第2話 早い再会

(何だったんだろう。あの子道とかわかるのか?変な子だったな。)

と思いつつも、拓哉は興奮冷めやらぬまま、当初の予定通り茶屋町方面へと歩を進めた。


--名残惜しくないと言ったら嘘になる。

拓哉は明確に惜しんでいた。

そもそも女性と話す機会がほぼない。

その上あれほどの可愛さで気さくに話しかけられたら

有頂天になるのも仕方がない。

あわよくば・・・とよからぬことも考えた。


----ゲームセンターでいつもの音ゲーをプレイした。

普通ならフルコンボの曲でミスを連発した。(クリアはした)

本屋で新しい小説や漫画を物色したがどうも頭に入ってこない。

雑貨屋に行ったがうろついただけだ。

明らかに先ほどの出来事で頭がいっぱいだった。


--正直意味が分からなかった。

何か不思議な光に包まれたと思ったら目の前に美女がいた。

まるで漫画の様な出来事だ。

そして漫画だったらそこから恋愛に発展するんだろう。

至って平凡な自分にはそんな芸当できやしないが。


----だが万が一。

そう、万が一もう一度出会うようなことがあれば、それは運命なのかもしれない。

そんなことがあれば運命として受け入れよう。

いや、そもそも彼女は困っていた。

ここは人として助けなければならないよな。

そんな言い訳地味た都合の良い解釈をしながら元来た道を戻る事にした。


--拓哉本人は気づいていないが、完全な一目ぼれだった。

非日常な出会い方がそうさせたのかもしれない。

或いは単純に美人だったからかもしれない。

気さくに話しかけられただけで惚れてしまう童貞特有のアレかもしれない。

そして、この非日常的な出来事に内心ワクワクしてもいた。

拓哉は足早に来た道を戻っていた。

発光があったあたりまで戻ってきた。


----いない。

いるわけがない。

そもそも彼女はどこかに向かって走って行った。

元の場所にいるわけがない。


この周辺を目的もなくうろついてみる。

・・・見当たらない。


(そもそも秋葉原とか言ってたっけ?意味は分からないけど東京に行ったとか?ならもうこの辺には・・・)

そう思いながらまた発光があった現場辺りに戻っていた。

そして目の前にある商業ビルの方をぼんやりとみていた。

(そういえばここって昔殺人事件があったんだっけ・・・)

そんなことを考えていた時だった。


(・・・いた!)


先ほどの女はビルの入り口手前の柱の横で俯いて座っていた。


(何してるんだ、あれ)


とはいえ彼女を探して小一時間も彷徨っていたのだ。

声をかけない手はないはずだが、いざとなると拓哉の足は重かった。

そもそも見つけてからなんて声かけるつもりだったんだ。

ストーカーとか変質者って思われるんじゃ・・・

拓哉はそんなことを考え、もじもじしていた。


「あ、さっきの人!」


声をかけてきたのは女の方からだった。


「あ、っす」

拓哉は周りをキョロキョロと見渡し、女が自分のことを言っているのだと確信してから、返事なのか独り言なのかよくわからないぼそっとした返事を返した。

そして、自分から探していたにも関わらず、この状況をどうしたらいいのか軽くパニックになっていた。


「あの!助けて下さい!」


意外にも女の方からそんなことを言ってきた。

渡りに船だった。


「えっと・・・どうしたんですか?」

「電子マネーも現金も使えないんです!」

「それに何人かに道を訊ねてもオフナンとかと勘違いされて!そもそも人多すぎですよ!なんなんですか、大阪!」


オフナンとかいう聞きなれない言葉は、とりあえずスルーした。

「現金も使えないんですか?」

「そうなんです!駅の人に聞いても、こんなお金見たことないとか言われて!」

「・・・ちょっと見せて下さい。」

「はい、千円玉」

「え、千円玉・・・?」


また聞きなれない単語が出てきた。

記念硬貨とかだろうか。

女に渡された硬貨は確かに千と書いてある。

大きさは五百円玉程度だが、なんだこれ?

その硬貨には永光五年と書いてあった。

そんな元号あったか?


「こんなの使えないとかいうんですよ~。大阪って通貨同じですよね?」

「通貨は同じはずですが・・・千円玉は聞いたことが・・・それにこの年号、なんですか?」

拓哉の問いに対して、目の前のコスプレの様な女性はきょとんとしていた。

きょとんとしたいのは拓哉の方だった。


「やっぱり!さっきから話しかける人みんなこんな調子で、微妙に話がかみ合わないんです!」

「えっと、そうでしょうね・・・」

拓哉は脳をフル回転して精一杯ベストな回答をしようと頑張ってはみたが、そう答えるのが限界だった。

そして、現在の状況に拓哉の精神状態も限界に近かった。

ただでさえ女性に慣れていないのに、この状況である。

宗教か何かなのかとさえ考えはじめ、しまいにはこのまま宗教に入ろうと無意味にポジティブになっていた。


「すみません、どこか落ち着いて話しできるところに行きませんか?状況を整理したいんです。色々教えてください。」

「はい。じゃあ、そこの喫茶店に入って座りましょうか。」

そう答えつつ、拓哉は頭の中でどんな宗教なのか、上手くやれるかなどを考えていた。

「あ、でも私のお金使えないっぽで・・・」

「あ、いえ、それくらいは僕が出しますよ。」

そう言うと、拓哉は無駄に自分を誇らしく思いながら、某大手コーヒーチェーンに入っていった。


アイスコーヒーはブラックに限る。

どういう理屈でかはわからないが、拓哉はそう心に決めていた。

無意識に無駄なかっこよさを求めているだけだと思う。

実際コーヒーの味の違いなど大して分かっていない。

女の方はというと、この手の店に慣れていないのか、同じのでお願いしますと言っていた。

店員から商品を受け取り、奥の方の二人掛けテーブルに座る。


冷静に考えたら人生で初めて女性と二人っきりの喫茶店だ。

経緯はどうあれ、拓哉は今更緊張してきていた。


「あの、自己紹介がまだでしたよね。私は結城光と言います。今日は朝からちょっとしたバイトで秋葉原に来てたはずなんですが・・・」

「僕は吉田拓哉って言います。・・・少なくとも僕はずっと梅田にいましたので、ここは秋葉原じゃないかと・・・」

「それなんですよ!私は確かに秋葉原にいて、依頼された荷物を受け取って届け先に向かうところだったのに!なんで気が付いたら大阪にいるんですか!?」

最近流行っている配達アプリかなんかの仕事だろうか。

だがこの際細かい部分はどうでもよかった。

「寝ぼけてたとか、どっかと間違えたとかじゃなくて?」

「そんなことありませんよ。そもそも東京と大阪間違えますか?」


言われてみたらその通りだった。梅田と難波を間違えたとはわけが違う。

距離にして五百キロくらいはあるはずだ。

ちょっと電車乗り間違えた~じゃすまない移動距離と時間だ。

だとしたらどういうことだろうか。

いや、どういうことも何もない。

目の前の女性が頭がおかしいか、虚言癖があるか。

どちらかしか考えられない。

そのどちらでもないとしたら・・・


「結城さんが・・・東京から大阪にテレポートしたってことですか?」

「そう!そうなんですよ!そうとしか考えられません!」

光はガタッと立ち上がりながら大声で言った。

思考回路はショート寸前な拓哉は、コーヒーが零れなかったことに安堵していた。

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