【完結】しぼりカスと呼ばれた魔人ツッチー、その力、実は最強!? ~妖精と過ごす異世界孤島ライフに、空から海からトラブルがやってくる!~

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第1話プロローグ『玉座、そして白き戦女神の間、にて』

大陸を統べる帝国。


その玉座の間に、白い神官服を着た少女が一人立っている。


うつろな目をしたまま、玉座の主へと口を開いた。


「戦女神様より神託が下りました」


戦女神という言葉に王を含めた一同がざわめいた。


それがもたらす言葉は決して幸福のみではないからだ。


むしろ悲劇である事の方が多い。


教会から言わせれば試練だと言うが、そこに慈悲があるとは思えないほどのものもある。


大きな疫病が流行る時。


大きな災害が起きる時。


大きな戦争が始まる時。


まさに神にすがるしかないような過酷な未来、その直前にもたらされるものが多かった。


一同が静まり返った中、朗々と響くのは巫女の声のみ。


「この大陸の、高き山、広き海、深い森、土と泥。それらに魔人たちが生まれ落ちる」


おお、と、苦しげなうめき声が漏れ出た。


魔人とは人と敵対する魔族の中でも最も強力な存在。


大災害に匹敵するような魔人が四人も生まれ落ちると言われたのだから当然の嘆きだろう。


一方で王は表情を崩さない。


楽観的というわけでもなく、悲観主義というわけでもない。


神託を一言たりとも聞き逃すまいという必死さゆえに驚き悲しむ余裕すらないのだ。


「荒ぶる火山で憤る少年。波間に深く眠る少女。森の風に舞う乙女、泥にまみれた中年……もとい青年。どれも人に仇をなす。ゆめ、信仰をおこたらず、星を仰ぎ、土を耕し、愛に生き、全てをもって決死に挑め。我が慈悲として、四つの宝玉を授ける。それらが輝く限り、四人の魔人は生きている。常に覚悟せよ、常に信仰せよ」


そこまでを一息に吐き出すと、神託の巫女は崩れ落ちるようにして深い絨毯の中に沈み込む。


倒れた巫女の側には、赤、青、緑、黄、と四色に輝く赤子の拳ほどの珠が転がっていた。


待機していた騎士たちがあわてて駆け寄り、巫女を抱き上げると退室していく。


深い絨毯に沈む四つの宝玉を王はただジッと見つめる。


「いかがなさいますか」


王の最も近くにひかえていた側近があえて王の意思を確認をする。


聞くまでもなかろう、といわんばかりの顔で勅命を下す。


「我が帝国の領土、その高き山々に調査団を送り炎の魔人の所在を探れ。だが見つけても決して手を出すな。行け」


勅命を受けた騎士が、鎧の胸に刻まれた王国の紋章に拳を打ち付ける礼をして退室する。


「海や森などと言われても魔人の場所など見当もつかんが……遠見、察知、予見、このあたりの術が使える魔術師を城や重要都市に常駐させろ。気休めでもないよりマシだ。行け」


別の騎士も同様の礼を残して退室する。


「最後に地の魔人か。土と泥? 大地という事か?」


最後の魔人だけはどうにも要領がつかめなかった。


雑というか曖昧というか。


その魔人に関してだけ言葉が足りないように感じた。


「空を飛んでいれば、もしくは、水に浮かんでいれば、何かの偶然にも見つかる事もあろうが、大地のどこかなど探しようもない。わが帝国領土がどれほど広いか、正確にはわからんのだからな。そんな探索に騎士は出せん。冒険者組合に概要を伝え、魔人を発見した際は手を出さず報告をしろと伝えろ。行け」


三人目の騎士が礼をして謁見の間を出る。


「面倒な事になった。生まれたての魔人であれば対抗できるが、力をつけられると厄介だ……しかし」


それまでに魔人を見つけられるか?


