第129話『ツッチー、異世界に根付く(2)』
やがて魔眼の意思はオレの島から持ち出されたマンドラゴラに目を付けた。
話を聞いていると、オレが盛大なトラブルに巻き込まれ始めたのはこのあたりからだろう。
魔眼は第二皇子を操り、その出どころを探らせて突き止めた。
ついでとばかりに宿主の目の上のたんこぶである第一皇子のバランタインも始末しようとした。
これが今回の魔王首狩り侵入作戦の始まりだ。
第二皇子いわく当時の事は自分の意思でやっていたと断言できるし、記憶もはっきりしている。
しかし、自分としては王という責任ある立場よりも第二皇子という立場で放蕩する方がいいとも断言した。
自分が正気ならば王位を狙うなど考えもしなかっただろう、と。
「優秀な兄に全てをまかせれば第二皇子という力と金が使い放題の人生だぞ? それを捨ててまでボクが王になりたい理由? あるはずがない」
そう、第二皇子はタチの悪い遊び人だった。
そしてサキちゃんは優しく誠実なイケメン第一皇子や、頼れる兄貴系の聖騎士より、顔はバランタインと同じだが中身はオラオラでオレ様系という理由でこちらに鞍替えしていた。
魔眼の影響がなくなった今は真顔で『荒事万歳な兄や聖騎士にケンカを売るなんて愚者の極みだろう?』と言っているあたり確かに魔眼の最大被害者かもしれない。
だが根本的に解決にはなっていない。
今も第二皇子の魔眼はそのままだ。
えぐりださない限り、暴走の危険は否めない。
この島の果実で腹を満たしている限りは大丈夫だろうが、何事にも絶対はないのだ。
そんな不安から今も時折、第二皇子の紅い瞳をのぞきこんでしまう。
その紅い瞳孔は人のものというより、虫の複眼のような格子状に見えて、ますます寄生虫というイメージが増す。
「大魔王。お前はたまにボクの魔眼に興味を示すな? それは不安や不信か?」
「すまんすまん」
「この右目、潰してもらってもかまわんぞ? あれだけのことをしでかしたんだ。命があるだけで僥倖だからな。だが舌は勘弁してくれ。酒の味がわからなくなる」
くっくっくっ、と笑う第二皇子。
なんて悪役が似合うイケメンだろうか。
多分、この島で一番、悪役が似合う男だろう。
「とは言え、じゃあ本当に潰します、というのもそれはそれで困るんだが」
「ん? 魔眼を失う事がか?」
第二皇子はうなずく。
「あの兄をただ甘い男と思っていないか?」
「そりゃ、まあ。唯一の弟を救うためなら、多少の無理は誰だって」
「甘い甘い。お前は大魔王と呼ばれるわりに、人間よりずいぶんと甘いな」
気遣ったのに、全力否定された。
あと、大魔王って呼び出したのはお前が最初だ。
そう言った時、ディードリッヒがハッとした顔になって、またイエローカード持参でやってきたのは最近の事だ。
自分ももっと早く、そう呼びするべきでしたとか言い出して涙目だったからな。
そんなトラブルの元凶が自分の顔を指してこう言った。
「大魔王よ。この顔を見ろ。どう思う?」
「……イケメ……美男子だな」
イケメンという言葉は通じないので言い直す。
後ろでサキちゃんがコクコクとうなずいてた。
「魔王」
「はい」
怒られた。
あと地味に格下げされた。
「この顔は兄と同じだ。瓜二つ。この右目の色をのぞいてな。意味はわかるか? お前ならどう役立てる?」
「……影武者?」
「ほう、正解だ。いざとなればそういった使い道ができる駒をむざむざ処分するより、切り札として隠し置いておいた方がいい」
「あのバランタインがそんな事を考えるかな?」
口ではなんだかんだと言うが、正義感の強い男だ。
「逆だ。どれだけ清廉で慈悲深いとしても、その程度の考えがなければ王位なんてとても継げない」
「むう」
それはそれで納得できるのだが、うーん。
「他にも使い道はあるぞ、なんせ厄介な魔眼持ちだ。コレは無差別に被害をもたらす爆弾みたいなものだが、敵国に忍び込ませれば、それだけで混乱を巻き起こす使い捨ての駒としても使えるだろう?」
「さすがにそれは……」
オレが眉をしかめると、第二皇子はまた笑う。
「大魔王。お前は本当に魔人に向いてないな?」
「オレもそんな気がしてきたよ」
「くくっ……む」
実に愉快そうに笑う第二皇子だが、急に眉をしかめた。
「おい」
オレに向けた言葉ではない。
「あ、はい!」
「いちいち言わせるな。気の利かんメイドだな」
「ご、ごめんなさい!」
空になった酒杯を横に侍るサキちゃんに目も向けず差し出す。
サキちゃんはお高そうなボトルをかたむけて、丁寧に注いでいる。
女に酒を注がせる事が当然、という意識すらないくらいに自然に命じる第二皇子。
無下にされていいの? と聞いた時、それがいいんですよ! と断言したサキちちゃん。
今も理不尽に怒られたというのに、ウットリと上気している顔だ。
……ま、当人同士が納得しているし、それはいいだろう。
そんなわけで、そんな危険人物ともいえる第二皇子であり、そんな彼をかくまってほしいと言ってきたバランタイン王の願いは覚悟の証明でもあるのだろう。
決してこの島の秘密を漏らさず、平穏を約束するという決意だ。
いくら利用価値があるとはいえ、第二皇子が生きていると知れば、再び争いの原因になるのだから。
面倒だと思いつつも、その意思を尊重してオレは請け負い、結果としてこの平和な日々を手に入れた。
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