第9話 オカルト雑誌記者

間宮譲、雑誌記者。主にオカルト系を取り扱っている。

年中ネタに困っていて、何かあると面白いネタが無いか聞いてくる。

かといって今回のネタを喜ぶかは甚だ疑問だが。

まぁ多少恩を売っておいても損はないし、とりあえず連絡をしてみるか。

佐藤はスマホを手に取り、間宮に電話をかけた。

数コールほどで間宮が出た。


「どうした、カズ。珍しいな。」

「とっておきのネタがあるんだが、提供しようと思ってな。」

わざと大袈裟に言っておく。

「ほう。話してみろよ。」

「梅田発光事件って知ってるか?」

「聞いたことないな。」

それはそうだ。今佐藤が思い付きで名付けたんだから。

「今日梅田で怪奇現象が起こったんだよ。んで、それに居合わせた。」

「誰が?」

「俺が。」

「面白そうだな。これから暇か?飯でもどうだ?詳しく聞かせろよ。」

「奢れよ?」

「わかったよ。17時にJRの方の福島駅前でどうよ。」

「おけ、把握。楽しみにしとけよー。」

奢らせる約束を取り付けることに成功した。


「奢ってもらえるんですか?私も行きたいでーす。」

恵が話の内容から察しておこぼれを貰おうとしてきた。

まぁ恵のおかげと言っても過言ではないし、連れていくことにするか。

今日はこれ以上客もなさそうだし、種々処理したら早めに店じまいしてしまおう。

佐藤はたまっているメールの確認や返信から手を付け始めた。


17時5分。JR福島駅前。

「悪い、少し遅れた。」

5分ほど遅れて間宮が到着した。

「この分は高くつくぞ。」

「わかってるよって、あれ?恵ちゃんも一緒か。」

「こんにちは、間宮さん。御無沙汰です。」

間宮と恵も過去に何度か面識がある。

「あ、さては奢りだと思って!」

「ゴチになりまーす」

恵が笑いながら答えた。

「ったく、しゃーないな。あっちに個室のある居酒屋があるし、そこで良いだろ?」

間宮に連れられ、佐藤と恵は店へと向かった。


「うおっ!すごいな。」

動画を見た間宮が思わず声をあげた。

「だろ?おかげで尾行してたターゲット見失ったほどだ。」

「こんな長い時間だったらそれもしゃーないな。で?」

「ん?だからまた月曜日からふりだしに・・・」

「お前の仕事はどうでもいいよ。この動画の続きは?」

「ないよ?」

「は?」

「これで終わり。眩しかったなー」

「アホか!ただ光っただけじゃねーか!どこが怪奇現象だよ!」

「不思議な現象には変わりないだろー。」

「でも光っただけだろ・・・てか担当はホラー系なんだけど」

「あれ?超常現象なら何でもいいんじゃないんですか?」

恵が思わず口をはさんだ。

「雑誌としてはね。オカルト全般の雑誌だからネタは欲しい。でも俺の担当はホラー方面なの。」

「まぁ知ってたけど。でもこれ凄くない?原因なんだと思うよ?」

「電気工事ミスとかじゃねーの?梅田って言ってたっけ。どのあたり?」

「えーっと・・・ほら、この辺」

そう言って佐藤は間宮と恵に見えるようにスマホを差し出した。

「なるほどね・・・。確かこの辺りなら・・・ちょっと待ってろ。」

そういうと間宮はスマホで調べ始めた。

「間宮さん何かわかるんですか?」

「いや、この辺りってライブカメラの映像を動画サイトで流してたはずなんだよ。」

「そんなのあるのか。過去映像も見れるの?」

「確か見れた・・・あ、あった。この辺りか?」

そう言って差し出された画面には、ちょうど現場の付近が映っていた。

「おーその辺その辺。」

「何時くらい」

「確か・・・このあたりの時間かな・・・。」

発光が起こったと思われる時間帯頃までシークバーを戻した。

「お、ターゲットだ。もしかしてターゲットの行先わかるかも?・・・いや、画角的に厳しいかな。」

そうこう言っているうちに、問題の時間となった。


カッ!!!


画面が真っ白になった。


「こうやって遠目の画面で見ても凄いなこれ。」

「だろー?俺この時直視しちゃったからマジで復活に時間がかかったよ。」

「私も行けばよかったなー。」


そして、数十秒が経過し、画面は元通りに戻った。

監視カメラも視界を奪われたのだろう、オートフォーカスがピントを調整し、

元の鮮明な画面に戻るのに1分近くかかっていた。


「残念ながら、朝田は映ってないな。この手のライブカメラってこの付近にもある?」

「朝田ってさっきのターゲットのことだろ?あいつが向かった方にはリアルタイムのしか無いよ。」

なんでこの男(間宮)はライブカメラに詳しいんだよ。暇なのか?

「あーでもリアルタイムのでもすぐに確認したら見つけれたかもな。今度試してみよう。」

そう言っている間も間宮は映像を戻したり進めたりしていた。

「間宮さん、どうかしましたか?」

あまりに真剣な表情に、恵が心配して訊ねた。

「いや、このカップル・・・ではないか。若い男女なんだが・・・なんかおかしくないか?」

そう言って画面を見せられた。


画面には尻餅をついている男女が起き上がって話をするところが映っていた。


「あー、こいつら見た気がするわ。」

「だろうね。この直後にお前が通過していくし。」

「げっ。俺も映ってんのかよ。」

「誰も見てないし気にすんな。それよりも女の方だ。」

「この女の子がどうかしたんですか?」

「まず格好が変だ。コスプレかなんかか?この暑いのに。」

「ほんとですね。でもこんなキャラ見たことないなぁ。」

恵は割とアニメにも詳しい方だったが、それでも見覚えが無い様子だった。

「まぁ仮にコスプレだったとして、それは良い。」

「良いのかよ!」

佐藤は思わず突っ込んだ。

「それよりもこの子、『どこから』来た?」


佐藤も恵も、間宮の言っている意味が分からなかった。

間宮が動画を戻して説明を始める。


「見ろ。光る直前、男の方が映ってるだろ。」

「あー、確かにこの子っぽいですね。」

「で、女の方はどこだ?」

「光って画面が見えない間に走ってきたんだろ。」

佐藤は至極全うな意見を言った。

「この光る直前。画面内には女はいない。真っ直ぐ走ってきたとして、どれくらいの距離がある?」

佐藤は少し考えた。他の人間の歩幅から考えて、男の直線状の最短距離は20m弱位か。

「おそらく20mくらいだと思う。」

「だな。で、20mを女が走るのにどれくらいの時間が要る?」

「全力疾走なら4秒くらいか?まぁ街中で全力疾走なんてしないし、6秒~10秒くらい要るかもな。」

「妥当なところだな。で、だ。お前、前が全く見えない状況でそんな時間走れるか?」


佐藤も恵もはっと驚いた表情を浮かべた。

普通に考えて無理だ。走る事は出来るだろうが、視界が奪われた時点で普通は立ち止まる。

又はすぐに転んだりするだろう。


「歩いてって線は・・・ないよな。」

他の歩行者も軒並み視界が戻るまで立ち止まっている。

第一歩いていたとしたら20秒くらいはかかる距離だ。

目が見えない状況でそんなに歩く人間がいると思えない。


「もう一度聞くぞ。この女、『どこから』来たんだ?」


間宮の問いに、2人とも沈黙するしかなかった。

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