第3話 お兄様はカッコいいです。
貴族の子弟が通う貴族院。
その門を潜り抜け、しばらく走っていると、パカパカと馬の蹄が聞こえてくる。
嫌な予感がして、馬車の窓を開けて後ろを振り向くと馬が一頭向かってきていた。
「……エリーゼ!」
「――お、お兄様……」
今日のお兄様は、王太子様の卒業という舞台ということもあり護衛には着ているけど鎧ではない軽装。貴族のみが着用することが許された白い軍服を身に纏っている。
凛々しい顔つきと、訓練で培われた肉体――、それは白い軍服を着ていても分かってしまう。
半年ぶりに見ましたけど、やっぱりお兄様はカッコいいです。
少しだけ、そんな事を思いながら私は頭を左右に振る。
「何をしているんだ!? すぐに馬車を停めなさい!」
ずいぶんと焦った様子で、お兄様は馬車と並行して馬の手綱を操っていて、それはそれは見事なモノ。
「ごめんなさい。私……、少しだけ田舎で過ごします!」
「ちょっと待てっ! どういうことか説明だけしていけ! 突然、警備網を抜けた馬車が居ると思えば、我が家の家紋が彫ってあったんだぞ? 今日は、レオン王太子殿下の卒業と、王太子としての職務を受け継ぐ大事なパーティだっただろう? そんな大事な時に、婚約者のお前がいなかったら、どうなるかくらいは分かっているだろうに!」
どうやらお兄様は、パーティで起きたことを何も聞かされていなかったみたいで、違う意味で追いかけてきたと……。
ここは――。
「…………お兄様……ぐすっ」
「ど、どどど、どうした? エリーゼ? 何かあったのか?」
私が涙を見せると、とたんにお兄様は慌ててしまう。
お兄様は、妹の私には、すごく甘いのです。
「私、レオン様に婚約破棄を言い渡されましたの」
「……なん……だと……」
私の言葉に絶句するお兄様。
小さい頃から、私をいつも可愛がってくれたお兄様ならでは反応。
私もお兄様に懐いていて小さい頃には、「お兄様のお嫁になりますっ!」と語ったのは黒歴史かもしれない。
そんなお兄様が、私の話を聞けば真偽は定かとして、追従の手を緩めてくれるかも知れない。
「それは、本当なのか?」
「はい。精霊様に誓って――」
「……分かった。真偽のことについては、レオン様に俺の方から聞いておこう。だが――、田舎というのは、どこに向かうつもりだ?」
「フェルベール地方へ向かおうと思っています」
「それは……メレンドルフ公爵家の管理する辺境ではないか」
「はい。殿下のお邪魔にならないようにと思いまして……。私が公爵家の本領に戻りましたら貴族の方も要らぬ考えを持つかも知れませんので……」
「そう……だな……」
形容しがたいと言った様子で頷くお兄様。
「それでは、ここで待っていなさい。国内は政情が安定しているとはいえ、何が起きるか分からないからな」
「大丈夫です。フェルディナンド様が治めておられるクラウディール王国は、他者を害するような方はおられないと信じておりますので。それに――」
「お嬢様は、私が守るから問題ない」
従者席からウルリカが私とお兄様との会話に割って入ってくる。
「なるほど。ウルリカがいるなら……。だが、危険だと思ったらすぐに引き返すんだぞ? いいな? エリーゼ」
「分かっていますわ」
納得したお兄様は貴族院の方へと戻っていきます。
その後ろ姿を見たあと「ウルリカ、急ぎましょう!」と、すぐに馬車の出立を急かした。
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