43 放課後の約束

 キャロルのどこか冷たい言い方に私は自分が失言してしまったことに気づいた。

そうだった・・キャロルはヘンリーの事が好きなのに、ヘンリーの許嫁である私からは彼の話を聞きたくなかったに違いない。何とか話を別の方向にもっていかなければ・・そう思った矢先、ダイアナが私にヘンリーの事を尋ねてきた。


「ねえねえ、それじゃ2人はいつから許婚同士だったの?」


「えっと、それは・・。」


すると再びキャロルが答えた。


「2人はね、10年前から許婚同士なのよ。テアのお父さんと彼のお父さんがお酒の席でたまたま出会って、意気投合して勝手に決めてしまった話なの。そうよね?テア?」


何故か機嫌が悪そうなキャロル。でも・・それは無理ないかもしれない。だって自分の好きな相手の許嫁の話をしているのだから。キャロルは私の大切な親友だ。これ以上彼女を傷つけたくない・・!


「で、でも・・本当に将来結婚するかどうかなんて分からないわ。」


私はとっさに口を開いた。すると、見る見るうちにキャロルの顔に笑みがうかぶ。


「テア・・・その話・・本当なの・・?」


「え?ええっ!もちろん本当よ。ほ、ほら・・今回の件で・・私もいろいろ思うところが出来たし・・?」


私は三角巾でつられて自分の右腕に触れながら言った。だけど・・私は自分で自分の言った言葉に驚いていた。以前の私だったら、何があっても一途にヘンリーを思い続けていただろうけども、大切な親友キャロルとヘンリーが互いに思いを寄せ合っているという事を知った今では、2人の為に身を引こうと考えるようになっていたのだから。


するとニコルが言った。


「うん、そうだよな・・・許婚を大切にしない男は・・やめた方がいいよ。大丈夫、テアは魅力的な女性だからきっとすぐに誰か見つかるさ。」


「ええ、そうよ!テアッ!貴女なら・・・すぐに違う誰かが見つかるわ。意外とすぐに現れるかもしれないじゃない。」


キャロルは満面の笑みで言う。

キャロル・・・私がヘンリーから身を引こうとしている話・・そんなに嬉しいのね?やっぱり貴女は・・彼の事を・・。なら、私も2人の為に・・全力で応援してあげなくちゃ。


「そうよね~・・・あのヘンリーって男はやめた方がいいかもね。」


ダイアナはヘンリーの事が気に入らないらしい。・・でも、出来ればキャロルの前ではあまりヘンリーを悪く言わないでもらいたい。けれど・・・。


「・・?」


キャロルはダイアナの言葉に相槌を打っているように見えたのは・・私の気のせいだろうか・・?


 その後、ひとしきりヘンリーの話が済んだ後は・・再び大学の話に戻り、昼休みは終わった―。



****


 5限目までのすべての講義が終了後、キャロルが私の荷物を片付けてくれながら言った。


「さぁ、テア。今日はとことん私に付き合ってもらうわよ?」


キャロルは楽しそうに言う。


「え?でも・・付き合うって言っても・・キャロルの足じゃ出かけるのは無理じゃないの?」


「いやだ~違うわよ。女子寮に遊びに来てって約束してたでしょう?」


「ええ、約束したわ。」


「だから、おしゃべりしたり・・・一緒にカードゲーム遊びに付き合ってもらうって意味よ。」


「カードゲーム?」


私は首を傾げた。


「ええ。トランプをしてダイアナと3人で遊びましょう。」


すると隣に座っていたダイアナがポツリと言う。


「・・・ほどほどで勘弁してよね・・・。」


「?」


ダイアナの言葉の意味は・・・後ほど知る事となった―。

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