第40話 ようやく会えた(4)
「……う……、うそ……、嘘ですわよね……? ラインハルト様は、いつも私のことを気遣ってくれていました……よね?」
「だから言っただろう? それは、父上が決めたからだと」
「わたくし……そのような冗談は好きではないです……」
分からない。
何て言っているのか……。
言葉は分かるけれども……、その言葉が何を意味しているのかを理解したら駄目というのは、分かってしまっていた。
――だから……。
「わたくし、ラインハルト様をお助けするために教会と手を組みましたの」
「教会と?」
そこで、ようやくラインハルト様の声色にほんの僅かですけど、感情が宿ったように私は感じた。
だから、ラインハルト様に少しでも興味を持って頂ければと思い。
「わたくし、教会の聖女になりましたの。ラインハルト様のために! ラインハルト様を、今度は私がお助けしようと思いまして! ですから――」
だから、私を見てほしい。
やさしい眼差しで私を見つめてほしい。
時々、出会ったときにほんの少しの間だけでも私の頭を撫でてくれたように優しい手で撫でてほしい。
声をかけてほしい。
「なんて馬鹿な真似をしたんだ」
「――え?」
「それでも王妃としての教育を受けたのか? 王家の人間だったものが教会側に与する事がどれだけ問題かは理解しているはずだ」
「ですが! このままではラインハルト様は――」
「王族として生まれてきた以上、覚悟はしている。それよりも、お前のような短絡的に自分の気持ちを優先するような人間が公爵家に名前を連ねている事の方が問題だ。お前のような奴と、少しでも婚約していたのは恥以外の何物でもない」
「そんな……。わたくし……」
声にならない言葉が漏れる。
たしかに、ラインハルト様が言われたとおり、私は自身の感情を優先させたことは事実で、御叱りを受けるのは致し方ないのかも知れない。
それでもラインハルト様が死罪になるよりはずっといい。
「もう、お前には愛想がつきた」
「ラインハルト様……」
「パトリックの頼みだったから会ってみたが、正直幻滅だ」
私は唇を噛みしめる。
「わたくし……」
「話は終わりだ。さっさと去れ」
「……ラインハルト様。お願いがあります。ラインハルト様、私を見てください」
「見る必要はない」
完全な拒絶。
それと同時に、暗闇から姿を現したのはお兄様。
「時間だ。クララ」
「――でも! お兄様! ラインハルト様との話がまだ済んでおりません」
「話は聞いていたが、王太子殿下は、もうクララと会話するつもりは無いということだ」
「そんな嘘です! ラインハルト様は、誰かに操られているのです! 私が、きちんと視れば!」
聖女の力で、私はラインハルト様の体調を確認していく。
「……そんな……」
何かの呪詛に蝕まれている訳もなく、ラインハルト様のお体は至って健康そのもので……。
「分かっただろう? 私は、お前には興味が無いと言う事だ」
「では、王太子殿下。妹は連れていきます」
「ご苦労だった。二度と、その馬鹿を近づけさせるなよ?」
「はい」
お兄様とラインハルト様の短いやりとり。
私は、半ば強引に、地下牢から引きはがされ引っ張られる。
「離して! お兄様! ラインハルト様が! あんなことを言うなんてありえません! きっと何か事情があるはずです!」
必死に、私はラインハルト様から引き離されないようにしようと、お兄様に懇願するけど、お兄様の指先が私の額に触れた途端、私の意識は途絶えた。
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