第93話 不良学生

 上等学園高校の校門を出たところで、学生らしき男2人が、何やら揉めていた。



「おい、少し付き合えや」



「おまえ、誰だ?」



「さあ、誰でしょう? あんたの事を知ってるぞ! 陰で悪事を働いてるだろ。 これは何かな?」


 そう言うと、男は 丸めた紙を投げ付けた。



「何すんだ、テメー!」


 投げ付けられた男は、相手の胸ぐらを掴んだ。



「その紙を拾って、良く見な! 3年の、田所 雅史さん」


 胸ぐらを掴まれた男は、ニヤついた。



「何で、俺のことを知ってる?」


 田所は大声で言った後、素早く紙屑を拾って見た。



「うっ、どうやってこれを? おまえ、どこの学校の生徒だ。 どうせレベルが低い三流高校だろうが」


 田所は、広げた紙を見て一瞬驚いたが、直ぐに相手の男を見下すように言った。



「言葉は、選んで使いな。 自分が置かれている立場を理解して言ってるのか? 確かに、俺は三流高校の生徒だが、書かれている内容を世間に広げるなんて造作も無いことだ。 皆が、おまえの悪事を知れば、超難関進学校の上等学園高校に居られなくなるぞ!」



「そんな事をしたら、タダじゃ済まさないからな。 怖い仲間を差し向けるぞ!」


 田所は、凄んで見せた。



「ホホー、そうなのか? ぜひとも会いたいな!」


 突然、田所の背後から声がした。振り向くと、身長が2mはあろうかと思う大男が立っていた。



「おまえの配下とやらは、コイツらか?」


 大男は、スマホの画像を見せた。皆、ボコボコにされて、道端にひっくり返っていた。



「あううっ」


 田所は、震え出した。



「すまなかった、許してください。 俺はアイディアを出しただけで手を下していないんです」


 田所の声は、裏返っていた。



「あちこちに、被害者がいる。 おまえは、どうやって責任を取るんだ?」



「責任と言われても …」


 田所は、下を向いた。



「聞こえねえぞ!」


 大男は、大きな声を出した。



「被害者に謝ってお金を返すから、それで許してください」



「まあ、良いか。 明日の夕方6時に、ゲームセンター宝島に来な。 もしも来なかったら、おまえの悪事の証拠をばら撒く」


 そう言うと、2人の男は、この場を去った。




「おい、田所。 だいじょうぶか?」


 田所が1人になると、数人の男子生徒が近寄って来た。



「いきなり、不良に絡まれた。 何なんだ、あいつら!」



「あのデカい奴、確か、神野 鉄雄だ。 不良どもを陰で仕切る裏番長と言われてる男だ。 いったい、何を言われたんだ?」



「肩がぶつかって因縁を付けられたが、それだけさ。 俺が睨み付けたら、逃げて行った」


 田所は、ごまかした。



「田所は、度胸があるよな!」


 周りの男子生徒達は、田所に尊敬の眼差しを向けた。



「あんな連中、怖かねえよ。 じゃあな」


 そう言うと、田所はこの場から逃げるように立ち去った。そして、しばらく歩くと、どこかに電話した。



「田所だが、今、電話良いか?」



「何の用事だ?」



「俺のアイディアの、かつあげはどうなってる?」

 


「あれか? もうやめたよ」



「何でやめたんだ?」



「不良の親玉に睨まれたんだ。 怖え連中なんだ」



「もしかして、人相が悪い大男か?」



「知ってるのか?」



「実は、今日、因縁を付けられた。 明日の夕方6時に、ゲームセンター宝島に呼び出されてる」



「ヤバいな。 行かずに逃げたらどうだ?」



「俺が、悪事を指示した証拠を握られてるんだ。 なあ、助けてくれよ」



「無理だ。 俺らはボコボコにされたんだ。 あいつらに逆らえる者はいねえ」



「知り合いに、誰かいないか?」



「いねえよ。 警察に相談したらどうだ?」



「そんな事できない。 かつあげを指示した事が表沙汰になると、退学になってしまう」



「田所よ。 おまえ、自分の事ばかりだな。 高校を退学になった俺や仲間はどうなるんだ!」



「スマン、悪かった。 じゃあな」


 田所は、一方的に電話を切った。



◇◇◇



 その頃、俺は いつものように図書館にいた。



「元太さーん。 来ちゃったよ」


 声のする方を見ると、静香がこちらを見て笑っていた。


 久しぶりに見る静香は、どこか大人っぽく見えた。

 


「お隣、良いかしら?」


 

「ああ、良いとも」


 なぜか、口元が緩んでしまう。



「本当に、図書館で勉強してたのね」


 静香は、俺の隣に座ると、悪戯そうに俺を見つめた。



「突然、どうしたんだ?」



「受験勉強よ。 元太さんと一緒にしようと思ったの」


 静香は、大きな目をパチクリさせた。どこかヒョウキンな姿が、安子を連想させる。



「君は、塾で勉強するんじゃなかったのか?」



「私も、元太さんのように独学でやるわ。 付き合ってよね」



「まあな」



「また、その返事?」


 静香は、少し不満そうだ。



 と、その時、俺のスマホが鳴った。


「悪い、電話が来た」



 俺は、席を離れた。



 電話は、神野からだった。



「よお、今、電話良いか?」



「ああ、良いぜ」



「さっき、田所 雅史 に会った。 貧弱そうな野郎で少し哀れに思ったが、明日の夕方6時にゲームセンター宝島に来るように言っておいた。 奴にケジメを付けさせる …。 そこで頼みがあるんだが、奴が逃げないように連れて来てくれ」



「この俺がか?」



「おまえしか、いねえだろ。 脅して連れてくれば良いさ」



「さすがに、脅す訳に行かねえよ。 何か、呼び出すための材料はないのか?」



「材料か? そうだ。 角坂が掴んだ、悪事の証拠をメールするから、それを良いように使ってくれ。 じゃあ、頼んだぞ」


 そう言うと、神野は、一方的に電話を切った。



「ふー」


 俺は、面倒くさくなり、思わずため息をついてしまった。

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