第59話 時妻村3

「霊なんていない・・・?」

光はきょとんとしていた。

御子は自称霊能力者の家系の現当主だ。

その御子が自分の存在否定するかのような発言だった。


「そうじゃ。少なくともドラマや映画で出てくるような霊なんていーひん。」

と御子は言う。


「そりゃそうだろう。吉田はいると思ってたのか?貞子とか伽椰子が。」

と唯志は拓哉に追い打ちをかけた。

実際のところ、いないだろうと思いつつも心の中ではいるんじゃないかという思いもあった。

多分大多数の人間がそうだろう。

だが、この男(唯志)は真っ向からそれを否定した。

ついでに自称霊能力者のお墨付きで。


「だって霊なんていたらおかしいだろ。死んで出てくる?記憶とかも残ってるし、特殊能力やら物理攻撃までしてくるんだぞ?世界の物理法則どうなってんだって話だ。」

唯志の言う通り、冷静に考えたらその通りなんだが、それでも誰しもが霊を怖がる。

それはいるんじゃないかと思うからだ。

だからこそ霊能力者なんてものが存在してるんじゃないのか。

主に目の前に。


「唯志の言う通り、物語に出てくる様な霊なんていない。ただ、うちには『見える』。その見える存在が昔から霊として恐れられてきたから霊能力者ってことになっておる。」

「『見える』?何がかな?」

間宮が恐る恐る聞いた。


「本来見えないものじゃ。時間軸のずれた映像。それが昔から霊として恐れられてきた。うちの一族は昔からそれが見えるものが生まれる。だから霊能力者として生活してきたのじゃ。」


そこから御子は一族の成り立ちや、霊能力の事について簡単に説明してくれた。

どうやら西条家は陰陽師の末裔で、特殊な能力はあるものの実態は『占い師』に近いとのことだった。

普通の人に見えてしまう霊の様なものは、ほぼ過去の映像が見えてしまうだけ。

その時空の歪みで過去の映像が見えてしまう能力に特化しているとか。

色が見える件もそうだが、要するに人に見えないものが見える一族なんだそうだ。


「まぁうちらに見えないだけで、本当に霊ってのはいるのかもわからんけどな。少なくともうちにはオバケはみえへんで。」

御子の説明に、各々がそれぞれ色々と思うところがあった様で神妙な顔をしていた。


「ふーん。でも、とりあえず色が見えるってのは本当みたいだな。で、ひかりんが面白い色ってのはどういう意味?」

唯志はここまでの話が無かったかのように次の話題に移った。

なんか言うことないのかよ!と思ったが、拓哉自身何も言えることが無かったので黙っていた。


「光は一見普通の色なんじゃ。莉緒や恵と変わらない普通の女子やな。でも色の中にさっき話した幽霊もどきが見える時の色も混じっとる。それが不思議やねん。んで、それは山田もそうやった。」

「!」

全員が驚いた。

少し予想はしていたが、やはり山田も『未来人』かもしれない。

その思いが強くなった。

拓哉でさえそう思った。


「その山田っての、どうだった?御子の見る限りで良い。その色ってやつの印象は。」

「うーん・・・最初は光と同じ色が混じっている以外は、歳の割に『無垢』って印象やったな。多分記憶喪失のせいなんやろな。あと、何か悲しい事があった直後って印象もあった気がするわ。」

「何か悲しい事があって、それがショックで記憶をなくしたとか?」

恵が思わず口を挟んだ。

「そうかもしれんし、ちゃうかもしれん。そこまではわからんのじゃ。」

と御子は答える。

色が見えると言っても万能ではない様だ。


「その後は?ひかりんとかの話だと、記憶が戻ったのに気づいたんだろ?」

と唯志は続きを催促した。

「そうやな・・・たぶん記憶は戻っとった。色が明らかに変わったし。」

「どんな風に?」

唯志は根掘り葉掘り聞きたいようだ。

「んー、光と同じ色なのは変わってなかってんけど、色を見るまでも無く何かを覚悟した目をしてた。あと、悲しみに混じって怒りの色が強う出てた。無垢さは欠片も無くなっとったな。」

「・・・で、その後行方をくらませたと?」

「そうやな。移動方法まではわからんが、歩いて隣の市まで行ったんかもな。」


(歩いて?車でも相当かかるぞ。)

と拓哉は真剣な表情で考えていた。

そこはどうでも良い気もするが。


「山田ってやつは金は持ってたのか?」

唯志がどうでも良い事を聞いている。

(拓哉的にはだが。)

「いや、無一文だったはずじゃ。それがどうかしたか?」

「・・・。」

唯志は難しい顔をして、それ以上答えなかった。

また何か考え事をしているんだろう。


「御子、占い師的な予想で良い。山田は何をしようとしてると思う?」

「霊能力者じゃが・・・。まぁあまりええことではないじゃろな。あの雰囲気や。人でも殺しそうな感情やった・・・と思う。」

「そんなことが出来そうな人間に見えたか?」

「最初のうちは見えんかった。やけど、出て行く直前は鬼気迫るって感じやった。」

「なるほどな・・・。」

唯志は難しい顔のまま、その後山田の話は続けなかった。

何か思うところがあったんだろうか。

拓哉には全くわからなかった。


「まぁだいたい分かった。そこでもう一つ話がある。と言うか、『取引』だ。」

黙っていた唯志だったが、表情を切り替えてそう切り出した。

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