第11話 霊峰イオダン到着

 俺は防寒具と登山用装備に身を包み、持てるだけの食料を持ってヤガーの森までやってきた。


「リック様、本当に行くんですか?」


 リゼは正直おいて行こうかと思ったが、救助用のあれやこれやを持つなら人数は多いほうが良いし、単独で行ってミイラ取りがミイラになりそうだったので、ついて来てもらうことにした。


「当然だろリゼ、友人と言わないまでも、知り合いが死にそうで、助ける力があるなら迷わず助ける。冒険者として当たり前の心構えだと俺は思う」

「でも、リック様を追い出した人たちですよ? キースが死刑になるとして、私が助けるかって言ったら助けませんよ?」

「……それでも、今はずっと我慢してくれていた彼らの優しさを信じたい」


 そうだ、あんなに役立たずだった俺を追い出さずにいてくれたんだ。あの追放される一瞬だけでそれが無くなるわけじゃない。


「……準備は、良い?」

「ああ、ヤガーもありがとう。助かるよ」

「別に……借りを返しただけ」


 視線を逸らして唇を尖らせる。照れ隠しか、かわいい奴め。


「それで、どんな移動用アイテムを用意してくれたんだ?」

「……? 分からない?」


 ヤガーはきょとんとした顔をする。


「いや、分からないも何も、転送装置とかそういうのじゃないのか?」

「そう、だけど……」


 周囲を見渡しても、力強い木の根っことか、変な鳴き声の鳥以外には、俺たちと大砲みたいな大筒しかない。


「いやいや、無いじゃない、一体どこに――」

「これ」


 そう言ってヤガーは大砲を叩く。いや、いやいや、待て、ヤバいだろ、色々と。


「……ま、まさかと思うけど、これの名前は?」

「ニンゲン大砲」


 想像した使い方と寸分たがわぬネーミング……!


「ちょ、ちょっと待った! もう少しまともな移動用魔道具を頼む!」

「転送装置は……作るのに一週間かかる。これは、数時間で作れる」


 急ごしらえには急ごしらえという事か……仕方ないな。


「……分かった。安全なら文句は無いよ」

「着地は……連鎖術で、防御して」

「安全じゃねえ!?」


 と、いうことはこれ、そもそも転送用じゃないんじゃ……いや、変な想像はよそう、怖くなってきた。


「帰りは……徒歩、頑張って」

「いや、それは大丈夫」


 むしろ「二度と乗るか」と言いそうだったが、俺は諦めてニンゲン大砲に乗り込んだ。俺を発射した後にリゼが発射される手はずになっている。まあ逆だとリゼが墜落死するしな。


「リック様、ファイトですよ! 根性で着地してください!」

「ああ、行ってくる」

「失敗したら死ぬから……気を付けて」

「あ、ああ……」


 ヤガーの言葉に顔を引きつらせながらも、俺は大砲に装填された。



――



「ぎゃあああああああああああ!!!! 助けて! リック様ああああああああああぁぁぁぁっ!!!!!!!」

「回復、風切っ!」


 俺が魔法を唱えると、リゼは着弾の瞬間、減速してふわりと雪に降り立つ。


「し、死ぬかと思いました……」

「ああ、俺もだ」


 寒さ以外でガタガタ震えるリゼに、俺は諦めたようにため息をついた。


「で、目的地は……ほら、ぽよちゃんどっちか教えて!」


 リゼは自分の懐から観測用スライムを取り出して、高く掲げる。どうやらスライムの名前は「ぽよ」に決まったらしい。


「……おっ、反応はこっちみたいですね」


 スライムの指し示す方法にリゼは向き直り、俺に振り向く、これから挑むのはシエラ達でさえ遭難する超難関フィールドだというのに、彼女は何処までもいつも通りだった。


「ああ、急ごう……それにしても、リゼはいつも通りだな」


 マフラーで口元まで覆い、俺たちは歩き始める。


「ええっ、そう見えます? でも私、今めちゃくちゃ怖いですよ、周りは高レベルの魔物ばっかりですし……」

「確かに……それでも、どうしてそんな――」

「リック様が居るからですかねぇ?」


 唐突にそんなことを言われて、俺は心臓が跳ねるのを感じた。


「怖いことは怖いんですけど、リック様が居るおかげで『ああ、この人と一緒なら大丈夫』……って感じになるんですよね」

「いや……俺だって負けるし、俺より強い魔物なんていっぱい居るだろ」

「んー、そういう事じゃないんですよね、例えが見つからないんですけど、真夜中に一人で歩くよりも、二人で歩いた方が安心するじゃないですか、そういう奴ですよ」


 ……よく分からないが、なんとなく分かったような、そんな不思議な感覚だった。だけどそれは全然嫌な感覚ではなく、むしろ心地いい、満たされるような――


『聞こえてるから……無駄口はやめて』


「っ!? ヤガー!?」

『観測用スライムで……通話くらいは、できる。変なところに、持って行かないで……』

「おおっ、ぽよちゃんにそんな機能が!? すごい! あとサインください!」

『嫌』


 何故かちょっと不機嫌なヤガーの声で、俺たちは改めて雪山を歩き始めた。

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