第49話 壊れた記憶(9)第三者視点
「ラインハルト様に、今回の騒動の原因があると申し上げているのです」
「……それは分かっている。私の不注意で方々に迷惑を掛けたと言う事は――」
「分かっていません」
「何?」
「殿下が一番に迷惑をかけたのは妹だと言う事です」
「……」
「妹には、貴方が全てだった。それなのに、大した対策もせずに利用された揚げ句、上手く妹を説得できないと――、正直がっかりです」
パトリックとしても、ここまでラインハルトに文句を言うつもりはなかった。
だが、あまりにも不甲斐ない男の様子に腹が立ったことで、パトリックは心中を吐き出していた。
彼が意識した時には口に出していたのを気が付いた時くらいに、パトリックは自分自身が思っていたよりも遥かにストレスを抱えていたのだ。
「……よく言ってくれる」
「傷つきましたか? それとも傷ついているフリですか? 正直、私の妹は5歳の時から両親から引き離されて、自らの両親からのぬくもりを知らずに妃教育を受けさせられていたのですが? 殿下は、その間は陛下や王妃から愛情を向けられていましたよね?」
そして――、パトリックの苛立ちから出た言葉は止まることを知らない。
「幼少期に、周りから次期王妃として教育だけ施された人間というのはか細いモノがあります。何せ、自己を肯定する材料が何もありませんから。そんな中で唯一の拠り所であった殿下からの婚約破棄ですからね」
そう語ったパトリックは、石畳に座ったまま、石で組まれた天井を見上げていた。
天井には苔が発生しており、時折、水滴が落ちてきている。
水滴は、床に落ちると小さな音を立てた。
「正直、私にも落ち度はありました。何せ、王宮に仕えてから妹と距離を置いていたのですから」
「それは、次期王妃となるクララにとっては……」
「そうですね。将来、王妃になる者と王国内でも有力な貴族が親しい間柄を周囲に見せていたら、邪推する者が出てくるでしょう。ですが、いまでは、それは過ちだと思っています」
「それは、この私が婚約破棄を言い出したからか……」
「そうですね。どんな理由があろうと――、婚約破棄をされた妹の様子を見た時には殿下を殺そうと思いましたよ」
「そうか……」
「妹が殿下を助けようと必死に悩んで動いていなければね」
「それは、嬉しいことだと思うべきだろうな」
「だから!」
――ガン! という、金属音が鳴り響く。
牢獄が並ぶ冷え切った通りに。
そう、パトリックは感情的になり牢屋の鉄格子を素手で殴っていたのだ。
「殿下が、妹を納得させる為に、あそこまで愚かな言い回しをするとは思っても見ませんでした!」
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