第21話 暴かれし深遠

「あー! 見つけたぞ!」


 レイアーヌが街中でデカい氷菓を抱えてモシャモシャしていると、聞き覚えのある声がした。

 

「げっ……」


 年頃の少女とは思えないほどの低い声が出てしまう。視線の先にいたのはやはり、カンカンに怒ったクロムだ。

 

「やっぱりどさくさに紛れて抜け出したんだな! こんにゃろ!」


 すぐさまクロムに捕まったレイアーヌ、耳を摘ままれて引っ張っられてしまう。


「い、痛いって! ごめん、私が悪かったよ!」


「そらそうだ、大体レイアが悪い。そういうことするなら、時間まで強制で待機だぞ」


「ええぇ! 横暴よ!」


「当たり前のことです。つーか当然の報いだよ」


 道すがら説教をかまされながら、通行人の目につかぬ内にあれよあれよと詰め所に押し込まれてしまう。


「勝手に一人で行動して……もしものことがあったらどうするつもりだったんだ」


「うう……ごめんなさい」


 静かに怒りを示すクロムに、レイアーヌはシュンとして落ち込む。


「あのな、レイア、お前は歌姫なんだ。この国、みんなにとって大切なヒトなんだよ。だからこうして、常に護衛がついてるワケで、勝手にされたら困るんだ」


「……うん、でも私、たまには、一人で息抜きしたくて。ごめん、反省してる」


「……まあ、分かってるならそれでいいよ」


 やれやれと言った様子で溜息を吐くクロムを見て、レイアーヌは安堵する。

 どうにか許してくれたようだ。

 ……幼い頃こそ変哲もない孤児だったが、十歳にもならない内に歌姫としての才覚を見出され、以来住まいは王宮であり、その頃から孤独となった。


 ずっと一緒だったクロムとも離れ離れになり、皆が丁寧に接する王宮の中で大切にされ、俗世から遠ざかっていく。いつしか彼女の中には、貧しくも温かく、幸せであった昔を渇望する感情が生まれた。


 そんな遠く離れた場所に、クロムは追いかけてきてくれた。ちょっと口うるさいこともあるけれど、彼が自分のことを想ってくれているのは分かっていた。

 感情が先走って今回みたいな事をしてしまうレイアーヌ。それでも、幼馴染の言う事は聞こうと思えた。

 そんな所に現れる新たな影――。


「良くないわよッ! このバカタレ!」


 クロムの後ろ、詰め所の扉を開いて現れた女騎士が、当の幼馴染の後頭部を強めに引っ叩いた。


「痛っ!? な、何するんですかアデリナさん!」


 現れた女騎士の正体はクロムの先輩騎士であり、レイアーヌの護衛の一人、アデリナだ。

 癖のある赤毛が特徴的な、とても勝気で直情的な女性だ。クロムの上司だけあって、とても強いらしい。おまけに治癒魔法の達者らしく、大抵の傷は瞬く間に治すことが出来るみたいだ。


 彼女はクロムと違って、厳しい。部下であるクロムは勿論、護衛対象であるレイアーヌにも手は抜かない。


「当たり前、でしょ! アタイらが、何で、護衛なんて、やってるか、分かって、るのかって、聞いてんのよ!!」


 言葉を区切る度に、アデリナはクロムの後頭部に痛烈な音を発する打撃を加える。バコン、バコンという如何にもな音と、目元に涙を浮かべながら耐え忍んでいるクロムの反応を見れば、どれほどの威力かは推し量れる。

 

「すんません、すんません! オレが悪かったです!」


「ふん、それこそ当たり前よ!」


 その後も説教と、時折鋭い暴力が飛んでクロムは苦しむ羽目になった。普段の光景でもある。それこそ平素であるならば「ああ、またやってる」と半笑いで済ませることが出来るのだが、今回はそうもいかない。彼が叱責されているのは間違いなく自分のせいであり、女騎士が発する怒りはきっと、こちらにも向くだろうから。


