第47話 壊れた記憶(7)第三者視点
イグニス王国の王城の地下。
古くは政治犯や凶悪犯、魔物などを捕まえていた場所であり現在は、第一王位継承権を持つラインハルト・ド・イグニスが投獄されていた。
水が滴る地下深くに存在する牢獄は、通路だけがランタンの僅かな灯りにより照らされている。
普段は静寂が支配している場所であったが、いまは靴音が鳴り響いていた。
「パトリックか」
ただ一人、牢獄内にいた男の前で足音が停まったところで、牢獄内に滞在していた男が、振り返りもせずに尋ねてきた人物の名前を口にする。
「王太子殿下」
「何か問題でも起きたのか? それとも、俺の死刑の日取りでも決まったのか?」
「――いえ」
明るい口調で話しかけるラインハルトとは対称的に、パトリックの声が深く沈んでおり、その事に気が付いたのだろう。
ラインハルトの視線がパトリックの方へと向く。
「何もないという顔ではないな」
「……妹が、クララが自殺を図りました」
「――なっ!!」
ガタン! と、大きな音が、地下に響き渡る。
備え付けられていたベッドから起き上がった拍子に足をぶつけたからだが、痛みを感じる素振りも見せずに二人を隔てる牢屋の手すりをラインハルトが掴んだ。
「何が起きた! クララに――彼女が、何故に自殺を図った!」
パトリックも、そもそも妹のことをラインハルト王太子殿下に伝えるつもりはなかった。
現在の王都の情勢を伝えるだけで十分だと思っていたからだ。
そして、それは父親であるオイゲンと取り決めたことであった。
だが、王太子殿下に話そうとした時に、妹を遠ざける芝居とはいえあまりにも辛辣な言葉を、使ったラインハルトに、暗い感情があったのは否めなく――、それが引き金になり、妹が自殺を図ったことを、気が付けば伝えていたのであった。
「殿下が妹にかけた言葉が引き金です」
「何!?」
「妹は殿下を救うために一生懸命行動をしておりました。それらが全て無駄だったことを知り絶望したのでしょう。そして、心無い言葉に失望し、そして記憶を失ってしまったようです」
「――だが、それだけでは……」
王太子殿下の呟きに、
「殿下。何故、あのようなことを……心にもない事を仰ったのですか? もう少し、傷つけず別れる方法があったのでは?」
「それは……」
パトリックの恨み節とも言える追及の言葉にラインハルトも言葉を失う。
「殿下は、妹の将来を考えて引き下がったかもしれませんが、妹は、そうは取らなかったようです。そして記憶を失ったようです」
「何歳までの記憶を失ったのだ?」
「それは、ハッキリとは……」
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