第63話 時妻村7

「それよりも唯志。あんたの企みの方はええんか?まだ何かあるやろ?」

と御子は拓哉たちが帰る前にと、唯志の『企み』の方について聞いてきた。

「さて、なんのことやら?今日はこれで十分だぞ。」

と唯志はとぼけているのか素知らぬ顔で答えた。

「まぁあんたがええならええけど。悪い企みでもなさそうやしな。」

と御子は色を見たのか、何か納得したように言った。


「それと光、ちょっとちょっと。」

そう言って御子は光を手招きして呼び寄せる。

「どうしたの?」

光は呼ばれるままに御子の方にそばに寄って行き、きょとんとして言った。

どうやら内緒話らしく、拓哉たちには聞こえない様に少し離れたところに移動して御子は話し始めた。

「あんた、未来の件みたいな大きな悩みと別になんか悩んどるやろ?」

「え!?えっと・・・まぁ少し・・・」

光は苦虫でも噛み潰そうかと言う表情で言った。


「何を悩んどるんかまではわからんけどな、その悩みは誰かに相談した方がええで。」

「うん・・・。そうだよね。」

「莉緒でも唯志でもええ。あかんくなる前に相談しとき。」

「うん、ありがとう御子ちゃん。」


拓哉たちには聞こえていないが、御子の話は光の悩みについてだった。

(ちなみに拓哉はそわそわしながらちらちら見ていた。)

元々占い師に近い商売をしている家系だけあって、こういうのは専門なんだろう。


「それと、莉緒。あんたもこっちきてみー。」

光が御子の元から戻るのと同時に、今度は莉緒を呼び寄せた。

「お、何?何?なんか面白い事?」

莉緒は笑顔で応じた。

例によって他の人たちからは聞こえない位置で話し始めた。

「あんたもなんか大きな悩みでもあるやろ。悩み、と言うより気持ちは決まってそうな感じじゃが。」

「ほーう。この莉緒ちゃんの心を読むとは、やるね!」

莉緒はおどけてみせたが、御子は真剣だった。

「あんたの場合は余計なお世話になるかもしれんけど、最後は自分の心に従った方が後悔はせえへんと思うで。」

「あー、アドバイスってやつだね。肝に銘じておくよー。」

そう言って莉緒は唯志の横に小走りで戻って行った。


「んじゃ、最後に唯志。あんたもこっち来い。」

「俺もかよ。」

唯志はそう言って不満そうな、それでいて少し楽しそうに御子のそばに寄って行った。


「なんだ?お悩み相談室でもやってんのか?」

「ちょっとした助言をしとるだけじゃ。『占い師』としてな。」

御子は皮肉の様に言った。

「残念だけど、俺には悩みとか無いぞ。占いも信じてないし。」

「せやろな。あんたの場合はちょっと興味があっただけや。あんた・・・誰も信じてないやろ?いや、期待してないの方が近いか?」

御子がそう言うと、唯志は「さてね」ととぼけてみせた。


「そう言う御子だって、その『能力』じゃ大変だったろ?」

「せやな。なんせ目の前の人間の本性が見えてまうからな。」

「だろうね。で、俺にはどんな助言を?」

そう言って唯志はニヤっと笑った。

「期待してないくせによう言うな。残念だが、あんたに助言なんてない。ただ、あんたと私は同族やろな思って確かめたかっただけじゃ。」

「はは、名家の御当主で霊能力者みたいなお方と同族なんて恐れ多いね。」

そう言って笑った唯志に対して、御子は真剣な表情に変わって話を続けた。


「ただな、これは助言ちゃうけど・・・。あんたも立ち位置を考えた方がええと思うで。」

「どういう意味だ?」

「わかっとるやろ?今の一歩引いた立ち位置じゃいずれ綻びが出るやろ。手を引くか、本気になるか。考えた方がええと思うで。」

「俺はいつでも本気だぞ?」

「そう言う意味ちゃう。それにこれはうちが言うまでも無く、『自覚』しとるやろ?」

「・・・」

「まぁうちからはそれだけや。」

そう言うと、御子の方が先に皆の元に帰って行った。


唯志は少しの間、神妙な顔をして立ちつくしていた。


唯志も合流した全員の輪では、御子と全員が連絡先の交換会をしていた。

最後に唯志は大阪の不動産情報誌を御子に渡していた。

こんなものまで用意していたのかと全員が驚いていたが、「まぁ可能性を考慮して。」と簡単に答えていた。


--

「それじゃ、また落ち着いたら連絡するわ」

そういう御子に見送られ、一行は間宮の車で帰路に着いた。


拓哉は最後の光、莉緒、唯志が呼び出された話が気になって、気が気じゃなく黙って上の空になっていた。

(それでなくても元々車中では沈黙してるが。)

何より自分が蚊帳の外だったことが悔しかった。

時折ちらちらと光の方を見ては、考え込んでいた。

その光はと言うと、車中に戻ってからスマホをいじっていた。

珍しく黙っている。


「少しは収穫があったね。望んだ結果じゃなかったかもしれないけど。」

間宮がそう言うと唯志が答えた。

「特に間宮さんにはね。」

「ははは、確かにね。こっちの商売全否定された気分だよ。まぁそれは良いんだけど、次はどうするんだい?」

間宮は思ってたよりは落ち込んでいない様だ。

オカルト記者と言っても完全に幽霊を信じているわけでもないだろう。

ある意味答えが出たことに満足しているといったところだろうか。


「山田の件はこれ以上無理でしょうね。御子が引っ越してきた後ならまだしも、現状は手詰まりです。」

唯志があえてそう口に出した。

が、全員が同じ認識を持っていた。

ただ光の手前、言いづらくて言っていないだけだ。


「俺たちは顔も名前もわからない。探しようがない。それに探すとしても間宮さんの分野じゃないでしょう。」

唯志の言う通りだった。

山田と言う名前も、記憶喪失で名前がわからないのじゃ不便なのでと御子が付けた名前らしい。

記憶の戻った今は元の名前を名乗っているかもしれない。

要するに『山田』と呼ばれた男の情報が現状で皆無だった。

顔を知っている御子を連れ出さない限り、探す術がない。

(もっとも御子を連れ出したところで絶望的なのには変わりない。)


「それに山田の件は、手を引いた方が良さそうだ。」

唯志は珍しく真剣な顔で言っていた。

「それはどういう意味?」

恵が質問したが、唯志は詳しく答えなかった。

「俺の予想だけど…多分関わらない方が身のためだと思う。」

そう言って、その後は続けなかった。


少し不穏な空気になった車内で、間宮が改めて口を開いた。

「まぁある意味最初からアタリは引けたんだけどね。ここを掘ってももう無駄だろう。とりあえず僕は神隠しの別ルートを模索してみるよ。」

「ええ、お願いします。」

「あ、お願いします!」

スマホいじりで会話に参加していなかった光だが、唯志に追従して慌ててお礼を言っていた。


「こっちはこっちでとりあえず就籍の手続きだな、ひかりん。来週から動くぞ。」

「あ、うん。よろしくお願いします!」

光は続いて唯志にもお礼を言っていた。

だが、どこか上の空な雰囲気だった。


そんな中、拓哉は『今回も』自分は何もしていないという事実に不甲斐なさを感じていた。

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