第33話 人+関係。−4

 10秒48か、悪くない記録だけど俺には少し足りない気がした。久しぶりだから仕方ないか…この結果で満足しよう。


「はい。次は12秒49。」

「マジかよ…なんだあいつ。」


 後ろから文句ばっかり言い出したあの人は自分の記録を認められたくない様子だった。それより俺みたいなやつに負けたことが嫌だったのか、意地っ張りで文句を言っても結果は変わらないのに…どうせ俺をつぶしたいとかそんなことを考えていただろう。

 そしてクラスメイトの前でからかいの対象になる絵を描いていたかもしれない。


「クソ…」


 まだ気が済まなかったのか、くだらない。


「おい、春木。」

「なんですか、先生?」


 男子の順番が終わって友達のところに戻る時、先生から話しかけられた。


「お前、もっと走れ、ちゃんと!」

「え…!」

「でも、いつも嫌そうに言ってたくせに運動はしっかりやっていたのか。」

「…知らない、香ちゃん!」

「飛ばしてやろうか?地球の反対側に、はぁー?」

「へへーかわいい先生!」

「戻れ!クソ…」

「はいー」


 女子の順番になって俺は少し休憩を取った。


「春木、速っ…てか追いつかないよ、あれじゃ。」

「そうかな…普通だろう。」


 夕はうらやましがる顔で俺を見ていた。こんな視線、俺には重荷だ…別にすごいことでもないし、でも夕が話しかけてくれるのは嬉しかった。

 武藤先輩と康二以外、他人から普通に話しかけられたのがいつだったか…覚えてない。


「春木、ナイス走り!」

「お、康二か。」

「相変わらず速いなー」


 いけない、足が痺れる感じがする。


「あーちょっと水を飲んでくるから。」

「うん。」

「うん〜」


 急いで人がないところまで歩いた。学校の裏側には焼却場がある、人もあんまりいないし、壁に背中をつけてからすぐ頽れた。


「クソ…いつ治るんだろう…」


 いつまでもこのままじゃ何もできないってことは知っているけど、俺に何が足りないのか分からなかった。

 ジャージーのチャックを下ろしてため息をした。


「嫌だ、この感じ…先輩が来てくれたらいいな…」


 なんでこんな時に先輩のことを思い出すのか、最近くっつき過ぎたせいで頭が変だ。先輩がどんどん心の中を占めていくからこんな考えが出来るんだヤバすぎ…


 もう立つのも無理だ。

 この痛みはどれくらい続けるかな…いつまで周りの人に助けを求めるわけにはいけないから耐えてみよう。


「加藤さん?」

「…」


 先輩…?あ、違う武藤か。


「体の具合が悪いんですか…?」

「平気、ちょっと体育で無理したから。」

「え…保健室に連れて行きますから…」

「いや…いい。気にしなくてもいい。」

「そんなわけには…」


 正直なところ、どっかで休みたい状態だ。でも武藤までに迷惑をかけるのが嫌だったから申し訳ないけど先輩にメールを送った。

 先輩が薬を持ってくれることを待つ…その前に武藤を行かせないと誤解される。


「友達を呼んだから心配しなくてもいいよ、武藤。」


 なんだ…この感じ。足からものすごい痛みが感じられる、久しぶりに走ったからかこの苦痛も久しぶりだった。

 懐かしいな下半身に広がるこの痛み。


「はぁ…」


 荒い息が漏れている。


「やはり、だめです。今、休憩時間だから行きましょう。」

「大丈夫…」


 なんで痛みがどんどん激しくなるんだ。立って…立ってよ、早く立ってくれ…と何回も自分に言い返すけど思い通りにはさせなかった。

 無理矢理で立とうとしたらジャージーのポケットから何かが出てきた。黒い何かに染められた小さいお守りが一つ下に落ちた。


「あ…」

「加藤さん…これ落ちました。」

「あ、ありがとうー武藤。俺はもういいから先に行って。」


「あ!」


 武藤が俺のお守りを見て声を上げた。


「このお守り、なぜ加藤さんが持っていますか?」

「え…そうか。」

「これうちの神社でしか売ってないものなんです…それと…これはもう買えない限定のお守りです。」

「そうか…」


 武藤の家は神社をやってたのか…そうか。


 いけない目眩までしている、武藤が拾ってくれたお守りを握ったまま地面に倒れて意識を失った。

 

「加藤さん?加藤さん!」


 霞んむ周りの音を感じられる、俺が倒れるあの瞬間まで感じられる。やはり俺はあの事故から何かに体を呪われたかも知れない。

 治ったと言っても俺はまだ痛い、痛いんだ。


 俺は何をすればいいのか…教えてよ。痛みの中で俺は一人で叫んでいる、誰か俺の話に答えることを待ちながら白い空間に残された。


「答えは…知っているのに、なぜ思い出せないんだ。」


 まだあの声だ。

 俺の声、俺の言い方…俺の話に答えず目を覚めた。


「春木…大丈夫?」

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