第64話 涼介の転校

「三枝 元晴がどう動こうが、涼介さんが佐々木に指示した証拠は見つからないでしょう。 それより、学内でトラブルとかありませんか?」


 西条は、心配そうな顔をした。



「実は、以前トラブルがあった。 理事長に働きかけて不問にしたが、涼介は人を使って、今回の被害生徒が不利となるデタラメな噂を流したようだ」



「学校では、大人しくさせてください。 涼介さんと被害生徒が顔を合わさないようにするべきです」


 西条は、厳しい顔をした。



「同じ学校に居てはダメと言う事か」


 良平は、西条の顔を見た。



「この後 2人にトラブルが起きた場合、否が応にも注目されてしまいます。 恐らく、相手の親が動くでしょう。 三枝 元晴は かなりの切れ者と聞きます。 甘く見てはなりません。 涼介さんのキャリアに傷が付く事がないよう火種を絶つべきです。 できれば、転校させるのが最善の方法かと思います」



「やはり、転校させるべきか」


 良平は 元晴を恐れていた。しかし、自分と元晴の間にある過去の経緯を、西条に話す事は できなかった。



◇◇◇



 俺が学校に登校すると、加藤が話しかけて来た。仲直りしたので、彼が唯一の友人だ。



「三枝よ。 お前の敵は休んでる見たいだぞ。 女子どもが噂してたぜ」



「涼介のことか?」


 例の事件のせいだと思ったが、加藤に言わなかった。



「ああ。 風邪でも引いたのか、今日で3日目になる。 あいつは目立つから直ぐに噂になるぜ。 それも辛いよな」


 加藤は、愉快そうに言った。



◇◇◇



 昼になり、俺は いつものように定食屋に向かった。



「いらっしゃい。 兄ちゃん、いつも悪いね。 彼女さんが来なくなって寂しいが、それも青春のひとつさ」



「いつもので」



「あいよ!」



 店主は、俺がふられたと思い励ましてくれるが、それに返事できずにいた。



「お待ち! 野菜定食の大盛です」


 野菜定食は美味い。結局、初めて頼んだ時のメニューに戻っていた。



 食べていると、俺のスマホが鳴った。思いがけない人からだった。



「お前、スマホを返してもらえたのか!」



「やっとだよ。 これで、元太と話せるよ!」


 安子からだった。思わず声が弾んでしまう。



「来週から、いよいよ夏休みだが、夏期講習があるから通常と変わらないぜ。 安子は二学期まで休めて良いよな!」



「ううん。 塾に行かされてるから、ほとんど自由時間が無いわ。 でも日曜は、都立図書館に行くからね。 いつも通り午前10時の待ち合わせよ」



「ああ、分かってる」



「ところでさ。 昨夜、父から聞いた話だけど、涼介の奴 転校する見たいよ」



「本当か、何で分かるんだ?」



「上等学園高校の理事長から父に電話があって、涼介の父が理事を辞めるらしいの。 理由は涼介の転校だと言ってた。 それで、私の父に もう一度 理事に返り咲いて欲しいってさ」



「もしかして、安子は転校しなくて良くなったのか?」


 俺は、思わず聞いた。



「ううん。 私の父は、理事長にバカにするなと言って怒ったわ。 だから、私が転校する事に変わり無い。 それよりも、涼介が転校する理由が分からないわ」



「桜井家の使用人の佐々木が、人を雇って ある人物を拉致監禁しようとして警察に逮捕された。 恐らく、佐々木を動かしたのは涼介だと思う。 事件の後、奴は学校を休んでる。 この事が原因だと思う」


 俺は、黙っていられず、安子に事件の事を話してしまった。



「えっ、涼介も逮捕されたの? それに、拉致監禁しようとした相手は誰なの。 もしかして、謎の女性に手を出したの?」



「違う。 実は、この俺が被害者なんだ。 襲った連中を倒して、1人を警察に突き出した」


 

「元太が狙われたの。 ねえ、怪我してない? だいじょうぶなの?」



「怪我はしてない、だいじょうぶさ。 佐々木が自供しない限り 涼介の逮捕はないと思う。 涼介が取り調べを受けているか分からないが、恐らく弁護士が付いて守ってるはずだ。 それより、今の話は内緒だぞ。 特に、君の父に言うなよ」



「ええ、分かったわ。 それにしても、涼介は元太に何をしたかったのかしら?」



「実は、あいつから仲直りしようと言われたが、信用できないと言って断ったんだ。 俺が意に沿わないから、脅して従えたかったんだろうさ」



「やっぱり狂ってる。 それにしても、涼介が転校すると学校中の女子が落胆するわよ。 でも、原因を知った時 どう反応するのかしら? 何だか楽しみね」



「正直、俺は関わりたく無いよ」



「そうだよね。 じゃあ、また電話するね」



 電話を切った。俺は、安子の声が聞けて嬉しくなった。



◇◇◇



 日曜になった。都立図書館に行くと、安子が先に来て勉強をしていた。



「おはよう。 安子 早いな」



「うん、待ちきれずに早く来た。 それに話したい事もあるし」


 安子は、俺を見て笑った。俺が席に着くと、早速 話し始めた。



「涼介の転校先が分かったわ」



「もしかして、駒場学園高校か?」



「えっ、何で分かったの?」



「あまりにも情報が早いからさ。 君の父から聞いたんだろ」



「そうよ、私の父は凄く怒ってた。 桜井興産の名前で多額の寄付があったらしいわ。 涼介の父は、何でもありの男なのよ」


 安子は、目を細めた。



「涼介がいなくなると、俺は 穏やかに学校生活を過ごせそうだが、そっちは大変だな。 涼介にチョッカイ出されたら連絡をくれ」



「分かったわ。 でも、父からも 何かされたら直ぐに報告するように言われてる。 だから、だいじょうぶよ」



「お前の父は、強そうだな」



「そうよ。 私と結婚する時の障壁になるわ。 覚悟しといてよ!」


 安子は、目をクリッとした。



「おい、結婚て気が早いよ。 俺達はまだ高1だぞ」



「フフ、冗談よ」


 安子は、俺の顔を覗き込むように見た。



「ところでさ。 例の、謎の女性は分かったんでしょ」


 安子は、照れ隠しなのか話題を変えてきた。



「ああ、安子が思ってる通りさ」



「元太のお母さんは、何で涼介に会いに行かないの?」



「涼介の父の良平に原因があったんだ。 良平が帰国してから、母は子育てに関する電話相談を受けていた。 だけど 次第に、良平が母を口説くようになったから、母は 主人に話すと言って一切の連絡を絶ったんだ。 涼介の事は気になったが、さすがに、人妻を口説くような父親がいる場所に行けなかった。 涼介 本人は、俺の母が謎の女性である事を知らない。 それを知った時、奴が どう行動するか、考えると心配になる」



「そうだったのか。 結局、彼の父親が悪いんじゃん」


 安子は、呆れた顔をした。

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