第11話 人脈作り

 夜通し街道を走り、国境を抜ける。

 誰もがドラゴンを倒したなどということを話す人なんていない。

 そして――、国境を抜けてから数時間走ったところ……、周囲には町どころか人も住んでいない森の中で視界が遮られている小さな広場で、休憩を取る事になった。


「よし、全員、一端降りるようにな」


 サイさんの指示で、私を含めたアネットさんやユーリエさんは幌馬車から降りる。

 私達が先頭だったので、後続の幌馬車も次々と停まっていく。

 そして、小さな広間で全員が集まったところで、スパークさんが私に近づいてくる。


「エミ。本当にいいのか? 約束した事を守ってもらう事になるが……」

「構わないですよ」


 そう、誰の目にも触れない場所で、ドラゴンを皆さんで分けてもらう。

 それが私の秘密を口外しない約束。

 そして国境を抜ける際にもセルトラ王国の兵士には皆さんは黙ってくれていたので、今度は私が守る番。


 私の言葉に頷いたスパークさんは、広場の中央を指差す。


 そこはキャラバン隊の中央部分の場所であり本来なら薪とかする場所だけど、今回は商隊が周囲を取り囲んでいる事から、中央部分を外部から人が来たとしても容易に見えることはできない。

 そんな絶妙な位置。


 そこへ、私はアイテムボックスから取り出したドラゴンの死骸を置く。


「あとはスパークさん。お願いできますか?」

「ああ、任せてくれ」


 そう言い、スパークさんと、その補助の為のサイさん、あとは商人の方が話し合いを始めた。

 しばらくすると、ドラゴンの死体を冒険者に指示して切り分ける光景へと移る。


「あれ? ユーリエさん、どうかしましたか?」


 しばらく、ドラゴンが切り分けられている様子を眺めているとユーリエさんが私の傍まで来て横に無言で座った。


「うちは弓兵やからな。ああいう力仕事は向かないんや」

「そうですか」

「なあ……」

「はい?」

「エミはん、本当に良かったんか?」

「ドラゴンのことですか?」

「そうや。すくなくとも、あんさんが倒したんだから、権利はあんたにあると思うんや」

「そういうのは必要ないですね」

「一生、働かなくても生きていけるんやで?」

「そう言われてしまいますと、心は揺れますけど……」


 それでもセルトラ王国とは関わりたくないので、私の痕跡が残るような真似はしたくないです。


「私、家出娘ですので」

「ほうか。何か、深い事情があるんやね」

「聞かないでくれると助かります」

「聞かんよ。誰でも話したくない秘密の一つや二つはあるからね」

「そうですね」


 そのユーリエさんの言葉には私も同意です。


「それにしても冒険者の方々はずいぶんと協力的ですね」

「そんなの当たり前や。ドラゴンの死骸を市場に出して売るのは商人の役目やさかい。ただ、うちら冒険者は即金で商人からお金を貰う事になったんや」

「それは良かったです」


 冒険者の方が、ドラゴンの死骸を売ろうとしたら素材を売る為に冒険者ギルドを通す形になるので、そうなると間違いなく冒険者ギルドから追及を受けてしまう。

 でも、商人の方が代金を立て替えてくれるなら、それは起きない。


「やっぱりスパークさんが立て替えを?」

「そうや」

「それとこれを渡してくるようにと頼まれたんや」


 差し出された羊皮紙。

 紐解けば、商人の方の名前や店の名前、どこの町に拠点を置いているのかが書かれている。


「これは……」

「今回、大金を稼がせてもらったエミはんに対して、商人や冒険者の人達が今後何かあったら力になってくれるそうや」


 私は、ユーリエさんの言葉に頷く。

 図らずも大勢の商人の方と人脈が築けたのは、ドラゴンの報酬をもらうよりもずっと価値のあるものだったと思う。

 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る