【完結】しぼりカスと呼ばれた魔人ツッチー、その力、実は最強!? ~妖精と過ごす異世界孤島ライフに、空から海からトラブルがやってくる!~
第16話『ツッチー、大地に立ってから五年後、初めての来訪者(4)』
第16話『ツッチー、大地に立ってから五年後、初めての来訪者(4)』
「そこで、この哀れなダークエルフに情けをかけると思って……この果実を取り扱わせていただけませんか?」
自分を哀れという割に、輝きだした瞳はまさに商人というべきものだった。
「取り扱う……売ってくるって事か? どこに売りに行くんだ? そもそもダークエルフの生活圏も人間と一緒なのか?」
知らない事ばかりが出てきたので、失礼かもしれないが本人に聞くことにした。
「ええ。ウッドエルフと同じく、ダークエルフも亜人種ですから。人間種と敵対関係にある魔族とは違って、一応は友好種族です」
「一応ね」
含む言い方である。
「ええ。人間の規範である教会の教えでも、仇なす魔族、それら以外は手を取り合えと教えがあるらしく、おおっぴらに迫害されたりはしませんが……」
差別を通り越えていきなり迫害という言葉出てくるあたり、色々と察せられるのだが。
その前にオレはこの手の種族絡みの話になると、毎回確認したくなる。
「ちなみにオレは魔族……だよね?」
「何言ってるのツッチー?」
きょとんとする妖精。
「もしかして違う?」
「ツッチーが魔族じゃなかったら、この世に魔族は存在しないわね。魔人なんて高位も高位の魔族でしょ?」
「そうだよねぇ」
足りないのは自覚か。
「じゃあ、魔族とつながりができた亜人ってのは、人間の敵になるんじゃないの?」
ヤバいヤツとつながりのあるヤツは世界の敵ってなるよね?
「そうよ」
「左様ですね」
妖精とディードリッヒが即答した。
「どっちかって言うと妖精種族は魔族寄りよ。個人として人間と仲のいい妖精もたくさんいるけどさ……」
妙にふくむ言い方だったが、ディードリッヒが補足してくれる。
「過去には妖精と手をとりあった大英雄もいたようですが、今や悪辣な人間は妖精を捕らえ、奴隷や道具のように扱い、売買する事があります。妖精は亜人と認められていないため、それを罰する法や倫理が人間にはありません。そうして売られた妖精は……」
オレの肩でうつむく妖精を見て、ディードリッヒが言葉を飲み込んだ。
「ああ、皆までいうな。人間なんて同じ人間すら売り買いするんだ。想像がつく。それでダークエルフの立ち位置はどうなんだ?」
「我々も妖精種族と同様、人間に対してあまり良い感情は持っていませんが……人間の街に住むダークエルフも多くいます。ウッドエルフほどではないものの、我々にも友好的に接してくれる人間はいますしね」
人間の全てが敵というわけでもないわけだ。
「それに商売を始めるのであればエルフやドワーフなど亜人の集落などではなく、規模の大きな人間の街で店を開きます。もちろん苦労は多いでしょうけれど、商機が多いのはやはり人が多く集まる人間の街ですから」
「人間の街で商売をするなら、なおさらオレなんかとつながっちゃマズいだろ?」
だがディードリッヒは何でもないように平然と言ってのけた。
「もちろん、それは秘密です。うまくやりますよ」
苦労をしてきたらしく、それなりに修羅場もくぐってきた商人といった気風だ。
「ですから、どうか。この哀れなダークエルフに魔王様のお情けをもって、起死回生の機会をいただきたいのです!」
鷹のような目となったディードリッヒは、活き活きと語りだす。
この果実の素晴らしさと価値、それを自分が扱えば莫大な利益を約束する、と。
口調や態度には余裕を演じているが、隠しきれていない必死さがにじみ出ている。
それは仕方ないだろう。
ディードリッヒにしてみれば、客の荷物と信用を失い、それどころか魔人なんぞも出てきて命すらも覚悟せざるをえなかった、そんな全てを失った絶望的な状況だった。
しかし出会った怖いはずの魔人さんがどうやら友好的で、さらに金づるになりそうなのだ。
自分も持ち直せる、恩人に恩も返せる、一挙両得だ。
ただ、ちょっと力が入りすぎているというか、危ない感じもする。
「魔王様から果実を預かれば、その対価としてお望みの物をいつでもどんな物でも……」
アピールが止まらないディードリッヒに向けて手を上げる。
すぐにディードリッヒが口を閉じて、真剣な顔になった。
オレはディードリッヒの顔を見る。目を見る。
しかしディードリッヒは決して視線をそらさす事なく、こちらを見返している。
オレは笑った。
「そう焦る事はないさ。恩とか借りとか深く考える必要もない。困った時はお互い様ってヤツだ」
「困った時はお互い様……ですか」
「なんだよ? 初めて聞く言葉でもあるまいに」
「いえ。初めて耳にした言葉です」
異世界は情が薄い。
「いい言葉だろ?」
「甘いお言葉かと」
遠慮がない。
怖い魔王さんとしてはここで不機嫌になるべきだろうか?
「ですが、私はとても気に入りました」
「ツンデレか」
「……それも初耳です。どういった意味ですか?」
「今のは忘れて」
男相手にツンデレの説明とかどんな罰ゲームだよ。
「ともかく、そう気負わなくてもいい。お互いにとっていい話なんだろ? 面倒ごとをまかせていいなら、好きにやってもらって構わない」
「ありがとうございます。誠心誠意、お役に立ってみせます」
即答だった。
ま、そりゃそうか。ディードリッヒには他にアテもないだろうしな。
「さしあたって、お望みのものはございますか? とはいえ、私の翼竜で運べるものに限られますので、あまり大きな物、重い物は難しいのですが」
「そうだな。やはり衣類と家具、かな」
ダークエルフ製の流れ星が落ちてきたため、見事に喪失したからな。
オレはかつて家があったであろう、クレーターを見て肩をすくめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます