第110話 思わぬ展開

 父の才座が、重い口を開いた。



「香澄が言う通り、菱友の直系家族は、駒場学園高校から東慶大学に進むことを基本としている。 これは、グループの総帥が、日本最難関の最高学府である東慶大学を卒業することを条件とする、我が直系家族に課せられた宿命と言えるものだ」


 才座は、2人の娘を見据えた後、続けた。



「もちろん、そのために徹底した英才教育をほどこす。 でも、そうは言っても、頭が良くなければかなりキツイ話だ。 しかし、それは容赦なく突きつけられるから、学力が満たずして東慶大学を落ちた場合、グループ総帥の後継者から外されてしまう。 それを狙ってか、直系以外の親族の多くが東慶大学を目指している。 しかし幸いな事に、これまで直系家族に東慶大学を落ちた者はいない。 頭が良い家系なのだろう。 特に、香澄と静香2人の学力は、先人達に比べても飛び抜けており、その評判は親族に知れ渡るところとなっている」


 才座は誇らしげに語り、また続けた。

 


「静香はグループ総帥の後継者ではないが、グループ内の大企業を任せたいと考えている。 だがな …。 総帥の後継者は香澄だが、何らかの理由で辞退した場合、静香に頼みたいと思ってる。 歴代の総帥の条件に文武両道を重んじるところがあるのだが …」


 才座は、少し暗い顔をした後、続けた。



「静香は、空手が続かなかったが、この条件は撤廃するよう、俺が何とかする」


 才座は、2人の娘に住菱グループを任せたいようで、その気持ちがヒシヒシと伝わってきた。



 すると、静香が反論した。


「私は、グループ総帥の後継者じゃないし、仮に後継者だったとしても、最終的に東慶大学を卒業すれば良いんでしょ。 この大学の法学部を1番で卒業して見せるわ。 それなら、文句ないでしょ? 今、問題にしてるのは高校よ。 だから、私が行きたい学校で良いよね。 問題ないでしょ!」


 静香は、両親を見た後、香澄を睨んだ。



「そうだな、分かった。 高校は、静香が思う通りにしなさい。 そのかわり、必ず東慶大学を卒業するんだぞ」


 才座は優しく笑い、これ以上は言わなかった。

 結局のところ、娘が可愛いのだ。



「お父様、一応聞くけど …。 静香の志望校はどこなの?」


 今度は、香澄が少し強い口調で尋ねた。



「ああ。 それ」


 才座が言い掛けたところで、香澄が遮って話した。



「静香が行きたい学校は、上等学園高校でしょ」


 香澄の話を聞いて、才座は驚いたような顔をした。



「何で、分かったんだ?」



「そんなの、直ぐに分かるわ。 元太が通ってる高校だからよ」


 香澄が言うと、静香は父の才座を睨んだ。そして、不機嫌になっていることを隠さなかった。



「そうよ。 元太さんが望むなら、将来は一緒になりたいと思ってるわ。 元太さんは、私の初恋の人なの。 お父様は、私がまだ中学生で恋愛は早いと言うけど、なぜ、お姉様には元太さんをすすめるの? お姉様が高校生だから? だったら、高校生になるまで元太さんとの交際を待つわ」


 静香は、父の才座に食ってかかった。

 今まで、娘から睨まれたことが無かったため、才座は驚きの表情を隠せなかった。

 そして、中学生といえど、1人の女性であることに気づいた。



「静香、そう怒らずに話しなさい」


 才座は、努めて冷静に優しく話した。



「ゴメンなさい、お父様。 お姉様に元太さんとのことを許すなら、私も許してください。 それに、結局、お姉様と元太さんは、うまく行かなかった見たいよ。 お父様、知ってた? 男女には相性があるから、いくら応援したって、ダメな場合があるのよ」


 努めて、静香は穏やかに話した。



 それを聞いて、姉の香澄は、静香に挑戦状を突きつけられたように感じていた。



 静香の話を聞いて、父の才座は優しく話し出した。


「分かった。 静香が、そこまで言うなら、元太とのことを反対しない。 元太を小さい時から知ってるが、見込みのある男だ。 だから、2人のどちらかと一緒になってくれたらと願ってる。 香澄にすすめたのは、空手を頑張ってる姿を見て、元太と相性が合うと思ったからだ。 それに、グループ総帥候補の香澄と一緒になれば、場合によっては、元太に総帥の執権を担わせることも可能と考えた」


 才座は、3人を見た。



「あなた。 そうは言っても、元太さんの気持ちもあるのよ。 いくら、こっちが好きだと言っても、お互いが同じ気持ちじゃなきゃ」


 優実は、才座のみならず、残りの娘2人に対しても、諭すように優しく言った。



「優実の言う通りだ。 違いない! 元太の心を射止めてからの話だ。 元太は、優秀で男気はあるが、色恋はカラキシだ。 オールバックの色メガネで、普通の女子は怖がって近づかんだろう。 そう言う意味では、俺の娘2人は見る目があるということだ。 実は、髪型を変えて眼鏡を外すと驚くがな。 ハハハ」


 才座は、大声で笑った。



「まあ、元太さんて面白そうな人ね。 私も会って見たいわ」


 優実も、笑った。



 そんな両親を見て満足したのか、静香は目頭を熱くしていた。

 これで、姉と同じスタートラインに立てたと思ったのだ。



 姉の香澄は、焦っていた。

 この状況で話しにくいが、元太との事を、ここで言わなければタイミングを逸してしまうと思ったからだ。




「静香の件は、これで良いな。 次は香澄だ。 ところで、大事な話ってなんだ?」


 父の才座が、香澄を心配そうに見た。


 香澄は、話す覚悟を決めた。

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