6 謝罪
母から痛み止めの薬草のお茶をもらって飲み干した私はそのままベッドで休む事にした。
「お母さん・・・私、このまま頭痛が治るまで寝るから、もしキャロルが来たらよろしくね?」
「ええ。分かったわ。それじゃ・・ゆっくり休みなさい。」
「うん・・・。」
そして私は眠りについた・・・。
どの位寝ていただろうか・・。
「・・分かりましたよ。とにかく少しテアと話をさせて下さい。」
ドアの外でヘンリーの声がする。
「何を言ってるの。テアは具合が悪くて寝てるのよ?」
母の声も聞こえてきた。あ・・・もしかしてヘンリーがキャロルを連れて来てくれたのかもしれない。慌てて起き上がると、もう頭痛は治まっていた。ベッドの下にあるスリッパを履くと、急いで部屋のドアに向かい、ガチャリと開けた。
「あ・・。」
「まあ。テアッ!もう具合はいいの?」
扉の真ん前にはヘンリーと母がいて、2人が同時に振り向いた。
「ええ、もう良くなったわ。」
するとヘンリーが声をかけてきた。
「テア、少し話があるんだ。部屋へ入ってもいいか?」
「テア・・・。」
母は心配そうに私を見ている。
「お母さん。ヘンリーと2人で話があるから・・キャロルはもう来てるんでしょう?」
「ええ、客間にいるわ。そこでメイドとおしゃべりしてるわよ。」
「それじゃ、後でキャロルの所に行くから。」
母はチラリと不満そうな目でヘンリーを見て、ため息をつくと言った。
「分かったわ・・。それじゃ後で降りてきなさいよ。」
「はい。」
そしてヘンリーは部屋の中へ入り、母は背を向けると立ち去って行った。
パタン・・・
部屋のドアが閉じられると、ヘンリーは無言でソファに座ると腕組みをした。何だかその顔は怒っているようにも感じる。
「ヘンリー。キャロルを連れて来てくれてありがとう。」
私もテーブルを挟んでヘンリーの向かい側のソファに座るとお礼を言った。
「ああ・・。」
そして私に言った。
「テア・・お前、母親に何か言ったのか?」
「え?何かって・・・・?」
「テアは編頭痛の持病があるのに、何か無茶をさせたんじゃないかって責められたんだよ。」
「え?私・・・別に何も言ってないよ?」
「そうか・・?とにかく具合が悪いのに、お前を1人で屋敷に帰らせたことでおばさんに俺は責められたんだよ。・・・元はと言えば、テアの方から俺にキャロルの出迎えと観光案内を頼んで来たんだろう?それなのに・・なんで俺が責められなくちゃならないんだよ。」
「あ・・・そうだよね・・・。ヘンリーの言う通りだね。ごめんなさい。最初から頼んでいなければ・・お母さんに怒られることも無かったし・・。」
するとヘンリーは言った。
「いや、別にキャロルの出迎えは問題はないけどな。・・・すごく喜んでくれたし。案内のし甲斐があったよ。それで学校が始まるのは3日後だろう?明日もキャロルに観光案内をしてあげる事になったから迎えに来る約束をしたのさ。」
「え・・?そうなんだ。それじゃ私も一緒に行くね。」
「え?」
そこでヘンリーが固まった。
「お前も・・・来るのか?」
「う、うん・・。」
そこでハッと気が付いた。そうだ・・・ヘンリーはキャロルと2人で行きたいんだ。だけど・・私が付いて行かないで2人だけで行くのはあまりに不自然で、又ヘンリーが悪く言われてしまうかもしれない。
「そうか・・・分かったよ。」
何所かつまらなそうにヘンリーは言うと、立ち上がった。
「それじゃ、俺・・帰るから。」
「うん。エントランスまで送るよ。」
「・・・。」
ヘンリーは返事もしないで席を立ってドアへと向かって歩いて行く。私も慌てて立ち上がるとヘンリーの後を追った。
エントランスへ向かって歩いてると、応接室からキャロルの笑い声が聞こえてきた。
「待って、ヘンリー。キャロルに声を掛けてくるから。」
「あ?ああ。頼む。」
応接室のドアを開けると、そこにはメイドと楽し気に会話をしているキャロルの姿があった。
「キャロル・・・。」
声を掛けると、パッと顔を上げて私を見た。
「まあ!もう具合は良くなったのね?」
「ええ。今ヘンリーが帰ると言うから・・。」
「あら、じゃあお礼を言った方がいいわね?」
キャロルは駆け足でやって来ると、ヘンリーの前に立った。
「今日はありがとう、ヘンリー。明日もよろしくね。楽しみだわ。」
「うん、僕も楽しみだよ。それで・・テアが明日どうしてもついてきたいって言ってるんだけど・・・。」
ヘンリーは私をチラリと見た。
「あら?私はちっとも構わないわ。皆で一緒に行けばいいじゃない。ね?テア。」
「え、ええ・・そうね。」
「それじゃ・・また明日。」
ヘンリーはキャロルに笑いかけると、エントランスを出て行った―。
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