第69話 Feeling of Hikari

「さて、どうするかな。」

そう言って唯志は残っていたコーヒーに口をつけていた。

焦りなどの様子は見えない。


それでも光は不安で涙目になっていた。

「ごめんね、唯志君。迷惑かけてばっかりで。」

今にも泣き出しそうに目が潤んでいる。


「ん?迷惑じゃないし、大した問題じゃないよ。大丈夫だから心配しなくて良い。」

唯志は平然とした顔で言っている。


「本当?」

「ほんと、ほんと。ただほら、万が一宮田のやつがストーカー化したらひかりんが危ないなって思ってただけだから。」

「うっ・・・それはそれで困るけど・・・私のせいだし・・・」

「まぁそれも含めて、何とかするから安心して良い。」

そう言って唯志は笑顔を見せた。


「そんなことより、紅茶のおかわりとかいらない?俺コーヒー追加頼むつもりだけど。」

「あ、じゃあこっちのアップルティー飲んでみたい!良いかな?」

唯志が普段通り余裕の態度をしているので、光も少し安心して笑顔を見せた。


当然ながら、唯志の言ってることははったりだ。

今のところノープラン。

色々と対策は考え始めているが、宮田の出方がわからない以上、現状では何の計画も立っていない。

光を安心させるために、取るに足らない問題であるように装っているだけだ。


「ちな、ひかりんはどうしたい?宮田と付き合いたい・・・とかは流石に無いよね?」

「え、無理無理無理。本当に勘弁してほしいです・・・」

光はげっそりとした表情で言った。

「ははは、だろうね。あんな勘違いチビ、俺が女でもごめんだわ。」

「そ、そこまでは言ってないよ!」

と否定しながらも光は苦笑していた。


「じゃあ宮田の方は今後ひかりんに関わらない様にすれば良い?」

「えっと・・・そうなるの、かな?落ち着いたらyarnの相手くらいだったらしても良いけど・・・」

「ひかりんは優しいな。そういう優しさみせるとまた勘違いされるぞ?」

「うっ・・・だよね・・・。」

光はしょんぼりしている。

「やるなら縁を切るくらいの方が良い。」

「うん、わかった。唯志君の言う通りにする!」


光がそう言うと、唯志はコーヒーに口をつけた。

頭の中では今後のことについて考えている。


--

さて、方針は決まった。

かと言って現状俺は宮田と関わりが無い。

直接連絡を取っても良いが・・・それは最後の手段だな。

まずは『探ってみる』か。

それにしても吉田のボケが。

役に立たないどころか、余計なトラブル引き起こしやがって。

相談するにしても宮田は無いだろ。


さて、この場合どうするのが正解か。

俺がひかりんならガン無視で良いと判断するんだが、ひかりんは女の子だしそうもいかんだろう。

無視された結果強行に走るなんてこともあり得る。


かと言って相手をし続けるのは愚策だ。

余計増長させるだろう。


解決方法としたら黙らせるか諦めさせるのどっちかだろう。

手っ取り早く思いつく方法としては、黙らせるには脅す、潰す、殺すとかか。

諦めさせるにはひかりんに彼氏を作る、飽きさせるとかだろうか。


どれも現実的じゃないし、手っ取り早くも無い。


だったら--


「ひかりん、宮田の件はちょっと強行策に出ても良いか?」

「え、どういうこと?」

「ちょっとひかりんが怖い思いするかもしれない。けど手っ取り早い方法をとるってこと。」

「うーん・・・唯志君守ってくれる?」

「ああ、その点は安心して良い。最善を尽くす。」

「・・・うん、わかった。」

光は決心した顔で真剣に答えた。


「じゃあ、とりあえず宮田のyarnは以降無視して。」

「えっと、それで興味なくしてくれるかな?」

「まぁそうなればベスト。だけどエスカレートする可能性も高い。ちょっと怖い事になるかもしれない。だけどこっちで何とかする。yarnも危なそうなのが来たら逐一報告してほしい。」

「・・・うん、わかった。唯志君を信じるね。」

「任せとけ。莉緒にも話はしておくし、協力させるから。」


光は安心して胸をなでおろしていた。

そして改めて光がじーっと唯志の方は見つめていた。


「どした?ひかりん。」

「え、あ、いや・・・唯志君っていつもすぐに色々考え付くなって思って。」

「まぁそれくらいしか特徴無いからな、俺。」

「そんなことはないよ!それにいつも余裕そうだし!」


「そうでもないぞ?」

「そっかなぁ・・・いつも平然としてて余裕そう・・・」

「そんなことないって。人並みに動揺しているよ、多分。」

「そうなんだぁ。莉緒ちゃんじゃないとわからないのかな?」

「さぁどうだろうね。俺の事ばっかり見てればその内わかるんじゃない?」

「え・・・」

光は少し照れていた。

ああ、今の言い方じゃ俺のこと見とけって捉えられるか。

しくったな。

唯志は珍しく失敗したと反省していた。


「あ、それより!」

光が顔を上げて目を輝かせていた。

明らかに何か楽しい事を思いついたであろう事がわかった。


「ん?」

「今度花火大会行くって!莉緒ちゃんが言ってた!」

「ああ、聞いてるよ。ひかりんあまり経験ないんだって?もったいないな。」

「そうなんだ!やっぱり生で見ると凄いの!?」

「そうだな。近くで見ると迫力が全然違うね。」

「そうなんだ~。どっか行けそうなのあるかな?」

「八月に入ってすぐくらいに淀川で花火大会があるから、それ見に行こうか。俺らとひかりん、吉田で。」

俺らってのは莉緒のことなんだろう。

唯志に計画させるとは言っていたが、もう計画出来ていたようだ。


「本当!?良いの!?私たち邪魔じゃないかな?」

「花火大会なんていっぱいあるし、何回でも行けるから気にしなくて良いよ。吉田はそう言うの疎いだろうし。」

「良かったぁ。密かに楽しみにしてたんだよね。」

光は満面の笑みを浮かべている。

守りたいこの笑顔ってなるほどの笑顔だ。


「まぁまだ少し先の話だし、もう暫くは期待して待ってて。」

「うん、ありがとう!楽しみだな~。」


----

ひと通り話をした。

気づけば店に入って一時間半ほど経過していた。


「そろそろ行こうか。」

唯志が帰りを促した。

「あ、もう結構時間たったね。名残惜しいけど行こっか。」

名残惜しいというのはオシャレな喫茶店のことだろうか。

それとも唯志との会話のことだろうか。

拓哉がいたらもやもやしているところだろう。


会計は唯志が済ませ、店を後にした。

時刻は十五時頃にまでなっていた。

今から帰れば十六時近くになるだろう。


「送っていくよ。吉田の家まで。」

「え、悪いよ。方向も違うし。道は大丈夫だよ?」

「いや、宮田の件があるから。今日はまだ何の対策も出来てないし、念の為送っていく。」

「あ・・・」

光は会話に夢中になっていて宮田の件を頭から消していた。

唯志に言われて思い出し、スマホを見ると案の定宮田からyarnが来ていた。


「えっと・・・じゃあお願いします。」


そして光は唯志に連れられて拓哉の部屋へと帰って行った。


いつもと同じ帰り道。

拓哉とも何度か一緒に帰った。

だけど、今日は何か違って見えた。

その何かが光にはわからなかった。

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