「クロム、勿論アンタも悪いけど――」


 そう言葉を切ると、ぎょろりと威圧的な視線がレイアーヌに向く。

 ひぇ、と思わず声が出そうになるのを堪えた。そうして浮かんだのは「やっぱり!!」という納得の感情。


 アデリナはズカズカとレイアーヌに近づき、額に筋を浮かべながら微笑むという器用な様相を見せた。


「レイアーヌ様ぁ? 以前にも言ったので覚えていらっしゃると思うのですが――こういうことされると困るんですよねぇ。レイアーヌ様は国の宝、賊にでも襲われたら大変です。だからこそ、こうして警備に当たっているんです。まあ、聡明なレイアーヌ様なら、も・ち・ろ・ん、お分かりでしょうが」


「はい、はい……すいませんでした」


 口調こそ丁寧なものの、有無を言わさぬ迫力と共に成される説教は、さしものレイアーヌも縮こまってしまう。

 十数分に渡る口頭注意――もとい説教を終え、ヘトヘトになったレイアーヌ。流石に看過できなかったのか、レイアーヌはアデリナとクロムの護衛の元、王城へ向かう事になる。城に押し込めば、下手な真似は出来ないからだ。


 平服のまま向かうワケにはいかないので、クロムが普段着から鎧に着替えるのを待って、彼らは出発した。

 ……城に向かう理由はそれだけじゃない。

 そろそろ慰海祭の目玉であり、儀式――「歌」による慰海を執り行う時間だからだ。

 

 この都市は円形に造られており、一番奥――つまり、外洋側に王城は存在する。

 王城リヴァイア。名の由来は王城に飾られた由緒正しい魔槍「リヴァイアサン」から来ている。


 王城に造られた、海が良く見えるテラスのような儀式場にてレイアーヌは歌う。歌を届ければ、その年の彼女の役目は終わり、また一年の平穏が約束される。

 歌うだけならよいのだが、その前にある演説も彼女がやらねばならない。レイアーヌはそれが嫌で仕方なかった。


 勉強は苦手だし、何かを覚えるのも嫌いだ。おしゃべりは好きだが、大勢の人の前で畏まるのも苦手だ。

 

「……ハァ」


 まだ暗記途中の原稿を思い出して、レイアーヌは憂鬱な溜息をついた。

 

「コラ、そんな顔するなって。歌姫がそんなんだと、皆不安がるぞ」


「そうですよ、レイアーヌ様。今日が終われば一先ず自由ですよ? だからあと少し、頑張ってください」


 クロムとアデリナが元気づけてくるが、レイアーヌはどうにも奮わなかった。確かに今日を乗り切ればいつもの日常が帰ってくる。だがその先にあるのは、王城で閉じこもる孤独の日常。寧ろ慰海祭があるからこそ、こうして外に出られたのだ。


 それを考えれば、終わらせてしまうのはもったいない気がしてならないのだ。尤も、レイアーヌにはどうこうする力が無いので詮無き考えであるが。

 でも、自由を惜しむのは誰にだって出来る。


 そして僅かな自由の中で作った思い出を懐かしむのも、万人に許された権利のハズだ。

 欲を言えば、回顧録のページをもっと増やしたかったが、仕方ない。

 次の一年まで、あの鳥籠のような城の一室にて思い返して、愛でる事にしよう。

 

「……よし」


 そうやって自分を奮い立たせれば、後はメインイベントを立派に務めるだけだ。

 緊張はする。でも初めてじゃないし、きっと大丈夫だ。

 何より、自分の歌を楽しみしているヒトが沢山いる。

 それを思えば、頑張れるというものだ。

 

「ふぅ……うん、大丈夫。取り敢えず今日一日、頑張るよ」


 そういってレイアーヌが心配性な護衛二人に笑いかけると、彼らは安心したように微笑んだ。

 そんな彼らを視界の端に、王城の階段を見据える。正面入口の大階段は荘厳で、いつ見ても気が引き締まる。

 

「これはレイアーヌ様、どうぞお通り下さい」


 警備に当たっていた兵士が、レイアーヌを見てにこやかに歓迎する。歌姫たるレイアーヌは当然顔パスだ。

 

