第100話 side Osaka4 -デート-
ターゲットの待ち合わせ時間は十三時ごろ。
今はだいたい十一時。
待ち合わせ前までに難波まで赴く必要があるが、それにしたって時間が余るだろう。
光と唯志は念の為難波までは移動しておいて、適当に昼食でも食べに行こうと言うことになり絶賛移動中だった。
「うう~。」
光は俯き、小声で唸っていた。
先ほどからずっとこの調子だ。
「まだ気にしてんの?」
「だって・・・、そんな場所だって知らなかったから・・・。」
光は場所を思い出すとまた赤面していた。
「かと言って貴重な収入源だろ?それもそこそこの金額だ。どっちにしても引き受けたんじゃないの?」
「それはそうかもだけど・・・。心の準備とかが・・・。」
光はもじもじしながら小声で言う。
「いや、俺たちはあくまでカップル役だから。ホテルに入れってわけじゃないんだぞ?」
「~~ッッ!」
光もそれはわかっていた。
だが、それでも恥ずかしいということだろう。
「うーん。嫌だったら今からでも止めとく?」
唯志はしょうがないといった感じで光に伺う。
「え!?嫌とかじゃないよ!全然!」
だが、光は首をぶんぶんと振って否定した。
そんなやり取りをしながらも、目的地も待ち合わせ時間も刻一刻と迫っていた。
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なんば駅から繋がっている某商業施設。
光と唯志はその中のパスタ専門店に来ていた。
「おいしー。それになんかオシャレ―。」
先ほどまで俯いて唸っていた光だったが、店の雰囲気と料理の味に笑顔になっていた。
「こういう店なら少しはデートっぽいだろ?」
と、唯志が冗談交じりに言う。
「デ、デートッ!?」
光は思わず咽ていた。
「大丈夫か?」と唯志から水を渡されている。
「うう~、唯志君が急に変なこと言うから~。」
光は若干涙目で恨めしそうに唯志を見ていた。
「まだ仕事前とは言え、どこでターゲットとニアミスするかわからないしな。どうせやるならちゃんとやらないと。」
と唯志はいたって真面目な顔で答えた。
「え、あ、そっか。そうだよね・・・。仕事だし・・・。」
心なしか光は若干残念そうにしている様に見えた。
「それに一応デートって言いだしたのはひかりんだろ?」
「うっ・・・。」
「なら少しでもそれっぽくな。」
唯志は少し笑顔を見せた。
それにつられて光も笑顔だった。
「でもこういう依頼だったら吉田の方が良かったかもな。」
「タク君?なんで?タク君じゃこの辺の地理わからないんじゃないかな?」
「だとしても、吉田の方がひかりん気楽だったんじゃないか?」
「えー、どうかなー?まぁ緊張はしないかもしれないけど。タク君と私じゃデートって感じじゃないし。」
光はふふっと笑いながら答えた。
それを聞いた唯志は、正直なところ少し複雑な思いだった。
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二人とも食後のデザートも食べ終わり、会計も唯志が済ませた。
光も払おうとはしたものの、「予定外のバイト代出るから良い」と押し切られ、二人は店を出た。
時刻は十二時十五分。
佐藤から聞いたターゲットの待ち合わせ時間まではまだ四十五分もある。
「さて、そろそろ向かうか。」
「うん。場所はここから近いの?」
「徒歩十分くらい。」
「なら早く着きそうだね。時間余るんじゃない?」
「予想外に早く合流するかもしれないし、少し離れた場所から少し見張ってた方が良いと思う。」
「確かに。」
方針が決まったところで、唯志のエスコートで二人は歩き出した。
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十二時五十分。
少し離れたところから観察していた二人だったが、ターゲットが現れた気配はなかった。
「もう十分だろ。」という唯志の意見で、二人は待ち合わせ場所で来るのを待つことにした。
こういう場合のセオリーでは待ち合わせ場所そのものより、遠くから見張る場合が多いんだろう。
だが、待ち合わせ場所が--
「あれ?唯志君ってタバコ吸うの?」
待ち合わせ場所に到着すると、少し光と距離をとった唯志は煙草に火をつけた。
待ち合わせ場所はなんば駅構内から出てすぐにある少し広めの喫煙所だった。
「ん?ああ、こういうちゃんとした吸える場所でしか吸わないけどな。見たことなかったっけ?」
「うん、私といる時は全然吸ってなかった気がする。」
「あー、言われてみればそうかも。軽蔑したか?」
「え?なんで?」
光はきょとんとしていた。
「たばこ吸う人間は割と冷遇されてるからな。莉緒だって嫌がるんだぞ。」
「そうなんだ!」
「未来じゃ違うのか?」
「うーん、そもそも高級品過ぎて吸ってる人はお金持ちくらいだからなぁ。私は男の人のたばこ吸う仕草嫌いじゃないよ。」
「はは、良い時代だな--」
そこまで話した時に唯志の目つきが変わった。
「どしたの?」
光は心配そうに唯志を覗き込む。
「きたぞ。」
唯志は小声でそう言うと、スマホをいじり始めた。
ターゲットの画像を再確認しているんだろう。
「え、ほんと?どこ?」
光はキョロキョロと周りを見渡し始めた。
「落ち着け。俺と話してるフリしとけ。ひかりんの左手後方。十メートルくらい。」
相変わらず唯志は冷静だった。
「どうしよう?唯志君。」
「動き出すの待とう。彼氏がたばこ吸ってるのを待ってる彼女のフリしといて。」
唯志はそう言ったが・・・
(え、それどうしたら良いの!?)
光は頭の中でプチパニックになっていた。
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