第34話 定食屋での会合

 安子は、教室を出てから、急いで 元太がいる定食屋に向かった。


(散々な目にあったわ。 それにしても、珍しく涼介が声を荒げて 女子3人を怒ったけど、なんで、あんなにムキになったんだろう? それに 昨夜、貴子も涼介を助けたいとか言ってたけど、どうなってんの?)


 安子は、不思議に思っていた。


 定食屋に入ると、いつものように店主の威勢の良い声がした。


「いらっしゃい! あっ、昨日の綺麗な女学生さん。 兄ちゃんは、先に来てるよ」


 安子は、店の中を見渡し、俺が座ってる方を見た。



「おじ様、野菜定食の小盛を、急ぎでお願い!」



「今日は、小盛かい? 大至急作るよ!」


  

 安子は、俺の隣に座った。


「安子、これから頼んで時間だいじょうぶなのか?」



「うん。 私、早食いだから、だいじょうぶよ。 あれっ、元太。 今日は、野菜定食じゃないの?」



「ああ、違うのにしてみた。 生姜焼き定食の大盛だ」



「私もそれにすれば良かった。 ガッカリだわ」



「美味いから、明日もこれにするよ」


 俺は、当然のような顔をした。



「じゃ 私も、明日はそれにする! 校門の前で待ち合わせよ」



「えっ、おまえ。 また、ここに来るのか?」



「うん。 元太と、昼食を食べることに決めたの。 迷惑かな?」



「迷惑じゃないが、俺といて、周りからハブられないか?」



「元太さえいたら、ハブられても良いよ」


 安子は、意味深な顔をした。



「えっ、何で?」


 俺が、不思議な顔をしたので、安子は頬を膨らませた。



「お待ち!」


 店主が、食事を運んできた。



「美味しそうだわ。 いただきます。 ねえ、急いで食べるから待っててね」


 安子は、俺に微笑んだ。



「ああ、喉を詰まらせないように、落ち着いて食べな」


 安子は、一心に食べたが 間に合わず、結局、俺が ご飯を半分手伝った。安子と食べると、俺は食い過ぎてしまう。明日は、普通盛にしようと思った。


 でも、何とか午後の授業に間に合いそうだ。



「元太、待たせたわ。 ねえ、貴子のことで話があるんだけど、夕方会えない?」



「ああ、良いぜ。 じゃ、校門の前で待ち合わせしよう」


 2人は、待ち合わせ場所を決め、急いで定食屋を出た。



◇◇◇



 午後の授業が終わると、加藤が話しかけてきた。いつもと違い、真面目な顔をしてる。



「なあ、元太。 おまえ、鈴木 貴子と別れてから、田中 安子と付き合ってるのか?」



「つき合ってないぜ。 彼女は、ただの友達さ」



「安心したぜ。 実は、俺さ。 彼女のファンなんだ。 近寄りがたい美人だけど、陰ながら憧れてたんだ。 なあ、友達になりたいんだが、紹介してくれないか?」


 加藤は、俺に手を合わせた。



「今度、彼女に会ったら言っとくよ」



「恩にきるぜ」


 加藤は、嬉しそうな顔をした。



「それより、急いでるから、これで帰るわ」


 面倒になりそうなんで、これから、安子と会う事は言わなかった。



「ああ。 ジャマして悪かった」



 俺は、加藤と別れ、急ぎ、校門に向かった。



「元太、遅いよ」


 校門の前に来ると、すでに、安子が待っていた。



「すまん、数少ない友達に話しかけられて遅くなった」



「えっ、まさか女子でないでしょうね?」



「加藤と言って、中学から同級の男子だ。 そうだ、加藤が、おまえと友達になりたいと言ってたが、今度、会ってみるか?」



「ダメよ。 男子は、元太としか会わないことに決めたの」



「おい。 それじゃ、彼氏ができないぞ」



「その件についても、今日、話したいのよ。 さっ、どこに行く?」


 安子は、元太の顔を見据えた。



「それじゃ、図書館に行くか? あっ、でも、涼介と貴子がいるかもしれないから、まずいか」



「いえ、図書館が良いわ。 あの2人がいた方が、かえって良いかも! 元太、もしかして 怖いの?」



「怖かねえけど、多分 涼介は、何かイチャモンを付けてくるぞ! 内容によっちゃ、俺は 自分を抑えられなくなるかも」


 俺は、困った顔をした。



「もし何か言われたら、私が ビシッと言い返してやるわ。 だから 元太は黙ってなさいよ」



「まあな」



「それって、分かったってことよね。 元太の言葉が読めるようになってきたわ。 阿吽の呼吸ね!」


 なぜか、安子は嬉しそうだ。



「まあな …。 あっ、また言った。 スマン。 安子の言う通りだな」


 俺は、口癖を指摘され、少し恥ずかしくなった。



◇◇◇



 俺と安子は、都立図書館に着いた。時間が早いせいか、涼介と貴子はいなかった。


 安子が、話しがあると言うので、軽食コーナーに向かった。そして、到着すると、缶コーヒーを買って席に座った。



「ところで、貴子の話しって何だ?」



「気を悪くしないで聞いてね。 元太からの伝言を、貴子に伝えた時に聞いた話しなの」


 安子は、コーヒーを一口飲んだ。



「貴子が、言うにはね、 …」


 安子は 途中まで喋り、不安そうに俺を見た。


「涼介との話しの中で、彼が悩みがあるように見えたから、直接聞いたそうよ。 そしたら彼が涙を流したんだって。 貴子は、涼介がトラウマを抱えてるんじゃないかと言ってた。 元太は、涼介と友達だったじゃん。 何か、心当たりある?」



「そんな、感じはなかったが、ただ、あいつはオールマイティな奴だけに、何か物足りなさのようなものを感じてると思った」



「オールマイティって言っても、あいつは性格異常者よ。 やっぱり、何かおかしいかも」


 安子は、目を細め身震いした。



「それで、そのトラウマが何だって言うんだ?」


 俺は、疑問に思って聞いた。



「落ち着いて聞いてよ」


 安子は、深呼吸した。



「貴子は、元太ではなく、涼介のことが好きなんだと思う。 貴子は、ハッキリと涼介を助けたいと言ったわ。 私と元太が、貴子を助けようとしているのに、言う言葉じゃないでしょ。 それに、元太が好きなら、敵の涼介を助けようなんて発想するはずないよ」



 俺は、安子の話しを信じられない思いで聞いていた。

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