異世界女子高生の主張
プロジェクターK
プロローグ ~出会い~
「それ、俺の注文したアイスコーヒーですよね!」
そう叫ぶことができればどれほど楽だったか。
俺が10分前に注文したアイスコーヒーは、たった今、見知らぬ女子高生のテーブルに置かれてしまった。
「ふふん」カラカラ
俺のアイスコーヒーをゲットしたJKは、上機嫌に氷をストローでカランカランとやった。
給仕を無事おえたウェイトレスも心なしか上機嫌にカウンターへと戻ってゆく。
説明すると、俺がこのカフェに来たのは12分前くらい。JKはその5分後くらいだろうと思う。
数学の問題じゃないが、もちろん俺のほうが注文は早かった。
それだけではない。
叙述トリックだと思われてはいけないので先にバラすが、注文した品も「アイスコーヒー」で一致している。ここであえて問題を出そう。
問1.なぜアイスコーヒーは俺君ではなく、JKに給仕されてしまったのでしょうか?
答えを知りたい?理由は簡単だ。
―――店員が俺の注文を忘れていたんだ。
ここに来るのはもう十数回目になる。仕事帰りや昼休み、落ち着いた時を過ごすためにはうってつけの空間だった。
ただ、今日だけは違う。俺の脳内はヒートアップし、混乱を極めていた。
だがそれは怒りではない
(なにか事情があってJKに先にアイスコーヒーを出したのかも)
(まだですかなんて言ったら図々しい奴だと思われるかも)
(忘れていたなんてバレたらあのウェイトレスさんが怒られるかも)
なんて心配が思考回路を駆け巡り、ショートを起こした結果だった。
しかしまあ数分後には店員は気付くわけだ。「何もないテーブルの前で20分くらい座っている客」と化していた俺に、慌てた感じに小走りで近寄ってきて、
「大変お待たせしてすみませんでした!こちらアイスコーヒーになります」
こう告げるのだった。
俺はというと「ア……良いです良いです、ありがとうございます」なんてこっちも焦りながら返事をした。
これで一件落着だ。
店員さんは少しは焦っただろうが、俺の気の弱そうな返答に「クレーマー」のクの字の片りんもないだろうから、少し経てばこの失敗は忘れるだろう。
俺もただ注文を忘れられただけの客として、ここで注目を浴びることもなく、誰の記憶にも残らずに済むだろう。
これでいい。これで明日もここでゆっくりできる。
ただ「これでヨシ」と思わなかった人物がいたらしい。
それが、
「お兄さん、先に注文したなら言ってくださいよ!」
―――俺のアイスコーヒーを受け取った女子高生だった。
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