天災は我らの立つ大地の遥か下――――星の内側からものだから。


 地面と隔てる都市の大地――――コンクリートを突き破ってマグマが噴出する。マグマと共に、海水までも噴出し、一瞬にしてマグマが冷やされた事で大量の水蒸気が空中にばら撒かれた。

 更に、続いてやってきたマグマの噴出により、大量の水蒸気が一斉に熱せられて……大爆発。現場である都市の一角が、容易に消し飛ばされた。


 大自然が意思を持って、人も動物も植物も、関係なしに襲い掛かっている。そうとしか思えないような現象が、この地球上の所々で起こっていたのだ。


 泣き叫び、母を求めて彷徨う子供を、逃げ惑う人の群れが襲い掛かる。子供は大量の人に押しつぶされて、誰にも気づかれる事なく地面の染みとなった。


 天と地、両方より流れ出る大瀑布に押し流されて、かつての震災を想起した人は恐怖と狂気に呑まれ、水中で息絶えた。


 絶望からか、自暴自棄になった者は奇行を繰り返し、最終的に自ら都心に出来た大地の裂け目に飛び込んで、自殺した。


 誰も逃れる事もできない、災害という災害が次々と巻き起こる。誰も抗えない、人類文明の崩壊。

 結局、大自然に抗う事など、ただの人には出来よう筈が無かった事が、この天災により証明された。


 もし、もしも神がいるのなら…………これは、天罰なのだろうか。


 おお神よ、あなたは我ら人を見捨てたのか!!


 そう言った敬虔な信徒の身体を、巨大な剣が刺し貫いた。


 強大な生命力を持った植物が、大地を押し返し、大量の水を飲み、根を伸ばして広がっていく。それを、天空から降った石造りのが圧し潰す。


 一体、何が起こっているのか。これは、何なのか。


 世界は、今――――どうなっている?




 決まっている。崩壊だ。紛うことなき、崩壊だ。


 人類文明の、地球という星の崩壊だ。


 それ以外に説明しようがないだろう?






◆◆◆






 幸運にも、生き残れた人類には祝福が訪れる事だろう。


 この天災を生き残る事ができた者達にこそ、〝それ〟は相応しい。


 願わくば、その中から誕生する事を、心より願っている。


 私を■■する者が現れる事を、祈っている。


 しかし、そうでないなら仕方がない。


 もし、私の望む者が生まれぬと言うのなら――――






「もう一度……滅んで貰うしか、他にない」






・・・

・・・・・

・・・・・・・





 遥か天上、大気圏を越えた宇宙そらの彼方から、地上を見下ろす一粒の〝星〟が一つ。


 それは、太陽さながらの輝きを放ち、ゆっくりと………虚無へと堕ちるように、消え去った。









『さよなら地球、ハローワールド:the end of earth』開幕


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