第111話 サプライズ
八月二十八日。
昼前頃。
拓哉と光は電車で移動していた。
「唯志君から遊びの誘いって珍しいね~。いつも何かの用事ばっかりだったし。」
そう言う光はニコニコしていた。
今日は唯志に呼び出されて、唯志宅で遊ぶ・・・という体になっている。
もちろん莉緒もいるし、拓哉も一緒にと。
何して遊ぶかまでは知らないものの、光は単純に楽しみで嬉しかった様だ。
拓哉はと言うと・・・。
「う、うん。そうだね。何するんだろね。」
と言いつつ、ぎこちない乾いた笑いを絞り出していた。
(サプライズの誕生パーティーってばれないようにしないと・・・!)
拓哉はボロを出さない様に必死だった。
今日は光の誕生日。
そして今日は、唯志の家で光の誕生パーティーをする。
折角だしサプライズにしようと言うことになった。
今のところはバレていない様子だが、いつボロが出るかわからない。
だから拓哉はバレない様に口数は少なく、常に緊張していた。
ハラハラしながら光と会話をしつつ、何とか唯志宅を目指していた。
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「ひかりん誕生日おめでとー!!」
唯志宅のリビングでは大声の祝福と、爆音のクラッカーで歓迎された。
「え?え?」
光は状況がわからずキョロキョロしていた。
「ほい、ひかりん。誕生日おめでとう。」
そう言って唯志が光の頭に『HAPPY BIRTHDAY』と書かれた帽子を乗せた。
ついでに『本日の主役』とか書かれた襷もかけられてる。
「え?あの・・・?」
光はまだ状況が呑み込めずきょとんとしている。
「今日光ちゃんの誕生日でしょ?サプライズパーティーだって。」
拓哉が説明した。
リビングで『こう』なる事は拓哉も知らなかったから、一緒に驚いた。
と言うかびっくりした。
「え?なんで?私の誕生日・・・。」
「就籍の書類作ったの誰だ?」
「あ、唯志君だ・・・。」
「ま、そう言うこと。ほらボケーっとしてんな、今日の主役。」
周りのガヤが「そうだ、そうだ」とはやし立てていた。
拓哉も知らなかったが、野村に恵までいる。
てっきり四人でやるものだと思っていたが・・・。
「お前に教えとくとバレそうじゃん?」
と唯志に突き放された。
(正論だけどさ!!)
食卓・・・とは言っても小さなテーブルだが、そこには豪華な食事が並んでいた。
「うわぁ。凄い!これみんなで用意してくれたの!?」
光はあまりの量に、喜びよりも驚きが先行している様子だった。
「まぁな!」
「うちらにかかればこんなもんよ!」
莉緒と恵がドヤ顔で答えた。
「まぁ作ったのは、『全部』岡村君だけどね~。」
野村があっさりと暴露してしまったが。
「私たちも皿並べたりしたし!」
「気持ちは込めたし!」
女性陣がギャーギャー言っている。
「唯志君、ごめん、大変だったでしょ?」
光は慌てて唯志に謝罪した。
「いや、暇だったし。別に作るのは苦じゃない。」
暇なわけがない。
唯志がいつも忙しくしているのは光でも知っている。
「唯志君・・・。」
光は申し訳なさそうにしていた。
「気にすんなって。それと、ごめんよりありがとうの方が嬉しいな。」
「そうだぞひかりんー!」
何故か莉緒が煽る。
いつものパターンだ。
「そうそう。誕生日くらい遠慮しなくて良いと思うよ。はい、ひかりん、誕生日おめでとう。」
そう言って恵がプレゼントを差し出した。
「え、プレゼントまで用意してくれたの!?」
「引っ越すって聞いてたから、ルームウェアとブランケット。」
そう言って光に手渡した。
光と恵はまだ交流が少ない。
それでもプレゼントまで用意して祝ってくれた恵。
光は嬉しくて思わず笑顔になっていた。
「ありがとう、めぐみん。」
「ちょ、ひかりんまでめぐみんは止めてよ!」
口ではそう言っていたが、恵も笑顔だった。
「はい、これは俺から。」
そう言って横から野村が小さな包みを渡した。
「え、ノムさんまで?」
「うん。つっても俺は欲しい物わからないから現金ね。」
どうやら野村は祝い金を用意したようだ。
「ありがとう、ノムさん!」
「え、現金ってノムさん・・・。」
拓哉は若干引いていたが、「かさばらないし、変なもの貰うよりずっといいんじゃね?」と唯志がフォローした。
実際のところ、光としてもこれは非常にありがたいプレゼントでもあった。
「じゃー次は私と唯志からね。」
そう言って莉緒が渡したものは、結構大き目のラッピングされた袋だった。
「私からは秋物の洋服―。これから入用だろうし!」
「んで、俺からはスニーカー。靴も替えがあった方が良いだろ?」
どうやら唯志と莉緒はこれからの生活で必要そうなものを選んできたようだ。
「わぁ。すごく助かるー。莉緒ちゃんも唯志君もありがとね!」
光は満面の笑みで感謝した。
「あ、それと・・・。ほら。」
そう言って唯志は小さく包装された袋を渡した。
「えっと・・・。これも貰っていいの?」
「うん。それ、この前なんばでひかりんが欲しがってたストラップ。」
「え?」
包装紙をあけると、中には最近流行りの小さくてかわいいキャラクターのラバーストラップが入っていた。
「唯志君、気づいてたんだ・・・。それに覚えててくれたんだね。」
光の目は少し潤んでいた。
「まぁ、ついこないだの話だしな。最後は吉田だぞ。ちゃんと用意してきたんだろ?」
そう言って唯志は拓哉にプレゼントを出すように促した。
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