とある医薬術師の日常

狛ノ杏

序話

 ――かつての二代目君主が造らせたというペトラーナ城。そこを中心とし、同心円状に町並みが広がり、周囲を巨大な防御壁で囲った城郭都市じょうかくとし


 城から暫く離れた一角に〈職人通り〉と呼ばれる街路がある。その通り沿いには、数多くの鍛冶や工芸の店、工場こうばが建ち並んでいた。


 そこは朝早くから夜遅くまで、金属などを叩く音が至る所から響き渡り。時折、張り巡らせた配管の隙間から蒸気が立ち上がる。

 そして、油と鉱物や金属が混ざり合い、独特な臭いが建物に染み付いた場所。


 その外れにある〈スミス〉と店名みせなが刻まれた看板の吊る下がる鍛冶屋の店先で、獅を模したドアノッカーを握りしめ叩く者がいた。


 名はリーフ・メディセン

 歳の頃は三十だろうか。

 ユマン種族の血を紡ぐ者。

 医薬術師であり、小さくも一軒の店を持つ男。

 背丈は同年代の男性より少しばかり高く、ローブで隠れているが細身で色白。

 お洒落にはあまり興味が無いのか、髪は程よく切り揃えてあるものの、毛先が四方へ無造作に跳ね上がっていた。だが、銀狼に負けないほどの髪質で日の光が当たるとキラキラと輝いていた――

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