外道錬金術師作、キマイラです
草原 風
プロローグ
第1話 キマイラは憂鬱
こんにちわ、
地球で普通の人間だった俺だが、不幸な事故で死に、気づけば邪悪な錬金術師の手がけた怪物として生まれ変わっていた。
そう、異世界転生というヤツだ。
「ルベド、ルベド! 我が最高傑作よ! お茶を! お茶を出してくれ!」
俺の創造主、馬鹿な錬金術師のイルシア・ヴァン・パラケルススが呼ぶ声がする。
頭痛くなってきた。
どうしてキマイラにそんな雑用を押し付けてくるんだ。
俺の主であるイルシアは、銀髪碧眼で眼鏡を掛け、白衣を羽織ったクール系の美女だ。
黙っていれば絵になるような容姿なのに、口を開けば錬金術のことをペラペラ喋る痛いオタクみたいなヤツだ。
しかも倫理が終わっていて、人体実験やら非道なことも辞さないマッドサイエンティストである。お陰でコイツ、人間の社会からは指名手配犯の極悪人扱いらしい。
妥当だな。
「お茶って……いつものでいいのか?」
「うむ、うむ! その、いつものでいいぞ!」
コイツ、錬金術や魔術以外は全くできない社会不適合者なので、飯も作れない。
俺を創る前は、魔法で栄養素なんかを補充して食い物を食うということすらしなかったようだ。
終わっている、コイツ。
そのせいか、俺が手慰みに作った揚げ菓子とお茶をやたらと気に入り、求めてくる。
「おい、イルシア」
「なんだい、我が最高傑作ルベドよ」
「俺、キマイラなんだよな?」
「うむ、そうだ」
「……キマイラって、こんなことするためのモンなのか?」
「………………違うね」
「だろうな」
俺が溜息をつくと、錬金術師は泣きそうな顔で縋りついてくる。
「待て、頼む。後生だ、作ってくれ。あんなに美味しいものがあるなんて知らなかったんだ」
「……分かった」
今日も俺は、このろくでなし錬金術師に振り回される。
◇◇◇
生まれてから雑用とちょっとした性能テストしかしていない俺だが、割と今の生活に満足している。
俺たちが住んでいるのは――おっと、まずはこの世界そのものからの説明だな。
異世界である旨は前述しただろう。この世界、ライデルという星は、俗にいうファンタジーな感じである。
魔物とかいう物騒な怪物がいて、エルフとか獣人とかの亜人がいて、魔法もある。魔法は便利なので、それに頼りがちになり、結果文明はまだ中世――いや近世? くらいである。
そんな世界にある魔法の中でも、錬金術というのはちょっと特殊だ。
呪文を唱えて炎や稲妻を出したりするモンではなく、魔法技術で薬やら魔法生物やら、魔道具やらを拵えるのが主な仕事だ。
何でも、世界の理を研究し、やがて真理へ至るのが錬金術師の命題なのだとか。
そんな錬金術師の中でも、稀代の天才なのが俺の創造主、イルシア・ヴァン・パラケルススである。
何でもコイツ、錬金術師の命題である真理に到達したらしく、賢者の石だとかいった、お馴染みの錬金術アーティファクトすら錬成した異常者なのだ。
その在り過ぎる能力を持て余した彼女は、ロマンを追い求めることにした。
あろうことかコイツ、最強の存在を生み出したいという欲求に駆られたらしい。
まるで小学生みたいな発想だが、さしもの天才でも難しかったようだ。
だから、彼女は発想を変えた。自分で進化するヤツを創ればいいと。
初めから最強を創るのは難しいなら、無限に進化するヤツを創ればいい。
アホみたいな発想だが、その結果が俺ってことだ。
キマイラという、生物と生物を錬成して創る魔法生物。彼女曰く、
――狼の獣人をベースに、複数の魔獣の要素で肉体を強化、再構築し、魔物の魔眼と魔力回路を備え、かつ尻尾を魔獣の蛇として独立させる初歩的な、しかし私の作品の中で最も機能美に優れた存在――
らしい。
ちっとも理解できないが、問題無い。つまりコイツは、俺に素材を取らせに行って、最終的に最強にしたいようだ。
育成シミュレーションのキャラクターにでもなった気分だ。いや、シミュレーションのキャラにしてはちょっといかついが。
俺の見た目は漆黒の毛皮を持つ狼男だ。
黒曜石のような長いタテガミと、240センチほどもある巨躯に筋骨隆々の強靭な身体。
禍々しい瞳――白目の部分は黒く、逆に虹彩は紅い。瞳孔は縦に長い、悪魔のような瞳だった。
尻尾はさらに異形だった。二本生えているのだ。しかも尻尾は銀の鱗で覆われた、蛇である。
それらの尻尾は独立して意思を持つかのように、鎌首をもたげる。
個人的には、割とカッコイイと思っている。まあ、元の世界でこんなのと出くわしたら泣くだろうけど。
キマイラというよりは、悪魔っぽい感じだ。イルシア曰く、これからキマイラっぽくなるのだーとかなんとか。
「うむ、美味だ! 流石は我が最高傑作」
とある魔境の森の奥深く、そこに構えた屋敷に俺たちは住んでいる。今俺の目の前でチュロスモドキをバクバク食っている女が、国際指名手配犯なせいで、隠居生活をせざるを得ないのだ。
ちなみに俺を創る時にもだいぶやらかしたようだ。まあ、異世界から死んだ人間の魂を持ってくるようなヤツだ、何をしていても不思議じゃない。
そんな邪悪な錬金術師に創られたせいか、俺もだいぶ人間らしさや善性というモノは失っている。ま、いっか。どうせ俺も化け物なんだし、お似合いのコンビだ。
一度死んだ俺に、どんな形であれもう一度生を謳歌するチャンスをくれたのだ。コイツには、一応感謝している。
邪悪な錬金術師が手掛けた怪物らしく、最期まで付き合ってやるつもりだ。
もしかしたら、ゲームみたいに正義の勇者が俺たちを殺しに来るやもしれない。そうなったら倒されるのがお約束だが、これは現実。態々死ぬようなバカには成れん。
「ということで、そろそろ……その、なんだっけ」
「
「……その、ナントカ計画に従って、そろそろ進化するために、俺の素材を集めに行きたいんだが」
「おお、そうだね。それはいい」
すると、イルシアの言葉に反応した俺の尻尾――蛇たちがピクリと反応する。
「オ出カケ? オ出カケ?」
「イイネ! 外、行キタイゾ!」
高く可愛らしい声をした、俺の尻尾である蛇たちが口々に言い放つ。
実はコイツらにも自我や思考能力がある。この蛇は、鞭のようにしならせて攻撃したり、多様な毒や薬を生成して毒牙から打ち込めるのだ。
ちなみに、言葉を二回繰り返す方がオルという名で、そうじゃない方がトロスという名だ。煩いヤツらだが、可愛らしいところもある同居人兼ペットである。
「ふふ、君たちもお散歩したいようだな。いいだろう。ではまず、この森に住まう魔物――アルデバランという山羊の怪物を仕留めて来たまえ。手強い魔物だが、君たちならばやれるだろう」
「ヤレルヨ! ヤレルヨ!」
「オイラ達ニ任セロ!」
「……コイツらは元気いっぱいだし、やれるさ」
「うむ、その意気だ。では、行って来たまえ」
ということで、遂に俺は屋敷の外へ出て、キマイラらしく戦うことになったのだ。
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