認知症と心理戦
海鮮かまぼこ
認知症
とある民家の話。
ここには認知症のおばあさんとその1人息子と孫娘がいた。おばあさんは3年前から認知症を発症しており、介護は息子と孫娘がやっていた。幼い頃に父を亡くしていて、母に女手1つで育てられた息子は母にとても感謝しており、特に献身的に介護していた。孫娘もまた、会社で働いて疲れて帰ってくる自分の父の負担を少しでも減らそうと、友達と遊んだりせず、学校が終わるとまっすぐ家に帰って来ては父が会社から帰ってくるまでに家事を済ませていた。近くに住んでいる親戚達は我関せず、という態度を取っていた。中には心ない言葉をかけてくる者もいて、親子には誰一人として何も協力しなかった。老人ホームに入れるつもりのない親子は親戚の
「貧乏だと老人ホームにも入れれないからなぁ〜、かーわいそー」
という言葉にも笑顔で
「今までずっと世話してもらったんだから、せめて家で看取ってやりたいんだ」
と答える程であった。そんな彼らにも手を差し伸べる人達がいた。息子の会社では同僚達が残業を引き受けてくれたり、上司も仕事の分量を少し減らしてくれたり、できる限りのサポートをしてくれた。一方の孫娘も学校のみんなが事情を知っているので、学校でこそ孫娘が安らげる場所にしようと努力してくれ、更にはご近所さんまでもがおすそわけやらおばあさんの保護をしてくれたのだ。そのため親子はいつもみんなにも感謝していた。そんな彼らの努力を知ってか知らずか、おばあさんはいつの間にか出歩く事もなくなった。それを知った親戚は親子を貶めようとみんなが自分の手柄と吹聴し、親子を「全く介護をしようとしない」とまで言い張った。しかし、ご近所さん達に嘘だと見抜かれると逆に彼らの立場が危うくなった。美談になっていた親子に嫉妬した彼らだったが、こうなるともうどうにもならない。常に後ろ指を指され、耐えられなくなった彼らはひっそりと引っ越していった。そして平穏になって数ヶ月もした頃、おばあさんは遺言を遺して旅立った。親戚は遺産を少しでも貰おうと集まったが、弁護士が遺言を読み上げ、遺産は全て親子が相続する事になった。そこでおばあさんが実は大量の財産を持っていた事が明らかになったが、もう後の祭り。1円も受け取れない親戚はすごすごと帰っていった。そして更にその数ヶ月後、親子はこんな事を言っていた。
「母さんが富豪ってのはなんとなく気付いてたが、せっせと介護して良かったな。知らなかったら介護なんてやってなかったぜ」
「父さんもワルだねえ、おばあちゃんから遺産をまるまる貰うために親戚の前ではウチが貧乏ってアピールして遺産は無いって暗に示しちゃって、私も気付いてから介護始めたけど」
認知症と心理戦 海鮮かまぼこ @Kaisen-kamaboko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます