第61話 時妻村5

「ええで、光のことはこの屋敷で保護していた記憶喪失者ということにしといたるわ。」

御子が唯志の取引を受け入れた様だ。

これで光が戸籍を取得する為の条件は整ったのだろうか。

細かくはわからないが、前進したことは確かだ。

またも唯志のペースだったことは不服だが、光が戸籍をとる事は拓哉にとっても喜ばしかった。


戸籍さえあれば、結婚だってできるわけで・・・

とか、既に妄想も始まっていた。


「ありがとう、御子ちゃん!」

そんな拓哉の気持ち悪い妄想を全く知らない光は、手放しで喜んでお礼を言っていた。

「サンキュー、御当主様。」

唯志もお礼を言っていた。

何故か上からな言い方だが。


「ええでええで。その代わり、うちからも頼みがある。」


「え?」

御子の言葉にいの一番に声を出したのは拓哉だった。

(取引は成立したんじゃなかったの!?)

等と考えていた。


「なんじゃ?不服そうやな。そもそも吉田は何もしとらんやろ。」

拓哉は考えも見通されるわ、図星を突かれるわでぐうの音も出なかった。


「なに、そんなに難しい話しちゃう。ちょっと頼み事があるだけじゃ。どうじゃ、『唯志』。」

御子は唯志を御指名した。

例によって唯志をリーダーだとでも思っているんだろうと思い、拓哉は不満だった。

だが、実際は違うようだ。


「唯志。あんた、まだ何か企んでるやろ?頼みは聞いといた方がええと思うで。」

と、御子はニヤッとして言った。


一方の唯志は特に変わった様子もなく、

「まぁ聞くだけ聞いてやるよ。受けるかはわからないけど。」

と、こっちも何故か強気に了承した。


「実はな、うちもう少ししたら大阪で一人暮らししようと思っててん。とは言え大阪には知り合いがおらん。だからその際に協力してほしいだけじゃ。」

「協力って具体的に何を?」

と光が質問した。


「そんな構えんでええで。知っての通り都会には不慣れやからな。近くに住むから案内とか色々教えてほしいだけじゃ。まぁ夏は霊能力者的には忙しいから、九月以降の話じゃが。」

「あー、そう言うのだと私は戦力外だな・・・」

光は苦笑いをしていた。

光もだいぶ現代に慣れてきたとはいえ、まだまだ大阪の土地勘が無い。

立場的には光も御子と大差なかった。


「そもそも、光は今どうしておるのじゃ?立場的には山田と変わらんやろ?唯志か莉緒の家にでも住んでるのか?」

(また岡村君だよ。なんでだよ。)

拓哉は更に不満だった。

「違うよー。今はタク君の部屋でお世話になってるの。」

光は笑顔で答えたが・・・


「タク君?ああ、吉田か・・・マジで?」

御子は若干引きつり気味で言った。

この反応にますます拓哉は機嫌が悪くなり思わず口を出した。

「俺が光ちゃんを保護してるけど、何か文句がある・・・んですか?」

珍しく不満げに言った。


「文句と言うか、あんたは・・・。ふーむ。」

拓哉は自分で言っておいて (しまった) と言う思いで気が気じゃなかった。

次の御子の言葉が気になって気になってしょうがなかった。

何故なら、この霊能力者は相手の心が読める (正確にはある程度察することが出来る) から。

(もしかしたら俺が光ちゃんのこと好きなのもバレてる?・・・やばい、言われたらどうすれば!!)


「じゃあ、こうしよう。うちが大阪に住み始めたあかつきには、光も一緒に住む!」

「え?」「えええ!?」

拓哉と光が同時に驚いた。


拓哉の心配は杞憂に終わったが、別の問題が浮上した。

(せっかくの同棲が解消される!!)

「いや、それは・・・その・・・」

拓哉は何とか反論して、光との同棲を継続したかったが反論の言葉が出てこない。

と言うか反論の余地が無い。

普通に考えて女性同士、それも金持ちに保護された方が良い。

と言うか何を言っても気持ち悪く思われそうだ。


「なんじゃ?あかんのか、吉田。」

御子はニヤッとしながら拓哉を見て言った。

拓哉はまたもぐうの音も出なかった。

しかし--


「ああ、あかんね。話にならない。」

そう言って反論の声を上げたのは唯志だった。


「なんや、あんたが否定するんかい。なんでじゃ?」

御子は不貞腐れたような顔でそう言った。


「まずひかりんの意思がない。ひかりんはどう?」

「え?えっと・・・私はその、お世話になる方だから何とも言いづらいかな・・・みんなが決めたのに従うよ。」

光は少し困りながらそう言った。


「だ、そうだぞ。それでもまだあかんか?」

「ああ、まだ駄目だね。それだと御子とひかりんの二人暮らしってことだろ?」

「せやな。女二人だし問題ないやろ?」

「いや、大問題だ。御子は都会音痴でお嬢様。ひかりんは現代音痴で関西も不慣れ。生活が成り立たないだろ。」


「あ。」

何人かが同じ様に言った。

どうやらみんなして今頃その事に気づいたようだ。


「た、確かにそうやな・・・。なら、唯志も一緒に住むんはどうや!?」

「俺は遠慮しとく。莉緒もいるし。」

「そうだそうだー!」

ここまで黙って聞いていた莉緒だったが、これには唯志に同調して声を上げた。


「なら、莉緒が一緒に住まんか?」

「私はほとんど唯志の部屋にいるから意味ないよ?」

「あー、確かに。」

光がなるほどと言う顔をしていた。

これには御子も困った様に頭を悩ませていた。


「ふむぅ・・・そうなると・・・吉田、しゃーないからお前も一緒に住もか。」

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