第130話 探偵唯志

翌日。

十月二十五日。

時刻は十八時半ごろ。


「よう、お疲れ。今大丈夫か?」

唯志はyarnで通話をしているところだった。


「なんじゃ?夕飯前やから、少しならええよ。」

相手は御子だった。

御子はリビングで寛ぎ、光の夕飯を待っているところだったが、念のため部屋に戻って通話を始めた。


「ちょっと頼み・・・、というか確認したいことがある。」

「なんじゃ改まって。とりあえず言うてみ。」

「山田が御子の家に現れた日付が知りたい。まぁざっくりいつ頃でも良いけど。」

「うーん、どうやったかな。実家の使用人に確認してみるわ。それだけか?」

「いや、それと一緒にもう一個聞きたいことがある。そっちが本題。」


電話の先の唯志は多分苦笑してるんだろう。

そんな感じの声色だと御子は思った。

こういう時はたいていメンドクサイことを言われる気がする。

御子の経験上の勘がそう言っていた。


「はぁ・・・。まぁ言うてみ。」

御子は思わずため息が出てしまった。


「何。簡単な話。その山田が出現した前後くらいで良いから、御子んちの顧客名簿見せて。」

唯志は恐らく笑顔で言っているであろう声色でサラッと言った。


「ダメに決まっとるじゃろ。」

御子は即答した。

まぁ当たり前の答えだろう。


「まぁそうだろうな。なら、その近辺で×□科学研究所ってとこの関係者は来てないか?YES、NOで良い。これなら答えられるだろ?」

唯志はダメもとで言ったようで、予め次の質問を考えていたかのようにスムーズに次の質問に移った。


「うーん。ほんまはそれもあかんねんけどなぁ。うーん・・・。しゃーない、それくらいは調べたるわ。」

御子は渋々唯志の要求を飲むことにしたようだ。

こういう時の為に唯志は御子の要望を断らずに、答え続けたんだろう。

それが実った形だ。


「すまんね。わかったら連絡よろしく。なるべく早いと助かる。」

「唯志、一応聞いておくが、それは光の為やな?」

御子は逆に唯志に質問した。


「さて、どうだったかな。意外と自分のためだったり。」

「あんた、通話なら色見られへんとか思ってるやろ。」

御子がため息混じりに返事をすると、「それじゃあ」と唯志は通話を切った。


「全く、素直じゃない奴やな。」

そう呟くと御子はリビングに戻って行った。


--

一方の唯志。

通話が終わり、スマホをポケットにねじ込むと、「さてと」と前を向いた。

唯志は今、京都府内の『〇▽人工知能研究所』付近にいた。

〇▽人工知能研究所とは、以前雑誌にも載っていた須々木久寿雄の勤め先のことだ。


唯志は〇▽人工知能研究所の入り口から始め、ぐるっと一回り敷地を見て回った。

「出入口は二箇所だな。基本社員は正門以外使ってなさそうだが・・・、まぁ念のためそっちも押さえておこう。」

唯志はそう言うと、タブレット端末で地図上にマーキングをしていた。

そして、そのまま須々木の目的地の『喫茶店』へと向かって歩き始めた。


「ふーん。一番ありそうなのはこのルートだけど・・・。」

そう言うと今度は違うルートで〇▽人工知能研究所に向かって戻り始めた。


--

何往復しただろうか。

既に片道十分程度の道のりを二時間ほど行ったり来たりしている。

唯志はあり得そうなルートを虱潰しに歩いて回っていた。


「あそこにもカメラか。画角はこんなところかな。」

途中監視カメラを見つけては、カメラに映る範囲を地図に書き込む。

この作業をただ延々と繰り返している。

だが、その作業も終わったようだ。


「ふぅ。こんなもんか。」

唯志は大通りから少し入った裏路地で一息をついていた。


「まぁ接触できる可能性が一番高いのは・・・というか確実なのは、当然だな。」

そう言って唯志は周りを見渡した。

目の前には須々木の目的地としている喫茶店がある。

そう、ここは喫茶店の目の前だった。

当たり前だが目的地であるこの場所に、須々木は来る。

須々木と接触を図りたいなら、この場所で待ち伏せするのが一番だろう。


「だけど・・・。ここは監視カメラが多すぎるな。」

唯志は上空の方を見回した。

確かに監視カメラが数台、あっちこっちに向けて設置されている。

喫茶店や飲食店、お店などが立ち並んでいるので、防犯用につけているんだろう。

唯志の見た限りだと、監視カメラの死角となる箇所も少ない。

写らずに接触・・・というのは難しいと感じる。


「ひかりん達は写っても問題ないんだろうが・・・。念のためこの場所は避けた方が良いな。」

何の念のためなのか。

それは唯志にしかわからないが、とにかくこの場所での待ち伏せはお気に召さないようだ。


「となると・・・。」

唯志はスタスタと歩き、T字路を曲がった先に入った。


「ここだな。」

唯志の入った道は、人通りも少なく、監視カメラなどもない。

いかにもな裏路地だった。


「ここを通る可能性は高い。万が一通らなくても、そっちの道から来たらわかる。人目にもそこまで触れないだろ。」

そう言うと今度は周りをきょろきょろと見渡している。


「ふむ・・・。」

そして唯志は、今度は違う方向に向かって歩き出した。

また監視カメラの位置や画角を気にしながら、今度は大通りの方に向かって歩いている。

唯志の目的はわからない。

そして、なぜそこまで監視カメラを気にしているのかもわからない。

だが、唯志にとっては必要なことなんだろう。


そうやって唯志は人知れず、現地調査に明け暮れている一日だった。

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