第11話 初恋の人

 貴子が、俺の両親の顔を見たと言うので、不思議に思った。



「お前、いつ俺の両親を見たんだ?」



「近所に住んでれば、見かける事もあるわよ。 普段は、仕事で遅いみたいね。 だから、見かけたのは休日よ」



「そうか、結構人の目ってあるもんだな」



「そうよ、気を付けな!」


 貴子は笑った。



「でも、俺の事をイケメンなんて、お前 少し変わってるぞ」



「何よ、それ」


 貴子は、不満そうな顔をした。



「ねえ、今度 一緒に勉強しようよ。 それから、私の事は 貴ちゃんと呼んで!」


 貴子は、甘えるような顔をした。



「実は、俺は、普段勉強をした事が無いんだ。 でも、誘ってくれるなら、付き合うぞ」



「えっ、この進学校で勉強しないなんて馬鹿なの。 それとも天才?」



「ハハッ、勉強しないから成績は悪いぞ。 中位さ」



「この学校で、勉強せずに落ちこぼれないなんて、やはり天才よ! でも、私はね …」


 貴子は、自慢げな顔をした。



「何だよ、じらすなよ」



「うん、言うよ。 私ね、早く自立して家を出たいから、勉強だけは頑張ってるんだ。 いつも、学年で3番以内よ。 前回の抜き打ち考査はトップだったわ。 だから、上位者で名前を張り出されてるけど、まさか知らなかった?」



「ああ、気にしてなかった。 そうか、君は成績が良いんだな」 



「そうよ。 今度、勉強を教えてあげるね!」



「そうか、頼むぜ。 そうだ、君の事を貴子と呼ぶがどうだ?」



「うん、良いよ」



 貴子は、嬉しそうに笑った。沙也加との事が遠い過去の話に思える。やはり初恋の人に強く惹かれる。



「なあ、家まで送るよ」



「うん、嬉しい。 でもね、私、家で居場所がないから、いつもは図書館で勉強してから帰るの。 これから行く?」



「さっき、涼介と沙也加さんと、図書館で勉強してたんだ。 だから、気が進まない」



「元ちゃん。 体が大きいのに意気地なしね。 もう居ないから大丈夫よ!」



「そうだな。 でも、遅くまでやって無いだろ」



「午後8時までやってるけど、やめとく?」



「なあ、俺の家に来いよ。 両親の帰りは、いつも夜の11時過ぎだから遠慮することはないぞ」



「行きたい!」



 俺は、貴子を連れて帰った。



◇◇◇



「遠慮せずに入りな」



「はい。 お邪魔します」



 貴子を、リビングに案内した。



「元ちゃんの家って、整理整頓されてるね。 お母さんが綺麗にするの?」



「違うよ。 母は、料理、炊事、洗濯、全てカラキシさ。 俺が整理整頓してるんだ。 10歳のときまで、父方の祖父母に預けられていたんだが、祖父の躾のおかげで、料理、炊事、洗濯ができるようになった」



「そうなんだ。 でも、何で、祖父母に預けられてたの! 私みたいに、両親の仲が悪いとか?」



「いや、両親とも、外国勤務だったんだ」



「商社とかに、勤めてるの?」



「2人とも、中央省庁の官僚さ」



「そうなの、優秀なんだね。 ちなみに私の父は、小さい会社を経営してる」


 貴子は、寂しそうな顔をした。



「いつも、家に居ないのか?」



「家に居るの見た事ない。 いるのは血のつながらない母と妹だけ。 以前、父に、何で再婚したか聞いたら、私を家に1人にしておけないからだって。 あの母なら、いない方がマシ。 まあ、父がいても、話す事が無いけどね。 父は無責任な人よ」



「もしかして、お前、ファザコンか?」



「訳ないでしょ。 本当に、早く家を出たいの!」


 貴子は、強く否定した。



「ねえ、元ちゃんて、普段は寡黙だけど、こうしていると、案外お喋りね。 私の前だけにしてよ!」



「ああ。 俺は、人が喋るのを、俯瞰して見るのが好きなんだ。 だから無口に見えるのかな。 常に、いろいろと考えてるんだぜ」



「ムッツリスケベなの?」



「それは、あるかもな」


 2人で笑った。


 これまで、女子とこんなに打ち解けて話したことが無かった。なんだかコソバユイ。



「元ちゃん。 沙也加さんの事が好きなの? 告白をしたの?」


 貴子は、真剣な顔をした。



「好きだと思ったけど、違ったよ」



「私と、どっちが綺麗だと思う?」



「2人ともスリムだが、貴子の方が、背が高くてスタイルが良いと思う」



「ありがとう。 ねえ、顔はどうかな?」



「好みが分れるが、俺は貴子の方が好きだ。 何と言っても初恋の人だからな」



「元ちゃん、嬉しいよ」


 貴子は、泣きそうな顔をした。



「貴子は、眼鏡を掛けてるが、外して見な。 もっと美人になるぞ」



「そうかな」


 貴子は、眼鏡を外した。冗談で言ったつもりが、本当だった。間違いなく、沙也加よりも美人だ。



「やっぱりな。 あのさ、眼鏡を外すと、さらに綺麗になる。 でも、涼介にちょっかい出されそうだから、眼鏡を外さないでくれ」



「うん、元ちゃんが言うなら、そうする。 でもさ、元ちゃん、本当に、桜井君と親友なの?」



「なんで、そう思うんだ?」



「女の直感よ!」



「実は、親友と言えるのか分からない。 奴は俺の事を親友と言ってるが、必要以上に対抗心を燃やされる。 だけど奴は、超イケメンで、成績優秀、おまけにスポーツ万能だから、俺は一つも勝てない。 何で、俺に対抗心を燃やすのか不思議だ」



「元ちゃんの方が、桜井君より上よ。 眼鏡を外せば、超イケメンだし、身長も高い。 それに、多分、喧嘩も強いと思う。 勉強だってちゃんとやれば勝てるはず。 だから元ちゃんの方が上よ。 少なくとも私は、そう思ってる」



「うれしいぜ」



「ねえっ、元ちゃん。 桜井君て、あまり性格が良くないかもしれないよ」


 貴子は、真剣な顔をした。



「えっ、あいつは、爽やかで人の悪口とか言わないぞ! 何で、そう思うんだ?」



「じゃあ言うよ。 私は、安子と、桜井君の事を争ってたけど、最初は、桜井君から猛アタックされてたんだよ」



「どう言う意味だ?」



 俺は、不思議に思った。

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