第66話 拓哉の日常

月曜日。

時妻村を訪れてから二日経過していた。

前日は時妻村遠征の疲れからか、拓哉も光ものんびりとして過ごした。

拓哉はまたも大して役に立っていなかったことにもやもやしながら就寝し、本日を迎えた。

前日の疲れからか、若干気怠さが残っていた。


現在は光に見送られて家を出た直後。

おおよそ朝の八時くらいだ。

拓哉はスマホを見る。


この所光がいるので少しおざなりになっているイヌ娘を起動する。

家には光がいるので中々この手のゲームがやりづらい。

引かれても嫌だし。

必然的に手を付けるのは家を出てからか、光のお風呂中、就寝前の寝室くらいになる。

デイリーミッションはこなしておきたいので家を出たらすぐに起動するのが日課だ。


そしてyarnで野村に連絡を取る。

これも最近の日課だ。

元はもっぱらskypoでの連絡だったのだが、日中にskypoにログインすると光にバレる可能性が高い。

だからyarnでの連絡に切り替えたのだった。

それにyarnなら暇な時に返事をすれば良いという当たり前の事に最近になって気づいた。


[ノムさんおはよー。土日は結構大変だったよ。疲れが取れなくてヤバいwww]


このまま放っておけば会社に着いた頃には返事が来ているだろう。


始業時間の五分前--会社について席に着く。

出社時間としては社員の中では最も遅い部類だが、拓哉の日常だった。

息つく暇もなくラジオ体操が始まるのだが、その前のyarnをチェックする。


[おはよーさん。何?光ちゃんとよろしくやってるの?w]

全く、これだから既婚者は。

そんなすぐに事が運ぶわけがないということが全くわかっていない。

(恋愛経験皆無の拓哉の方がわかっていないのは明白だが・・・)


[そうじゃなくて・・・土曜日に霊能力者に会いに遠出してたんだよ。無駄に疲れた割に大した収穫なかったけど]

何も知らない野村には、さも中心人物の様な物言いで語っていた。


そうこうしている間にラジオ体操の音楽が流れ始めた。

拓哉の『つまらない仕事』の始まりの合図だった。


今日もつまらない仕事を少しずつ処理しつつ、時折yarnで野村とやり取りする。


[何それ、霊能力者?wどんどん面白くなってるじゃんw]

[笑い事じゃないってw未来に帰る方法探してるはずなのに、気が付いたら霊能力者に会ってるんだからw]


野村に対しては結構本音で話せる拓哉は、自分は何もしていない割に不満そうに意見を述べていた。


[まぁそっちの方はあまり協力できることないからなー。それより光ちゃんとはどうなのよ?進展した?]


拓哉は仕事の合間でたまに返事をするだけだが、野村の方は返事が早い。

野村は親族経営の会社で若くして役員をしているだけあって、日中はほぼ暇にしている。

遊んでても拓哉や唯志より給料をもらえるのだから羨ましい限りだ。


進展した・・・か。

どうなんだろう?

間違いなく出会った直後よりは仲良くなってる--と思う。

なってるよな?

少なくとも不自然な敬語などは使わなくなった気がするし、野村とかと話している様な自然体な会話になっているはずだ。


[進展してるのかなー?どうなったら進展と認定して良いと思う?]

[中学生かよw手を繋いだとか、抱き合ったとか無いの?]

[あるわけがない。てかそれなら付き合うのが先じゃないの?]

[ピュアかよwww]


なんかバカにされた気がする。

(実際バカにされてるだろう。)

こっちはDTだというのに。

既婚者感覚で言わないで欲しい。

付き合う前に抱き合ったりしたらダメだろ!

拓哉は憤慨した。


仕事をしつつ、合間合間で野村とのyarnを続けている。

むしろ野村との話が気になって、どちらがメインかわからなくっている。

ふとスマホ画面を見ると、野村から追撃も来ていた。


[つかさー、もう一ヶ月くらい一緒に住んでるわけじゃん?お前もいい歳の大人だぜー?なんも無い方が不自然じゃね?]

こいつは何を言ってるんだ。

困ってる女の子の弱みに付け込んで何とかしろと言うのか。

なんてやつ。


[いや、なんかあっちゃまずいでしょ。相手困ってる女性だぞ?]

[でもお前好きじゃん。もう既に何かあってるじゃん。]


---ぐぬぬっ

拓哉は図星を突かれて返す言葉が無かった。

そりゃあ惚れてますけど。

あわよくば付き合いたいけど!

だからってこの状況に付け込むのはどうなんだよ。

決してヘタレなわけじゃなく、真面目に考えてそう思ってるんだよ。


そんなことを考えていると、また野村から追撃が来た。

[つかさ、もう告っちゃえば?その方が話早くね?]


----またこいつはなんてことを言うんだ。

一瞬思考が停止したわ。

停止した思考を再稼働して何とか返信を絞り出した。


[なんでそうなる。話聞いてる?]

[聞いてはいるぞwでもさー、お前付き合いたいんだろ?]


---えふっ!えふっ!

またも図星を突かれた。

繰り返しになるが、付き合いたいに決まってる!

付き合いたくないわけがない!

だからって・・・


だが野村の追撃は留まるところを知らない。


[現状養ってあげてるとか完全に強みじゃん?強みは活かそうぜw]

[強みと言うか、弱みに付け込んでるでしょ、それ。]

[そうだぞ?人間関係って少なからずそう言うもんだぞ?男と別れた直後の女は落としやすい・・・的なのと何ら変わらん。]


そう言われるとそうかもしれないけど・・・

だが拓哉にはやはりどこか引っかかる部分があった。


[言いたいことはわかるけど・・・でも、光ちゃんが困ってることに付け込むのはなぁ・・・]

[まぁタクが良いなら良いけどさ。好意を伝えることで進展することもあるんだぞ?まして相手はあれほどの美女だし、自分に興味ないって思われる方がデメリットでかい気がするけどね。]


----確かに。

と拓哉は思った。

野村の言いたいことはわかった。


だが、告白したら最後じゃないかとも思った。

成功したら良い。

--だが、失敗したら?


拓哉は考えた。

考えに考えた。


現代に来て、まだ多くの人と知り合ってるわけじゃない光。

今後、唯志の作戦通りに進んだら普通の生活を送る算段も付いてくるだろう。

そうなったら当然出会いも増える。

あの美女をほっとく男はそうそういない。


今のうちにある程度進展しておかなければならないのは明白だった。


考えに考えて出した結論は----


告白なんて出来るわけなかった。

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