第68話 光と唯志のお出かけ
光が現代に現れてから、色々な人と出会った。
割と毎週のように色んな人たちと交流もあった。
唯志ともいろんな話をして、色んな所にも行った。
だがこの組み合わせは何気に初めてだ。
今日は木曜日。
光と唯志が二人で出かけることになっている。
光は待ち合わせ場所の阪神梅田駅改札前に、待ち合わせ時間の十分前の八時五十分に到着した。
案の定だが、唯志が先に着いて待っていた。
「唯志君おはよー。待たせちゃってごめんね。」
「おはよ、ひかりん。別に待ってないから気にしなくて良いよ。」
定型文とも言えるような待ち合わせカップルっぽい社交辞令が執り行われ、唯志の案内で歩き出した。
「唯志君、いつも早いよね。どれくらい前に来てるの?」
「ひかりんが来るちょい前。」
唯志は明確に時間を言わなかった。
結構待たせてるんじゃないのか?と光は心配になったが
「人を待たせるの苦手なんだ。気にしなくて良いよ。」
と唯志に言われ、無理やり納得させられた。
今日向かう先は家庭裁判所だ。
梅田に集合したものの、違う電車に乗り換えて向かう必要がある。
唯志のエスコートでスムーズに裁判所まで来た。
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裁判所に入る前。
「唯志君、私こういうところ来たことないんだけど、大丈夫かな?・・・ちょっと不安。」
「俺も初めてだけど、まぁ安心して。基本的に俺が話すし、多少変なこと言ってもフォローするから。」
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唯志にそう言われ安心したものの、やっぱり入ってみると独特の雰囲気に緊張してきた。
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結構色々たらい回しにされた。
無駄に時間だけ使った。
殆どの手続きは唯志がしてくれたものの、時間はすごくかかった。
それに今日だけじゃ終わらないらしい。
そう言えば前にも唯志は『長期戦になる』と言っていたがこういう意味なのか。
私の状況は (作り話だが) 説明した。
だが、根拠が無いので調べる必要もある様だ。
その為にシチュエーション作りに拘っていたんだと今更ながら気づかされた。
先日の御子ちゃんとの擦り合わせが無かったらこの時点でアウトだったんだろう。
唯志はだいぶ前からこういう状況を作る為に動いていたんだなと感心させられた。
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裁判所前。
約二時間ほどの時間を要してしまった。
「疲れたー!!この時代のお役所での手続きは疲れるね!」
「未来じゃ無人化かWEB化でもされてる?」
「うん、たいてい端末から出来るね。わざわざ出向く必要ないよ。この時代は大変だね。」
「ほんとにな。さっさとそうしたら良いのにな。まぁ理由は明白だけど。」
「そうなの?システム作るだけじゃないの?お金が無いとか?」
「いや、職を失う人が増えるからだよ。ひかりんの時代じゃ人口激減してるんだろ?ある意味そのおかげ。」
なるほど。
確かにあのたらい回ししてきた人たち、全員が職を失うんだ。
全国中でそうなったら失業者が酷い事になりそうだ。
--物凄く無駄なことだけれども。
「それより話もあるんだっけ?腹も減ったし、その辺の喫茶店でも入ろっか。」
唯志がそう言って近場の喫茶店まで案内してくれた。
相談があることもちゃんと覚えてくれていたようだ。
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唯志に案内され入った喫茶店はオシャレな雰囲気の落ち着いた喫茶店だった。
必然的に客層は女性客かカップルくらいだ。
平日の為、客の年齢層も若い。
光はあまり慣れない雰囲気にそわそわしていたが、唯志にエスコートされ席へと着いた。
「支払い気にしなくて良いから、好きなもの注文して。」
「え、でも悪いよ。お金ならあるし私も払えるよ!」
「俺は女性に払わせるほど甲斐性なしじゃないぞ?良いから黙って奢られとけー。」
「う、うん。ありがとう、唯志君。」
申し訳ないとは思ったものの、唯志の気持ちが嬉しかった。
注文が届き、軽く会話をしながら食事を済ませた。
食後のデザートと飲み物を飲みながら、光はどうやって話を切り出そうか悩んでいた。
だが、唯志の方から話を切り出してきた。
「で、話ってなんだ?あまり良くない話?」
「・・・うん。先に裁判所に行っちゃったのももしかしたらまずいかも。ごめん、先に話すべきだったよね。」
「まぁとりあえず話してみ。聞いてから考えるから。」
「うん・・・。あの、これなんだけど・・・」
光はそう言ってスマホ画面を唯志に見せた。
yarnの宮田とのやり取りだ。
「何だこりゃ?shinyaって吉田じゃないよな。」
「うん、これタク君の友達の『宮田』って人。唯志君も友達って聞いたよ。」
「宮田・・・?ああ、大学の。そんな奴もいたね。」
「それで、その----」
その後、今日までの経緯を唯志に詳しく説明した。
拓哉の作戦で宮田に協力を求めたこと。
中途半端な情報を渡していること。
毎日のようにyarnが来ること。
先日二人で会う羽目になったこと、などなど。
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ひと通りの話を唯志は黙って聞いていた。
「----って状況なの。ごめんなさい!」
「ひかりんがあやまることじゃないぞ。しかし吉田のやつ、面倒なことにしてくれたな。」
「やっぱり面倒だよね?ごめんね、唯志君にも迷惑を--」
「いや、俺はいい。それよりひかりんが危ない。」
「え?」
「これ、ストーカー一歩手前だぞ。ひかりん可愛いから、宮田のボケが執着してる感じだな。」
唯志に可愛いと言われて、光は顔を真っ赤にして照れていた。
しかし、現状を考えてすぐ真顔に戻った。
「そんなことより!この人が余計な事したら唯志君も逮捕とか・・・絶対今の戸籍の件に悪い影響あるよね!?」
「んー、まぁその手のリスクは元から考えてたし良いよ。それよりもひかりんの身の安全の方が優先。これ、早めに何とかした方が良さそうだな。」
唯志は光の身を心配している様だ。
「この事、吉田は知ってるの?」
「ううん、言ってない。言ったら傷つけるかなって思って、言いづらくて・・・」
光の言いたいことはわかったが、唯志としてはこの状況を招いた拓哉に若干腹が立っていた。
しかし光が拓哉の家で世話になっている事情もあるので、そこは光の意思を尊重することとした。
「さて、どうするかな。」
そう言って唯志は残っていたコーヒーを口をつけた。
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