「……あれ?」


 階段を上って王城に入ろうとしていた時、先に入っていく影を見つけた。

 見覚えのある姿だ。……大柄も大柄な身体に、紅い毛並み。


「ヴェドさん?」


 王城に入っていたのはヴェドなる獣人の青年だった。レイアーヌが逃げ出したした時に出くわした者だ。

 何故王城に……? いや、正面から堂々と入っている所を見るに、やましい事は無いのだろうが。

 だが一般人であるハズの彼が王城に用があるのは意外である。


「ヴェドさーん」


 思わぬ再会に、レイアーヌは反射的に遠くから声を掛ける。――そこで自分の失態を悟った。彼には自分の正体を曝していない。今のレイアーヌじゃあ分からないのでは――


 予想通りか、ヴェドはコチラを一瞥すると、興味なさげに王城へ消えていった。

 少し素っ気無い反応に、むっとしてしまうレイアーヌ。もうちょっと反応があってもいいのではないか。――いや、さっき自分が考えた通り、知らないハズの少女に声を掛けられたのだ。反応が無くても可笑しくはない。

 

「どうしたんだレイア……あれ、獣人?」


「珍しいわね、見学か何か? にしても許可が下りたなんて……」


 護衛二人も顔に疑問符をつけていた。確かに、王城は政を司る場所だ。素性も知れない一般人を通すというのは考えづらい。

 お客という事なのだろうか? そういえば帝国は獣人が多いと聞いた事がある。もしかしたら帝国の使者なのかもしれない。


 どうしても興味が湧いたレイアーヌ。クロムとアデリナに振り返ってみる。


「あのさ、ちょーっと気になるんだよね」


「………レイアが何考えてるのかは分かったけどさ」


「ダメです。どうせろくでもない考えでしょう」


「えぇ、いいじゃん! 知り合いにちょっと声掛けるだけだよ!」


「……あのヒト、知り合いなのか?」


「まぁね! その……さっき会ったから」


「……レイアーヌ様が逃げた時に迷惑かけたヒトって所でしょうか?」


「え、何で分かるの」


「だと思ったよ」


「もう、クロムまで」


 レイアーヌを一通り揶揄って満足したのか、クロムとアデリナは改めて見据える。視線の先にはもういなくなったヴェドを追っているように見えた。

 

「ね、いいでしょ? ちょっと声掛けて、ついでに何しに来たのか聞くだけだよ」


「………まあ、そういう事ならいいでしょう」


 頭痛を抑えるように頭を触ったアデリナが許可を出す。


「やった! じゃあ早速行くね!」


 そう言い残して、レイアーヌはまたしても逃走した。今度は後ろに慌てたようにする護衛二人を伴って。

 まあ、行く先は王城だ。心配性な幼馴染と、その先輩が言うような危険なんてあるまい。

 そう、そのように考えていた。








 ◇◇◇








 ヘルメスが掴んだ研究所の情報。彼女曰く、「それ」があるのは――


「王城か。政治の中心にそんなんがあるって、そう言う事だと自白しているのと同義だぞ」


 俺の視線の先には荘厳な造りの王城と、そこへ続く大階段がある。入り口には警備の為に数人の兵士が置かれていた。

 

「王城リヴァイア、ここに例の研究所があるんだな?」


 俺は独り言を呟くようにして、隣にいるであろうヘルメスに問いかける。

 傍から見れば誰もいないハズの空間。しかし俺が問うと、まるで陽炎が揺らぐように空間が歪む。


「ええ、そうよ。この国、見かけによらず中々な魔法技術を保有しているのよ。王城には、ここじゃ廃れかけているユグドラス教の礼拝堂があって、そこには空間魔法による転移陣があるのよ。繋がっている場所は――まあ、お察しの通りね」


