第60話 気に食わぬ男

 最近 学校の中で、俺は 以前にも増して孤立していた。貴子と安子がいなくなったため 誰とも会話がないのだ。


 しかし今日は違った。俺の背後から声がした。



「よう、三枝。 聞きたい事があるんだが?」

 

 久しぶりに、加藤が話しかけてきた。

 


「ああ、どうした」


 加藤とは 安子の事で気まずくなっていたが、俺は わざと平静を装った。



「安子さんの事だ。 学校に来てないようだが、どうしたんだ? 心配なんだよ」



「根も歯もない噂を流された事がキッカケで 転校するみたいだ。 もう来ないようだ」


 俺は、詳細までは言わなかった。



「三枝は、それで良いのか?」



「良いも何も、俺に止める事は出来ないさ」



「相変わらず ドライな奴だな。 俺だったら、あんな美人がいなくなると寂しいけどな」



「まあな」


 俺は、一言返した。



「話しは違うが、全国模試の結果はどうだった?」



「塾から連絡が来てたが、まだ行ってない」



「結果は郵送してもらえるんじゃないのか?」


 加藤は、不思議な顔をした。



「なんか、授業料免除で招きたいから相談したいと言ってた。 俺は図書館の方があってるから塾は必要ないがな」



「お前、凄えな。 学校で孤立したって、そんだけ勉強ができれば どうって事ねえな。 なあ、今日塾に行くけど 一緒に来ないか?」



「まあ、良いけど」


 学校の帰りに、加藤と塾に行く事になった。




 塾に着くと、俺は事務室に案内された。そこで、事務長と話した。



「三枝君、今回の全国模試の結果だが、特に数学が素晴らしく200点満点でした。 全国に3人いたが、君はその1人です。 それと国語は190点で10位、英語は188点で15位でした。 君は、当塾始まって以来の秀才です」



「自分は、塾に入る気はありません」


 俺は、はっきりと断った。



「ならば、相談なんですが、授業料を免除するから、当塾に入会してくれませんか?」



「家の近くに都立図書館があって、そこで快適に勉強できるから、塾は必要ないです」



「交通費も当塾が負担しましょう。 どんな難解な問題でも、当塾の講師が疑問に答えられます。 どうですか?」



「いえ、結構です。 教わらなくても、自分で考えれば分かりますから」



「本当に、それで良いのですか? 急かさないから、もう一度考えて見てください。 模試の結果を必ずご両親に報告して、今の話をお伝えください」


 事務長は、驚いた顔で話した。



「分かりました」


 俺は、事務室を後にした。



「三枝、どうだった」


 加藤が待っていた。



「数学は満点だったが、国語と英語はダメだったよ」



「数学が満点? 凄え。 それで、国語と英語の点数は?」



「国語は190点で英語は188点だった。 お前はどうだった?」



「本当かよ! 俺は、得意教科で150点位さ。 160点取れば凄い事なのに 驚くぜ。 どこの大学でも合格できるレベルだ」


 加藤は、興奮して話した。



「ところで、授業が始まってるんじゃないのか?」



「ああ。 三枝の結果を聞いたから、これで行くわ。 またな!」


 そう言うと、加藤は教室に向かった。




 加藤がいなくなると、背後から俺を呼ぶ声がした。振り向くとイケメンが立っていた。



「元太、久しぶりだな。 俺たちの絆を割いた女子達はいなくなった。 いろいろあったが、前見たいに仲良くしようぜ。 お前も塾に通ってるのか? 勉強に目覚めたんだな」


 涼介だった。まるで、何もなかったかのような口ぶりだ。



「涼介よ。 前にも言ったが、俺は信用できない人間とは付き合いたくないんだ。 だから、俺に構うな!」



「そうは行かないさ。 お前は俺より成績が良くなったが、それは許されない事なんだ。 お前を全力で排除する必要がある。 仲直りしようと思ったのに残念だよ」


 そう言うと、涼介は教室に向かった。俺は、彼に不気味なものを感じた。



◇◇◇



 塾を出て 都立図書館に向かう途中、ひと気のない路地に差し掛かった。



「すみません。 城東公園はどう行けば良いんでしょうか?」


 若い女性が道を尋ねて来た。



「直ぐ近くですよ」


 説明しようと近づくと、その女性が、いきなりスタンガンを俺の体に当てようとした。


 その瞬間、条件反射で飛び退いた。



「えっ!」


 女性が、思わず驚きの声を上げた。



「こいつ、スバしっけーな!」


 いかにも悪そうな3人の男が俺を囲んだ。



「悪く思うなよ」


 リーダーらしき男が言うと、いきなり殴り掛かって来た。と同時に他の2人が、俺をおさえに来た。



ドスッ



 俺は、おさえに来た男の1人の急所に、空手の突きを放った。



「ウグッ」



 男は倒れて失神した。俺は、間髪おかずリーダーらしき男の胸ぐらを掴み、投げ飛ばした。



ドンッ



「グハッ」



 最後の 1人の男は、一目散に逃げて行った。女性もいつの間にかいなくなってた。



「おい、誰に頼まれたか言え!」


 俺はリーダーらしき男の、腕をネジあげた。



「痛てー。 言うから止めてくれ!」



「早く言え!」



「佐々木って野郎に金で雇われたんだ。 お前を 拉致監禁するように言われた。 佐々木も車で来ている」



「そうか。 これから警察を呼ぶから、今の話を証言しろ!」



「分かったから、手を緩めてくれ」



 俺が警察を呼ぶと、しばらくして2台のパトカーが来た。倒したもう1人の男は、いつの間にか逃げていた。俺と不良のリーダーらしき男は、パトカーで連行された。


 警察署に着くと、2人は分けられて聴取された。俺が拉致監禁されそうになった事を証言すると、信じてもらえず、単なる喧嘩として処理されそうになった。相手の男も、俺に暴力を振るわれたと偽証していた。


 仕方なく、父に電話した。しばらくすると警察の態度が変わった。相手の男に前科があった事もあり、事件性が認められ捜査される事になった。


 俺は、家に帰る事ができた。



◇◇◇


 

 家に帰ると、母が心配そうに待っていた。



「元ちゃん、だいじょうぶ。 いったい何があったの?」



「男女4人組に襲われた。 その中の1人を捕まえて警察に突き出したんだ。 そしたら、単なる喧嘩として処理されそうになったから、父さんに電話した」



「お父さんから電話が来て、直ぐに帰って来たの。 元ちゃん、怪我してない? お父さんは、所轄の所長を訪ねると言ってた」



「そうか。 今回の件だけど、恐らく涼介が人を雇って俺を襲わせたと思う。 依頼したのは、佐々木という桜井家の使用人なんだ。 警察には、事の経緯を詳しく話した。 だから、涼介の父親に口説かれた話を、父さんに隠せないと思う」



「アメリカでの事も含め全て話すわ。 私が、過去に取った行動が悪かったのかしら? だとしたら、浅はかな事をしたわ。 元ちゃん、ゴメンなさいね」


 母は、申し訳なさそうに俺を見た。

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