第92話 美人姉妹

 日曜の夜、菱友家でのことである。


 夕食を食べながら、静香がおもむろに口を開いた。



「お父様も3日後にアメリカから帰るわ。 お母様。 これまで、寂しかったでしょ」



「そんな事はないわよ。 あなた達がいるから …。 それに、あの人は毎日テレビ電話をかけてくるわ」



「相変わらず仲が良いわね。 私もお父様のように心から愛せる殿方と出会いたいわ! ねっ、お姉様!」


 静香は、香澄の顔を覗き込むように見た。しかし、返事はなかった。



「ここのところ、お姉様は不機嫌ね。 何かあったの?」


 静香は、わざと心配そうな顔をした。



「別に何もないわよ。 不機嫌そうに見えるのは、こんな顔だから仕方ないでしょ!」


 香澄は、開き直りムッとした。明らかにどこか変だ。



「何かあったの?」


 今度は、母の優実が心配そうに聞いてきた。



「お母様まで ~。 何でもないわ」


 香澄は、食事を早々に切り上げて、自分の部屋に戻ってしまった。



「あの娘は、根が正直だから、直ぐに顔に出るのよ。 何かあった見たいだけど、そっとしといてあげて」



「分かったわ」


 母の話を聞き、静香は悪戯気に微笑んだ。



◇◇◇



 翌日の、夕方の事である。いつものように図書館で勉強していると、突然スマホが鳴った。見ると、静香からだった。


 俺は、席を移動し電話に出た。



「今、良いかしら?」



「ああ。 珍しいな、突然どうしたんだ?」



「単刀直入に聞くわ。 お姉様と何かあったでしょ」



「別に何もないが。 何でそう思うんだ?」


 俺は、心あたりがあったが、とぼけた。それと同時に、俺を見限った香澄の事が気になっていた。



「最近、お姉様の様子が変なのよ。 女子空手部の特別師範の事と関係があるんじゃないの?」



「3ヶ月間の約束で始めたから、この前の日曜が 最後だった。 もう、行くことはない」



「お姉様から、期限の延長を頼まれたんじゃないの?」



「まあな」



「何よそれ。 いったい、どっちなのよ?」



「とにかく、期限の延長はなしだ。 それより、君は今度、高校入試だろ。 進路の事は良いのか?」



「高校は、どこでも合格圏内だから問題ないわ。 元太さんが、お姉様とうまく行かないのなら、あなたと同じ高校に行くわ」



「また、そんな事を言って。 色恋は大人になってからだ」


 最近 俺は、本気で、そう思うようになっていた。



「何、言ってんだか? 元太さんらしくないわ」


 静香は、不満そうな声で喋った。



「おまえさ。 まだ中3で子どもだろ」 



「中3と言ったって、背だって172センチあるし、もう大人と変わらないわ」



「君は、まだ子どもだ!」



「じゃあ、お姉様はどうなのよ?」



「君よりは大人さ」



「2歳しか違わないのに、何言ってんだか」



「何で俺なんかになびくんだ? そもそも、俺はモテない部類の男なんだぜ!」



「元太さんは、自分の魅力に気がついてないわ。 女は強い男に魅力を感じるものよ!」



「そんな事を言って、まだ子どものくせに。 とにかく高校受験に向けて勉強するべきだ!」



「そう言う元太さんは、だいじょうぶなの?」



「実は、今、図書館で勉強してるんだぜ!」



「どこの図書館?」



「家の近くにある都立図書館が、俺のホームグラウンドだ」



「何で塾に行かないの?」



「俺は、昔から独学なのさ」



「独学でだいじょうぶなの?」



「まあな」



「また〜、その返事。 でも、分かったわ …。 私も勉強を頑張るわ。 じゃあ、またね」


 静香は、電話を切った。


 同じ姉妹でも、香澄は近寄りがたい正統派美人だが、静香は可愛い感じの美人だ。姉妹でも少し雰囲気が違う。俺は、知らず知らずのうちに、姉妹2人に惹かれていた。




 静香からの電話の後、しばらくして、またスマホが鳴った。


 見ると、細木 沙耶香からだった。



「元太さん、今、良い?」



「ああ。 今、図書館を出て家に向かってるところだ」



「この前言ってた、田所 雅史だけど、調べたわ」



「どんな奴だった?」



「別に、今は悪い評判とかないけど …」



「今はって、どう言う意味だ? 過去に何かあったのか?」



「それがね。 言いにくいんだけど、去年のことだけど、田中 安子さんと付き合ってたと公言していたようよ」



「安子と! 本当なのか?」



「多分、嘘だと思う。 彼は、イケメンだから本気にした人もいたみたい。 でも、実態はストーカーよ。 安子さんから、何か聞いてなかった?」



「聞いてない。 あいつは、サバサバした性格だったから、気にしてなかったのかも知れない。 最も、別れた今となっては聞けないがな …」


 俺は、安子の顔を思い浮かべていた。



「田所は、普段は社交的で人当たりは良いけど、陰で悪いことをするタイプみたいよ。 転校した金子 優香と同じクラスだったんだけど、彼女を利用して、自分が気に食わない相手の悪い噂を流したりしてたって」



「本当なのか? まるで、桜井 涼介のような奴だな。 そうか、分かった」



「これで良い?」



「ああ、ありがとう」



 電話を切った。




 俺はその後、神野に電話した。



「よお、神野。 今、良いか?」



「ああ。 俺は、おまえと違って、いつも暇だ。 田所が、どんな奴か分かったのか?」



「涼介と同じタイプの、陰で悪さする野郎だった…。 それで、どうする?」



「どうするって、懲らしめるしかねえだろ」


 神野の声の、テンションが上がった。

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