「礼拝堂の裏にある、悍ましき研究所か……神へ繋がる為の聖域が、随分堕ちたモノだな。皮肉にしては程度が低い……」


「あはは、まぁそう言わないの。所詮ニンゲン、って事なのよ」


 そう言うと、ヘルメスは黙り込む。雰囲気が僅かに変わった。彼女は何らかの方法で隠密している為、姿を認識することはできない――やろうと思えばきっと看破できるが、その場合本気を出さないといけない。そうなれば、今度は俺の擬態が崩れる――ので、察するにニンゲンに対しての思いが浮かんだのだろう。


「……そう、所詮ニンゲン。この星、ライデルを統べるには値しない」


 ふぅ、と溜息を吐いたヘルメスは、こちらを向いたような気配を出す。


「だから、今日の劇は期待してるわよ。ニンゲンが醜く終わる様は、嫌いじゃないもの」


「そうか、まあ、程々に期待していろ」


 それっきり会話は無くなり、俺は王城の階段に近づく。

 階段の警備に当たっていた兵士が俺に気が付くと、持っている槍が僅かに強張る。


「止まれ、ここは王城リヴァイア。誉れあるマーレスダ王国の権威集う場所、見知らぬモノを迎えるワケにはいかない」


 今の俺は化け物ではなく、怪しいだけの唯の獣人なので、当然兵士が止めてくる。

 ヘルメスなら情報部らしく隠密で通り抜けるのだろうが、俺ならこうする。


 ――〈部分変異・群集魔眼イービル・アイズ

 

 俺は施された擬態を緩め、瞳の魔眼を解放する。

 秘めたる術式は魅了――視界内の対象を無差別に呪い、術者に対しての意識を操作する。魅了された対象は、術者に強い好感を抱き、大抵の命令を受け入れる。性別は関係無しに作用する。但し自傷や自害といった命令は不可能だ。あくまでも好感度操作の異能である。


 俺の左目が元の黒く、紅く、禍々しいソレに変貌したと同時に、僅かに魔力の光が放たれる。それを終えた瞬間、俺は再び瞳に擬態を施す。

 

「……通して、貰えるな?」


 俺が問うと、兵士は僅かに虚ろな表情で頷く。

 

「礼を言う。それと、お勤めご苦労様」


 そういって俺は兵士の肩を軽く叩き、王城の大階段を上る。数十秒後には俺と邂逅したことすら曖昧になっているだろう。魅了の魔眼のいいところは、被術者に強い影響を齎さない所だ。効力は洗脳の魔眼に劣るが、弱い故に痕跡が残りづらい。

 バレても皆殺せばいいだけだが、面倒事を避けるという意味なら有用である。

 

「便利ねぇ~」


 横にいるであろうヘルメスが、茶化すように言った。そりゃ便利だが、お前も多分似たような事出来るだろ?


「出来るけど、やっぱ魔眼って所がいいのよ。アタシ魔眼ないし、眼から魔法を使えるっていいのよね。隠密性に長けるっていうか」


 俺の考えを読んだようにヘルメスが答える。

 なるほど、確かに一理ある。魔眼最大のメリット、それは詠唱無しで視界内に手っ取り早く魔法を発動可能という所だ。情報部として、秘密裏に活動するヘルメスとしては、持って生まれたかった才能なのだろうか。


 魔族や魔人族にも魔眼を持つ者はいるが、先天的に持っている場合が多い。後天性の魔眼は、何らかの影響を受けて発現した場合か、移植手術によるものだ。


「なるほど……欲しいならあげるけど」


 そういって俺は〈部分変異〉によって掌に魔眼を生成して向け、見せる。


「えぇ……キモイ。要らないわよ。ていうか仮にそれを移植する為に抉り取って、痛くないの? 嫌じゃないの? もしかしてバカ?」


「失礼なヤツだな、そりゃ痛いぞ。痛いのは嫌いだが、タウミエルの先輩の頼みなら――って思っただけだ。ちなみに色々あるぞ、魅了だけじゃなくて」


「結構よ。他人の一部を、それも知り合いのを貰うって、何か……ちょっと、意味がありすぎじゃない?」


「何だそれ。ちなみに魔眼云々は冗談だから、本気で受け取るなよ」


 そういって俺はそそくさと階段を上りきる。後ろでヘルメスが「何よそれー」と喚いたような気がする。

 揶揄い甲斐のあるヤツだ。ちょっと面白いかも。

 

