第31話 人+関係。−2

 委員長に告られるなんてしらなかった。こんなに暗い俺が人に好かれるところがあるのか…どこを見ても確実に惚れそうなところはないだろう。

 朝掃除を済ませて教室に戻って来た。

 みんながざわざわしているこの教室で俺は一人で席に着いていた。一日中窓の外を眺めるだけなんだが、面白いのはこの席に座っているとクラスの生徒たちが話しているいろんなことが聞こえることだ。

 人の恋話とか悪口などがさりげなくクラスの中で流れていた。


「ねねーうちの委員長が振られたよ。知ってる?知ってる?」


 ふと委員長の話が聞こえた。


「私、朝早く学校に来たけど男女二人が掃除していたからちょっと覗いた。」

「へー!それで?」

「加藤に告ったよ、委員長。」

「え?加藤に?あの暗い男?」

「委員長…見る目ないな。」


 一人の女子が言い出した話で周りが一気に盛り上がった。

 学校はいいな、他人の話をそんなに言えるから。自分の話もそう言えるかこっちから聞きたいくらいだ。


「そっち!もう授業始まるから席に戻って。」


 委員長が盛り上がってる女子たちに注意した後、チャイムが鳴いた。あの連中には見えないだろう、委員長が自分の感情を抑えていたことを…

 余計に気になってしまう。


「はぁ…」


 ついため息を出した。


「暗くて見る目ない…か。」


 授業中にペンで教科書に落書きをしていた。


 暗い、暗い、暗い…見る目ない。


 別に暗いとかそんな話にいちいち怒ったりしないけど、周りの人が俺のせいで悪口をされるのは気になる。

 俺をほっとけば誰も傷つかないのに…雑念に囚われた間に授業が終わってしまった。


「ねね、さっきの話の続きが聞きたい!」


 また始めるのか面倒臭いバカ高校生たち。


「うるさいねー人の悪口がそんなにしたいのか?まじウザいな、自分の話もそう言った方がいいんじゃない?」

「何よ!君!」

「偉そうに言える君よりはるかにいい人なんだ。委員長は。」

「委員長のことをかばってる?へー」

「下品。」

「違うよ!」


 ある男が軽々言い捨てる女子たちに向いて俺が話したいことを一瞬に吐き出した。


「夕、何してる?」

「あ、康二かなんでもない、行こう。」


 康二は夕と言う人を連れて俺のところに来た。


「春木、紹介するぞ。最近仲良くなった夕。」

「よろしく。下谷夕しもたにゆうだ、君は?」


 あいさつと共に握手を求める手を出して来た。

 下谷夕と言うのか…


「よろしく頼む。加藤春木だ。」

「え…そういう風に笑うのか。」

「うん?」

「ぶっちゃけて、暗い人だと思ったけど全然暗くないな。ごめん…勘違いした。」

「そう思う人多いから別に気にしてない。」

「今日からよろしく。」


 いい友達ができたそうだ。

 時間だ、先輩が来るかも…


「俺、ちょっと出てくる。」

「えー先輩に会うのかい?」

「うるせぇー!」

「へー誰、恋人?」

「…違う。行ってくるから。」

「次は体育から早めに行ってこいよ。」

「分かった…」


 教室の扉を開けて4階に行こうとしたら後ろから誰か背中をたたいた。


「えいー!」

「あ!先輩…」


 待ち伏せ…


「先輩…俺が4階に行きますって言ったはずじゃ…」

「私から来たよ!会いたかった〜」

「ちょっと恥ずかしいことを言った自覚をしてください。すごい見られています。」


 周りの生徒たちが俺たちを見ていた。

 俺の前に立っている先輩が笑っている、ここで話すのは他の生徒に目立ちすぎから先輩と4階にあがろうとした。


「先輩4階行きましょう。」

「えー今、下りたばっかりなのよ…」

「これじゃ目立ちすぎです。」

「連れて行って〜」

「え…」


 手を出した先輩。本当に3年生なのか疑わしい…


「へへー」

「はいはい。」


 先輩の手首を掴まって階段を上がった。


「行こう!」


 学校の4階、そこからもう少し上がると屋上がある。この誰もいない屋上で二人で弁当食べたことがあったよな。

 前のように椅子に座った二人は何も言えずに空を向いていた。


「…」


 静かでいい。

 先輩はそばから俺の肩に寄りかかって言った。


「肩枕〜いいね。」

「先輩、俺たち何してます…?」

「うん…イチャイチャ…」

「へ…」

「へ…ってなんだよ〜」

「ここは落ち着きでいいなーと思っただけです。」


 先輩が感じられる、俺の腰を抱いたままくっついて休んでいた。しばらくこうしている俺たちは授業のチャイムが鳴る前まで時間を共有していた。


「こうするのがいい、春木と一緒にいるのがいい…春木もそうだよね?」

「え…」

「だよね?」

「…」

「だよね!」

「はい…」


 短いけど心地よい時間、俺は先輩の頭をなでなでして授業に入った。

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