第99話 同じものが欲しい。

 頭がすごく良くて、頑張り屋さん。

 160センチくらいの身長で可愛い顔、大きな目と細い体そして長い黒髪をしている人、私のお姉さんだ。

 

 妹としてずっとお姉さんのことをそばから見て来たから…分かる。

 最近のお姉さんは時々気分が良さそうに見える、多分…加藤さんと付き合ってから憂鬱な性格が徐々に変わっていた。


 私はたまにお姉さんに言えないことがある。

 お姉さん自身は知らない、自分がどれくらい自分のことを嫌がっていたのかを…中学の時はそう…自殺まで考えたことを誰にもバレてないと思っている。

 いつだったかな…お父さんにひどく叱られた時があった。心配になった私は落ち込むお姉さんを励ますため、部屋に向かったけどそこには床に血を落としながら握っているナイフを隠すお姉さんがいた。


 一人しかいないお姉さんだから私が守ってあげたかった、お姉さんが死んで欲しくなかった。そんな日々が続いて精神的に崩れたお姉さんは毎朝憂鬱な顔をして家を出る、家族なんだから分かっていた。そしてお姉さんはいつからご飯すら食べない日も増えていた。


 ある日、お姉さんがすごく嬉しそうな顔をして家に帰ってきた。


「お姉ちゃん、お帰り!」

「うん!恵ちゃんも〜」


 ニノさんと家に帰ったお姉さんは軽いあいさつをして部屋に入った。


「なんかテンションが上がった…」


 久しぶりに見たお姉さんの笑顔に驚いてすぐニノさんに聞いた。ほほ笑む顔でお姉さんの部屋を見つめるニノさんはただ「好きな人ができたようです。」と言った。もちろん、その相手はニノさんも分からないと言った。


 好きな人…

 笑うお姉さんのことも驚いていたけど、それに好きな人なんて…お姉さんに好きな人ができるなんて…

 今まで告る人たちを全部断っていたお姉さんだよね…?

 あの時はお姉さんが笑ってくれればそれでいいと思っていた。


 そう思って私も普通に学校に通う、その頃は私にも好きな人がいた。言葉を交わしたことはないけどただたまに遠い場所から見つめるだけの人、いつかあの人と話をしたいと思っている。


「春木…」


 そして中学時代が終わっていく、なかなかこの気持ちを伝える機会もドラマみたいな偶然もなかったから…ずっと心の底に残っていた。

 その頃のお姉さんはめっきり忙しそうになった。なんの用事があるのか聞いてなかったけど出かけるお姉さんはいつも幸せな顔をしている。


 およそ半年くらいかな…塾じゃないのにどこへ…

 もう卒業だし、お姉さんも元気になったから私はただ息苦しい家を出て「友達と遊びに行くんだー」と思っていた。気晴らしになるから。


 ホッとして私も友達と離れる前のわずかな時間を楽しんだ。

 ついにきた高校の初日、もう春木と会えないな…って朝ご飯を食べながら勇気を出せなかった私にがっかりしていた。


「恵、元気ないのか。」


 食卓から聞くお父さんの話にびっくりした。


「…ううん、全然。」


 そしてご飯を食べるお父さんがため息をついて話した。


「春日はまた食べないのか…」

「あなた…」

「…もう時間がない、来るべきの日に備えないと。」

「そうよね…」


 私はその話の意味を知らなかった。


「ごちそうさまでしたー!」


 早く学校に行って新しい友達を作ろう、もう春木とは会えないけどいい友達ができることを信じていた。


 そして教室に着いた私に、初日から近づいたのは女子じゃなくて男子たちだった。


「あの…武藤さんですよね?」

「は、はい?」

「噂の通りだ…」


 何かに期待していたのかな…リアクションが大きい。


「3年の武藤春日先輩の妹だよね?」

「はい、そうなんですけど?」

「メアドとか…交換できる?」


 …私も分かる、そう…いつのものだよね。メアドを交換して何回のやりとりをして、告るパタン。


「ごめん…なさい…」

「そう…か。」


 次々と集まってくる人たちに呆れてトイレに行った。

 そこで会った人が木上さやか、トイレに入ってすぐ私に話をかけてくれた人。


「同じクラスの武藤だ!」

「はい…」

「かわいいー本当に綺麗だね?」

「別に…そうでもないです。」

「でも、モテるからねー」

「はい…?いいえ、全然。」


 堅苦しい私の敬語にもさりげなく言う木上。


「私!木上さやか!よろしくね!」


 友達…初めての友達ができた。


「はい!武藤恵です!」

「うん!じゃーまずはメアドの交換しよっか!」

「はい!」


 その時、ポケットの中に携帯が入ってないことが分かった。先…男子たちが集まってきた時、電源を切って机の中に入れっぱなしにしたのを思い出した。


「あ…携帯…机の中に…」

「どうしたの?恵ちゃん?」

「携帯…席に置いて来ました…取ってきます!」

「え…?いや、ま、待って!」


 急いでトイレから教室に戻る時、階段を上がった後の曲がり角からこっちを向いてる人とぶつかってしまった。


「あ、すみません。」


 急にぶつかって廊下に倒れた私に手を出してくれる男子、その手を掴んで見上げたあの男子の顔は見覚えがあった。

 

「こっちも、すみません…」

「大丈夫ですか…」


 春木の顔だ…今の手は春木の手だ。

 高校の初日、私は思いがけないところで思いがけない人と出会った。


 ……けど私はこうして二人を眺めることしかできなかった。高校生になっても何一つ変わらなかった。


 今日も加藤さんと一緒に昼ご飯を食べるよね。

 遠いところから二人が手を繋いで階段を上がる瞬間を見た。とても嬉しそうな顔、それは恋に落ちた女の顔だった。いまだに一度も見たことがない顔を加藤さんにはよく見せて、いろんなことをやってるでしょう…


 普通のカップルだったら…抱きしめるとかするからね。


 いまだにその思いを捨てられない私が憎い。

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