第50話 壊れた記憶(10)第三者視点

「そうだな……」

「だから! 殿下には責任を取って頂きたく思います」

「責任? 断頭台に大人しくいけばいいのか?」

「殿下は、人の話を聞いていましたか?」

「なら、私に何を期待している?」

「王位継承権の剥奪と、殿下の表向きの死を――」

「それで貴族達は納得するのか?」

「獄中で死んだと言う事にすればよいのです」

「……だが、王太子としてのプライドがある。潔く死ぬことも、王太子としての――王家の人間としての務めではないのか?」

「陛下は、クララのことを気にかけております」

「それは聖女であるからな」

「そして、その力を教会や他国に悪用されることを恐れております」

「そうだろうな」

「ですので、王太子殿下は、妹と一緒に国を出奔して頂きます」

「だが、クララは……」

「精神的に病んでおります。ですが、それは王太子が全て招いた結果ではありませんか?」

「だが……」

「身分に関しては、庶民ということで作ることは可能です。幸い、殿下は王族であるにもかかわらず魔法の素養がない一般庶民と同じ魔力量しか備わっておりません。そして、妹も今は記憶を失い聖女としての力を振る舞うこともできません」

「そういうことか。それで責任をとれと言うことか」

「はい」


 パトリックの言わんとする事が理解できたラインハルトは深く溜息をつく。


「だが、ゲールはどうするつもりだ? やつも、クララには執着していたが」

「妹の容態に関しては、しばらくは伏せておくことにします」

「それで教会側や有力者を欺けるのか?」

「一度は、妹は自殺をしている身の上ですから」

「そういうことか……」


 つまり、パトリックは表では実の妹が死んだという事にすると言う事をラインハルトは察する。

 ただ、そんなことをすればとラインハルトは眉間に皺を寄せる。


「だが、両親と会う事が出来なくなるのだぞ?」

「おそらくは、殿下の方が大事だと考えている節がありますので大丈夫でしょう。ただ、記憶がどこまで欠損しているか分からない以上、上手くいく補償はありませんが」


 パトリックの感情を無理矢理抑え込んだような声を聴きながら思案するラインハルト。


「分かった。パトリック頼む」

「殿下。本当にいいのですね? 実行に移せば、二度と王族と名乗ることはできませんが?」

「ああ、構わない。それがクララのためになるのなら」

「……わかりました。それでは、そのように父上と陛下に掛け合うとします」

「よろしく頼む」


 話しが一段落したところで、パトリックは立ち上がり牢屋の前から去っていった。

 


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