いや、無理だろう。


帝国の領土がどれだけ広いのか。


そんな中で四人の魔人を見つけ出すなど現実的ではない。


結局、それらが力をつけて暴れて出てくるまで何もできはしない。


ありったけの人員を投入すれば、もしかすれば可能性はあるかもしれない。


しかし帝国とて抱える問題は一つではない。


他国へのにらみをきかせながら、わずかに見えている飢饉の兆候への備えも始めている。


辺境からあがってきたばかりの報告の中には流行り病の一文があり、そちらも到底見過ごせない。


他にも周辺で目撃された魔物や天災などの対処にも、いつでも動かせる騎士団が必要だ。


そして何か大きな動きをとろうとすると冒険者組合と教会との調整や折衝も必要になってくる。


大国であれどその手足は軽やかに動くものではなかった。


「結局、我らはいつも後手だ。ありがたき神託があれど……ただその時まで備えるしかない」


その時はいつだろうか。


せめて自分の代で始末をつけられれば良いが、と王は思う。


生まれたばかりの双子の息子たち。


その子らが成長した時、そう十六歳という節目を迎えた時。


話す事が魔人の予言などではなく、帝国の平和と豊かさでありたいと願うばかりだった。






***






「あー、そんなわけでさぁ。オジさ、お兄さんは生きててくれてるだけでいいんだ。それだけで人間が勝手に脅威って思ってくれるから。いわば舞台装置みたいなものなのよ。最近、人間たちが信仰心薄くなってきてるからね。ちょっと緊張感を思い出させてあげようかなって」


真っ白な部屋。


全裸で放り出されたままの恰好で、オレは自分を戦女神と名乗る女に見下ろされながら一方的に話をされていた。


「それで思いついたのが、火、水、風、土の魔力を操れる魔人を作って、恐怖の四天王ってイベントをしようかなって。どう? カッコよくない?」


まさに名案とばかりに明るい笑顔になる戦女神とやらを自称する女。


こちらはそれどころではない、何が何だかわからないままだ。


「ボーっとしてるけど、言葉通じてる? 通じてるね? で、ちょっと言いにくいんだけど? オジ……お兄さんが最後の四天王なんだ。さっき別の三人を魔人として降ろしたんだけど……その三人のスキル選択とかでノリノリになっちゃってね? 予算、ほとんど使いきっちゃってさぁ」


長く美しい蒼い髪、その毛先を枝毛でも気にするようにして指でもてあそびながら、気だるそうに言葉を続ける。


「残った魔力で一発いいの来ないかなってランダム魂召喚したのがオ……にーさんなんだ。死因は……えーと……ああ、事故で亡くなったんだ。お気の毒ー。そんなわけで第二の人生です。生きているだけで花丸満点な簡単なお仕事!」


え、なに、死因? オレ、死んだの?


あ、確か運転中に後ろから衝撃があって……追突されたのか?


その後の記憶はおぼろげだ。どうなったんだ?


「心配しないで。搾りかすみたいになっちゃったけど四天王として最低限これくらいは、ってスペックには仕上げてあげるから! せめてSランクスキルの中で、えーと、そうねぇ、名前的に浸食支配あたりがそれっぽい名前よねぇ……って、コレどんな能力だったっけ? 確か……そうそう! 引きこもってれば強くなれるお手軽スキルよ!」


途切れる事のない意味不明な言葉の羅列についていけないオレにかまわず、女の言葉は続く。


「うーん、あとはー。前世の記憶とか残ってると色々とややこしいから、個人的な記憶は先に消しとくね。はい、消えましたー! 名前もなくなっちゃったから決めてあげる! そうね、土の魔人だから土のツッチー、こうしましょう!」


は? は?


「いきなり勇者とかにでくわさないように孤島でスタートさせてあげるわ! それとー、そうね、新天地で一人じゃかわいそうだし、サポートにかわいい妖精ちゃんをつけてあげるから仲良くやってね! ばいばーい!」


その際。


「あ、そうだ。生まれてくる双子の王子にもなんかタネ仕込んでおこうかな。やっぱり後継者争いって盛り上がるわよね。兄は剣の才能あたりで、弟の方にはトラブルの種を……んー、寄生系の何かがいいかなー?」


理解はできないが、とにかく不穏なセリフを耳にした気がする。


「あれ、まだいたの? 早く行ってくれない?」


そして女が手をヒラヒラと振った瞬間、視界が真っ白に染まりオレは意識を失った。

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