第4話 タイムスリップ?

「--じゃあ今のアメリカ大統領は?」

「そういうの詳しくないんだよなぁ。ジョージ何とか?でしたっけ?」

「とりあえず、僕が知ってるのはジョー・バイデンですね。」

「惜しい!」


惜しくはない。

拓哉と光はかれこれ30分ほど、この様なやり取りを続けている。

光が本当に未来から来たのか。

それを確かめるためにお互いが知っている、誰でも知っていそうな情報を確かめ合っていた。

現内閣総理大臣や、今流行っているアイドルなど。


最初はスマホの画面で『2021年6月12日』と表示されていることを見せたのだが、「それって何ですか」と返されてしまった。

どうやらこの結城光という女性の中には、スマートフォンという概念が無いらしい。

その後あの手この手で現在の日付を伝えようとしたが、お互いに全く信じられず、現在に至るというわけだ。


「あ、じゃああれはどうですか?今年優勝したeプロのチーム名!」

また聞きなれない単語が出てきた。


「あの、そもそもeプロって・・・何ですか?」

「え、eプロって無いんですか!?」

少なくとも拓哉の中にそのような単語は無かった。

チームってことは何かの競技かスポーツだろうか。

もしくは未来ではeスポーツがプロリーグとして認知されているのかもしれない。

とにもかくにも、知らないものは答えようがない。


「うーん、困ったなぁ。」

と光は首をかしげていた。

困っているのは拓哉も同じだった。

テレポートが本当だとしても、それはまだ何とか出来た。

最悪、目の前の女性にお金を渡し、新大阪まで連れていけばよかったからだ。


だが、タイムリープとなると・・・。

いや、この場合はタイムスリップって言うのか。

タイムスリップでは、手の施しようがない。

そもそもこの突拍子もない話を信じていいものかもわからない。

(宗教勧誘の方がまだ対処できたかもな・・・)

拓哉はどうしていいものかわからず、頭を抱えていた。


「でも、そっかぁ~。本当に百年前に来ちゃったのかぁ。どうしよう・・・。」

「あの、そもそも結城さんは目的があって過去に来た・・・ってわけじゃないんですよね?」

「はい、最初に言ったように、なんか急に光って気が付いたらって感じです。」

「・・・百年後にはタイムマシンとかあるんですか?」

「ないですよ~。なんかタイムマシンは実現不可能とか言われてますね。」

それはそうだろう。

タイムマシンが実現できるなら、今頃未来人だらけになっているはずだ。


「じゃあ、とりあえず結城さんの目的は未来に帰る事・・・ってことですかね?」

「そうなりますね~。ただ東京に帰っても、結局100年前じゃ意味ないですし。」

やっぱりそうなるか。

東京に帰るだけなら金で何とか出来たけど、未来に帰る。

こんなのどうしたらいいのか。

そんなのこの場で、平平凡凡な一般人に何とかできる話じゃないぞ。


「未来に帰る・・・心当たりというか、何か思いつく方法とかありますか?」

「まっっったくないですね~。」

だろうな。

この子は自称未来人って以外は、いたって普通の子に見える。

タイムスリップしてしまったのも、巻き込まれたとかそんな感じなんだろう。


「それなら・・・、どうしましょうか・・・。」

こういう時、決断力もなくアイデアも思い浮かばない自分が情けない。

「そうですね、まずは当面の衣食住を考えないとって思うんです。未来に帰るにしても方法がわかりませんし、すぐには無理でしょうから。」


盲点だった。

明らかに超常的な状況に忘れていた。

目の前の女性は未来人とは名乗っているが、普通の女性で普通の人間だ。

当然お腹も減るだろうし、野宿ってわけにもいかない。

だが・・・

「あてはあるんですか?」

「まっっったくないですね!」

何故この状況で笑いながら言えるのか。


「ホテルとか満喫に泊まるにしても、ああいうのってたいてい住所要りますよね。」

「現状住所不定ですからね。それに電子マネーも使えないみたいだし。」

光は遠くを見ながら言っている。


現金は持ってないし使えない。

電子マネーもダメ。

それにスマホとか携帯電話も無いんだろう。

冷静に考えて、選択肢としてはあるけどあり得ない可能性を口にしてみることにした。


「とりあえず今日は・・・僕の家に泊まりますか?」

「・・・」


沈黙。


あ、やばいこれ事案じゃね?

そんなことを考えていたが、それは杞憂だった。


「あ、それ良いですね!でも御迷惑じゃないですか?」

「え。」

気が緩んだからとりあえず冗談として言ってみただけだった。

あわよくばとか考えてない。

少ししか。

あっさり断られて選択肢として消したかっただけだった。

事案っぽい事は後から気づいた。


まさかの乗り気に、拓哉は返す言葉を失っていた。


「・・・本気で言ってます?」

「御迷惑じゃなければ!吉田さんってひとり暮らしですか?二人寝るスペースはあります?私床でも良いので!」


どうやら本気らしい。

拓哉は本日何度目かの絶句をしていた。


「あの、怖いとか…そういうのないんですか?見ず知らずの男ですよ?」

「あ、もしかしてイヤラシイコト考えてます?そういうつもりなら--」

「いや、それは全然!」

(少し期待はしたけど)

「ですよねー。吉田さんそういう度胸なさそうだし」

笑いながら言われたので、拓也としても少し腹が立った。

顔には出さないが。


「でもこういう場合、まずは警察とか?」

「なんて説明するんですか?この人未来から来たんですーとか?あまり良いことにはならなそうですよ?」

「確かに・・・。」

(下手したら、俺が逮捕されそう・・・。)


「じゃあ、とりあえず今日はうちに泊まってください。」

「はい、よろしくお願いします!」


こうして、拓也の家に光が泊まることになった。

(・・・これなんてエロゲ?)

そんなことを考えながら。

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