第115話 俺の悪夢。−4
もう一人の俺が戻ってくることを待っていた。時間と言う概念が存在しないこの空間からやがて構造物が姿を消していた。びっくりして消えるベッドを眺めた、ここにいたら俺もこのベッドのように消えてしまうのか。
そして全てが真っ白になった。一人に残っているこの場所の意味はなんだろうな…前に進んでみても同じ景色だけ、見えるのは全部真っ白だった。
「ああああー!!!!ここから出せー!!!!」
声を上げて叫んだ。
「誰もいないのかー!答えてくれー!!」
もちろん返事はなかった。
「先輩に…会いたい、どうすればいいんだ。」
そして走り出した。この空間の端まで走って出口を探そうとしたけど、走っても走っても白い空間から離れるのはできなかった。やはりだめなのか、もう走るのも疲れた…べったりと地面に座り込んだ俺は下を向いてため息をついた。
「ハル…!」
「先輩!」
先輩の声だ…どこから先輩の声が聞こえる、顔を上げて声が聞こえる方向に耳を傾けた。
「幻聴…?俺も狂ってしまったのか…」
「ハル…死なないで…ハル!起きてハル…」
先輩が俺を呼んでいる…声が聞こえるところに向いた。そこで俺の目に入ったのは倒れて目を覚めない俺を抱きしめている先輩が姿だった。
「これは…なんだ?」
「春日…春日!こっちだ!春日!」
先輩が声を上げていた。
「何でこうなるのよ…」
「お嬢様、もう春木くんは…」
「そんなはずない!ハルは死なない、救急車はいつ来るのよ!」
鏡のように見える物が現れてその中から先輩とニノさんが映った。なんだ…先輩、本当に先輩なのか…先輩!
「先輩…ここにいるよ!!こっちを見て、ここにいる!ここにいるよー!」
もしかして、あの鏡を通ったら現実世界に戻るんじゃないか…と考えた俺は手を伸ばしてみたけど、鏡は固くて漫画みたいに通るものではなかった。
「結局…こんなもんか。」
そして鏡は消えた。
「…なくなった。どこに?」
……
周りを見回す俺の前にもう一つの鏡が現れた。
「せ…ん…」
「…あ、あ…逃げろ…む、と…」
鏡の中に映ったのは、大山に刺されたあの時の俺だった。後ろから見下す大山の顔が見える、多分これは先輩の視点だよな。
「くっ…!なんだ…なんだ、この気持ち…!」
胸が痛い、すごく虚しい気持ちが感じられる…これは一体…なんなんだ。そして先輩の声が響いて白い空間から泣き出す先輩の声が俺の耳に留まる。
その声だけではなく、先輩の気持ちまで俺の心に詰め込められていた。
「ごめんなさい…先輩…ごめんなさい…」
あの時の先輩の感情が俺の中に入ってきた。
俺はあの時の先輩がどんな気持ちで生きていたのか、この鏡を通じて先輩の人生を覗いた。
……
「会いたいよ…春木。」
暗い部屋で、誰もこない部屋…一人で窓の外を眺めていた。これは中学時代の先輩…部屋には教科書と参考書がすごく積んでいて毎日勉強ばっかりしているようだった。
……
ベッドに横たわって携帯をいじっても連絡できる友達すらいなかった。
「連絡先…聞いてみたらよかったのに…フン…春木は今何をしているのかな…」
声に力がない、顔も暗い…元気もない…一人でずっとこうしていたんだ。先輩…俺がいなかった時、すごく憂鬱な表情をしている。そして夜更かしをしながら勉強する先輩が寝た時間は4時、ベッドで寝る先輩は枕を抱きしめて俺の名前を呼んだ。
「おやすみ…春木。」
……
鏡は次々と先輩を見せてくれた。
そこには幼い頃の武藤もいて、家の事情も教えてくれた。厳しい家庭で育てられた先輩は重い責任感と強制的の現実に慣れることしかできなかった。いつも一人で、いつも…幸せの意味を見つけず用意されたレールの上を歩き続ける人生を生きてきた。
「春日…」
先輩はとても明るい人だった。
初めてみた時の先輩は近づくのが怖いほどの美人で、絶対モテる人だと思った…こんな先輩は見たことがない…聞いたこともない。
鏡はなぜ俺にこんな物を見せてくれるんだ。
「鏡の中にいる先輩は俺が…いない時の先輩…」
……
「もう…春木はいない…私なんか気にしていない!全部嫌だ!」
精神が壊れた先輩が机に置いている本を投げたり落としたりして、現実からのストレスが限界まで溜まっていた。日常からずっと受け入れて耐えていたストレスの塊が今、爆発してしまったのだ。
「なんで…こんなにつらいのに春木は私のそばにいてくれないの…?」
一人で怒って机を叩いても気が済まなかった先輩は引き出しの中に入っている一枚の写真を取り出した。
「…どうして。」
写真に写っている俺の顔を見て、写真を取り出した引き出しの下に置いている箱を開けた。
「…」
中にから二つの物を取り出して窓側に行く、月明かりが照らす寂しい夜に先輩は窓枠に腰を掛けて取り出したタバコに火をつけた。
「これは全部春木のせいだ…春木…春木…」
いつもの静寂から逃げようとする先輩はタバコを吸った。無表情で写真を見て、煙を吐いた。こんな先輩は初めてだ…タバコに手を出すなんて、それほど現実から逃げたかったってことだ…
そして写真を下に置いて、月を眺めながらタバコを吸う。
ケホ…ケホ…と、咳が出て持っていたタバコを写真の上に落とした。
「あっ…!写真…」
タバコに焦げる写真、よりによってタバコの火は俺の顔を焦がした。
「だめ!だめ…春木の顔が…」
……
「もう…いいんだ。こんなことはもう見たくない…もういいんだよ!やめろ!」
こんな記憶なんて…いらない…見たくない。その鏡が見せてくれた記憶がとても悲しくて、寂しくて…今まで先輩がこんな風に生きてきたことを想像したら心が壊されるようなつらさを感じられる。
「ごめんなさい…先輩…」
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