第132話 ブリーフィング1
十月二十七日。
時刻は夕方の六時を過ぎたころ。
拓哉たち三人の部屋では、すでに三人ともそろってリビングで待機していた。
「そろそろ来るかもね。」
拓哉が独り言のように呟いた。
「そうだねー。準備問題ないかな?」
光がそれに答える。
「言うて、パソコンさえあればええんやろ?」
御子は暇そうにソファーでスマホをいじっていた。
リビングには普段置いていない拓哉のPCが置かれ、skypoの画面が開かれていた。
今日、もうしばらくして行われる作戦会議の準備の為だった。
遠方の人間も多く、しかも平日の夜。
その為、参加者の半数ほどはskypoで通話をすることにしていた。
そして今日ここに直接来るのは・・・
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ピンポーン
十八時半を過ぎたころ、インターホンが来客を告げた。
光がぱたぱたと小走りし、それに応答する。
「来たよー!」
インターホンの先では、ハイテンションの莉緒が手を振っていた。
数分後。
光が玄関の鍵とドアを開け、迎え入れた。
「ひかりんお疲れー。莉緒ちゃんだぞー。」
「お疲れー。」
ドアを開けると、莉緒と唯志が挨拶をしてきた。
「あれ?唯志君も一緒?」
光は驚いて目を見開いていたが、二人を招き入れた。
「おー、御子っちもタク君もおつー。」
「あー、お疲れー。」
リビングでは莉緒が元気に、唯志が若干気だるそうに二人に挨拶をしていた。
「・・・なんで二人一緒なの?」
拓哉は怪訝そうな顔で二人を見ながら言った。
「あん?一緒に来たからに決まってんだろ。」
唯志がめんどくさそうに答えた。
「そうじゃなくて!・・・別れたんじゃなかった?」
拓哉は信じられないといった表情をしていた。
「別れたけど?」
対して莉緒は、平然と答えた。
「別に喧嘩別れじゃねーし。別れたけど仲良くしてたら不自然か?」
唯志も特に気にしてないようだ。
「不自然っていうか・・・。おかしいでしょ!?」
拓哉は誰に対してかわからないが、必死に訴えた。
「「何が?」」
対する唯志と莉緒は、ほぼ同時に同じ返事を即答していた。
「何がって・・・」
拓哉は納得できないといった表情だったが、それ以上言葉が出てこなかった。
「まぁ、別にええやろ。人それぞれ、考え方は違うもんやで。」
御子はあくびをしながら、興味なさそうに言った。
「そ、そうだよタク君。それに、仲は良い方が良いよ!」
光も動揺してはいたものの、すぐにその状況を受け入れたようだ。
そもそも光は未来人なわけで、現代人とは恋愛観が少し違う。
それ故に受け入れ易かったのかもしれない。
「何?タク君男女間の友情は無いとか思ってる派?」
莉緒はニヤッとした表情で、拓哉を煽るように質問した。
これにムッとした拓哉は、すぐに反論した。
「男女間の友情なんて成り立たない・・・。って言われてるし。」
ムスッとした表情で言った。
だが、ここでも他人の意見として言っているあたり、拓哉らしい。
「言われてるって、誰に?」
莉緒はしつこく質問を重ねた。
先日の件でも根に持っているんだろうか?
「・・・ネットとかで。」
拓哉は弱弱しく、ぼそっと言った。
「なんだ、ネットかよ。自分の意見じゃなくて、見ず知らずの他人の意見か。」
莉緒は勝ち誇ったような表情で拓哉に言った。
拓哉は内心腹立たしかったが、何も言い返せる言葉が無かった。
事実、その通りだったことを自分でも理解したからだった。
「それくらいにしてやれ。」
唯志が莉緒の頭をポンッと叩いた。
「えー。」
莉緒は不服そうにしていた。
「少なくとも、そう思ってる吉田は、男女間の友情なんて理解出来ねーよ。」
唯志は嫌味ではなく、莉緒を諭すようにそう言った。
「吉田も吉田で、他人の意見を人に押し付けるなよ。人それぞれだ。」
唯志に諭され、拓哉は胸中複雑な思いだった。
腹立たしさが強かったが、図星を突かれた故の腹立たしさだったのが自分でもわかり、自分がみじめに感じてしまった。
「それに・・・。」
と、唯志が言いかけてやめた。
「それに・・・、何?」
だが拓哉は続きが気になり、続きを催促した。
「周りを見てみなよ。タク君の現在の状況。男女間の友情が成り立たないなら、何?ってこと。」
続きは莉緒が答えた。
唯志は、「あーあ、言っちゃった。」と言うような表情をしていた。
そしてそこまで言われたら、さすがに拓哉でもハッと気づいた。
売り言葉に買い言葉で自分の、正確には他人に受け売りの考えを言ったは良いが、拓哉の現状は・・・
光は「あはは」と苦笑いしていた。
御子は「はぁ」とため息をついている。
この女二人、男一人のシェアハウス。
拓哉は下心満載ですと宣言したようなものだった。
事の重大さに気づいた拓哉は焦った。
焦ったが何一つ弁明の余地がなかった。
「た、タク君大丈夫だよ。そういうつもり無いってわかってるから。」
光がフォローしてくれたのが、逆に悲しかった。
「てか、こんな事しに来たんじゃないだろ?」
唯志がそう言って話題を変えた。
ふとPCを見ると、間宮や野村からメッセージが来ていた。
そしてその数分後、佐藤のログイン通知がポップアップし、本日の本題『作戦会議』を始めるべく、ビデオ通話が開始された。
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