「言っとくけど、アンタ冗談のセンスクソほどもないからね」


 追い付いてきたヘルメスがそんなことを言う。それは正直自覚している。

 王城入り口についた俺は、改めて城を見上げる。海風に耐える為か、荘厳さの中にも堅牢さを窺える造りだ。やばい研究所があるようには見えない。

 入り口に立っていた警備にも同じく魔眼による操作を施して、さあ入ろうとした時である。


「――ヴェドさーん」


 遠くから聞き覚えのある少女の声がする。振り返ると、階段の下に例の少女と、その護衛らしき騎士二人がいた。

 

「……」


 関わり合いになると面倒だな。

 俺はすぐに視線を逸らして王城に入る。

 中は見事なモノだ。海の色である青が映えるようにか、白を基調にした造り。アラベスク文様にも似た意匠が施された柱や壁面。異国情緒とでも言おうか。

 俺が見慣れぬ光景に感嘆していると、茶化すような声音のヘルメスが水を差す。


「ヴェドって何? もしかして咄嗟に思いついた偽名? ルベドだからヴェド? ちょっと安直じゃない?」


「煩い、殺すぞ」


 いいだろ別に。シンプルなのは悪い事じゃない。

 胸中にて毒づく俺は、僅かに曇った気分を晴らすように首を振って「礼拝堂」とやらを目指す。

 初見の建物だが、地形を把握しているヘルメスが近くにいるので迷うことは無い。

 時折騎士や警備の兵士に目を付けられ、それを魔眼でやり過ごすという行為を続けながら、俺は王城を進んで礼拝堂に入った。

 

「ここが例の……」


「寂れてるでしょ?」


 ヘルメスが言った通り、確かに礼拝堂は寂れていた。

 手入れこそされているが、祈りに来る信徒はおらず、祭壇は簡素で、豪奢だった城内と比べ、壁面も殆ど無地で安い漆喰で塗られている。


 この国はイルシアが滅ぼしたとされる古の帝国の流れを汲んでいるらしいので、ユグドラス教を蔑ろにしていても不思議ではない。昔から仲が悪かったらしいからな。

 にしても取り繕う事すらしないとはな。西と東はどの世界でも険悪という事だろうか。

 

「まあ、神への祈りが繁盛していようといまいとどうでもいい。取り敢えず、例の場所はどこなんだ?」


「準備室よ。仕掛けを作動させると転移陣が起動するの」


「ふーん」


 生返事を返しながら、俺はヘルメスに言われた通り祭壇の後ろにあった準備室に入る。

 室内は暗くて埃っぽい。本来なら洗礼なんかで使われるであろう宗教関連の品々が、放り出されるようにして連なっている。雑だな、神サマへの敬意は殆ど感じられない。

 

「それで、どうやって転移陣とやらを開くんだ」


「この部屋自体に術式が施されているみたいね。よく見てみて、魔法陣の結節点に物が置いてあるでしょう? これをどかしてから魔力を流し、陣を励起させると起動するの」


 滔々と解説するヘルメスが言った通りに邪魔なモノをどかし、魔力を流し込む。すると埃塗れだった床が青白く光り、転移陣が活性化する。

 

「なるほど、シンプルだが意外といい仕掛けだな」


「城内だから、ちょっと考えれば解けるような仕掛けでも問題ないって事でしょう。最高政府である王城に、良からぬ輩が侵入して、妙ちくりんな仕掛けを解くなんてそうそうないでしょうし」


 ヘルメスと雑談をしていると、転移陣の効果で視界が白く塗られて――転移が成される。浮遊感にも似た感覚がしたと思ったら、光が晴れ、次の瞬間には景色が変わっていた。

 

「……これはこれは。俺のご主人様にも負けないほどえげつないな」


 俺の目の前には、如何にもと言った光景が広がっていた。

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