28 戸惑いと謎

 校舎を出てから肝心な事を忘れていた事に気が付いた。今朝、私はキャロルと一緒にヘンリーが用意した馬車で来ていたのだ。けれど入学早々色々な事が起こりすぎてしまい、帰りの足の手段をどうすれば良いのか今の今まで気づかずにいた。


「ヘンリーの事ですっかり気を取られていて・・私ってば肝心な事を忘れていたのね・・・。」


誰か知り合いでこれから馬車で帰宅する人はいないだろうか?辺りをキョロキョロ見渡してみても、あいにく知り合いの学生は1人もいなかった。


「仕方無いわ・・辻馬車の乗り場まで歩くしかないわね・・。」


私達が通う大学は幸いにも町中にある。大学の門を抜けて、5分もあればもうお店や辻馬車、または路面列車が走っている繁華街に出る事が出来るのだ。


「だけど路面列車は1時間に2本くらいしか走っていないから・・無理かもしれないわね・・。」


路面列車なら大学の門を抜けるとすぐに乗り場になっているのだが、本数が少ないのが残念な処だった。


「一応丁度良い時間の路面列車があるか、確かめてみましょう。」


自分自身に言い聞かせるように私は路面列車乗り場まで行ってみる事にした。しかし・・。


「駄目だわ・・・次の路面列車が来るのは40分後なのね・・・。」


40分も待つのであれば、辻馬車乗り場まで歩いて馬車を確保した方がずっと早い。

溜息をついて辻馬車乗り場まで歩いていると、背後から駆け足が聞こえてきた。


「ま、待ってっ!テアッ!」


「テアーッ!止ってーっ!」


え?あの声は・・・?驚いて振り返ると私の後を追いかけて来ていたのはフリーダとレオナだった。


「え?フリーダ?レオナ?一体どうしたの?」


2人の友人はハアハア言いながら駆け寄って来ると言った。


「何言ってるのっ!どうしたの?はこっちの台詞よっ!ほら、カバン貸して。持ってあげるから。」


レオナは私が返事をする前に吊ってある三角巾に注意しながら肩からショルダーバックを外した。


「ありがとう・・・。でも、まだ大学に残っていたの?てっきり帰ったかと思っていたわ。」


するとフリーダが言った。


「あのね、たまたま私達が馬車乗り場に行ったらヘンリーとあのキャロルって言う幼馴染が2人で馬車に乗る処だったのよ。」


「それで私達は聞いたのよ。テアはどうしたの?って。」


レオナが後に続いた。


「そしたら・・・ヘンリーの奴・・・何て言ったと思う?」


フリーダが忌々し気に顔を歪めた。


「さ、さあ・・・あ・何て言ったのかしら?」


首を傾げるとレオナが言った。


「あいつならもう先に勝手に帰ったって言ったのよ。」


「え・・・?そう・・。」


勝手に帰った・・・。その言葉がズキリと胸に突き刺さる。ヘンリーから言わせればそうなってしまうのだろう。だけどキャロルを女子寮に送ると言っているヘンリーに私も馬車に乗せて欲しいとはとても言い出せなかった。だから先に教室を出て行ってしまったのに・・・。


「そうしたら貴女の幼馴染が突然ヘンリーに喉が渇いたから何か飲み物を買って来て欲しいって頼んだのよ。」


「え?キャロルが?」


フリーダの言葉に聞き返した。


「ええ、そうよ。そしたらヘンリーの奴・・・よし、お安い御用だよって言って、駆けだして行ったのよ。私達3人をその場に残して。」


レオナが続きを話し始めた。


「次にキャロルが言ったのよ。貴女がヘンリーのせいで酷いけがを負わされてしまったって。それにも関わらず、ヘンリーは馬車も無いテアを先に帰してしまったから、テアを探して馬車に乗せてあげて欲しいと彼女が頼んできたのよ。」


「え・・?キャロルが・・・?」


まさかキャロルが私の為に2人に頼んでくれたなんて・・・。


「あのキャロルって人・・・テアの事親友だって言ってたけど・・本当にそうみたいね?」


「そうよね。すごくテアの事心配していたから・・・。」


フリーダとレオナの話を私は複雑な思いで聞いてた。キャロル・・・貴女が私の事を本当に大切に思ってくれるのは分ったけれども・・・。

確かにキャロルは私の為にヘンリーを注意してくれたりする。けれど、その反面・・ヘンリーに好意を寄せている・・・。


ますますキャロルの謎が増え・・私は戸惑うのだった―。



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