#141 Lasting Love Letter

 子供たちを自宅に連れ帰った後、私は詩葉うたはと一緒に近場の温泉旅館に来ていた。「せっかくの記念日だし、友達どうしでゆっくりしておいで」と夫が言ってくれたのだ。

 ちなみに詩葉が他の女性と二人で泊まることについて、陽向ひなたは「私が信頼してる人に限り可」というスタンスらしい。昔よりちょっとは軟化したかな。


 道中でも温泉でも夕飯の間も、仲間たちについての話の種は尽きなかった。子供に恵まれた人がいて、ひたすら仕事や芸事に打ち込んでいる人もいて、思わぬ方面で活躍している人もいて。かつて同じ高校にいたとは思えないくらい、離れた場所でバラバラの人生を送っている。同じステージに集まるのは、当分は難しいだろう。


 ただ、みんな元気に生きている。それだけは確かで、それが何よりも嬉しい。


 それに生きていれば、糸と糸は思わぬ場面でつながったりもするのだ。

 最近で思い出深いところだと、地元で母親の手術を成功させてくれたのは一条いちじょうくんだったし、その後の回復に欠かせない薬は倉名くらなさんの勤めるメーカーが開発していた。

 遠く、ゆるくても、確かに。支え合いながら、今を築いていると思えること。中年に差し掛かってからの感覚は、結構嬉しい。


「詩葉はどう思った、さっきの私の思い出話」

 布団の敷かれた部屋で、改めて訊いてみる。

「やっぱり伝え方は上手だって思ったよ、込み入った話だけどちゃんと分かってくれてたし。それに優希ゆうきちゃんと響希ひびきくんの聞く力も強いじゃん?」

「うん、もうちょっと後が良いかもって前は思ってたけど、想像以上に賢くなってくれたから。でもさっきも、伏せたポイントは山のようにあったじゃん」

 性的な部分とか、人のプライバシーに関わるところとか、まだ子供には聞かせたくないと思える要素は極力削った。


「けど根っこの部分はしっかり伝わったんじゃない?」

 私の言葉に、詩葉は首を傾げてから。

「紡がまれくんとの思い出から伝えたいことは、双子ちゃんにしっかり伝わってるよ。けど、紡がまれくんに抱いている感情がリアルに伝わったわけじゃない」

「ああ……つまり」

「うん。一途さはあえて、伝わりにくくしたよね」


 詩葉の指摘は正しい。

「あの子たちに、思ってほしくないんだよ。

 いま自分たちが家族でいる世界より、希和まれかずくんと一緒になれた世界の方が、お母さんは幸せなんじゃないか、とか」


 問いの答えを詩葉は訊いてこない、その代わりに。

「紡は今を投げ出してない、双子ちゃんの幸せを真剣に守ろうとしているしちゃんと守れてる。それで十分だって私は思うよ」

 今はその言葉に甘えたくて、私は詩葉の肩に頭を預けた。ずっと変わらず、私の一番脆いところをさすってくれる彼女の手だった。


「詩葉もさ、十二分ってくらい頑張ってきたよ。少なくとも私は、かけがえのない出会いを君からもらった」

「うん、ありがとう。紡が言ってくれるの、何より嬉しい」

 場所も、仕事も、暮らし方も全く違うけれど。同じ色の願いを分け合って、私たちは生きている。

「人生がまれくんへの手紙だってのは、私もそうだから。未来でちゃんと渡そうね、一緒に」

「え、それは私が先じゃダメ?」

「ああ、それが良いね……乙女だなあつむぎは」

「いいでしょ、詩葉の前だけだし」


 やがて時計が二十一時を回った頃。

「詩葉、そろそろ」

「だね。はい、音これ」

 詩葉が演奏アプリから出した音程を、喉の中で響かせる。久しく熱の通っていなかった音楽の回路に、今夜は愛を灯すのだ。


 そして、希和の生まれた時刻に合わせて。

「まれくん」

かずくん」

「お誕生日おめでとう」

「生まれてくれてありがとう――じゃあ今年も、歌います」


 視線を交わして、息を合わせて、一緒に歌い出す。

 私と詩葉の二人で作った、二人しか知らない、希和へ贈る歌だ。


 私の恋慕と、詩葉の友情を、二人の一生分の大好きを詰め込んだ。人生最後に贈る、終わらない恋文についての歌だ。



ねえ、今日もこんなに

この街には愛しい笑顔が咲いたよ


そう、だから明日あす

そばにいる大切を懸命に守るよ



君と交わした、いくつもの言の葉は

今日も歩き続ける力になったよ


渡した力が、刻んだ足跡が

君に贈る言葉に、恋文になるよ



ここでずっと謳うから

どうかずっと聴いててね


想いは絶えさせない

遠い未来の向こうまで


永遠とわ」は、ここに


覚えてるよいつだって

見つけ合った虹色は


命の先でも

人の希望になる


軌跡をなぞろう、つないだ手と手で



最愛なる小説家への恋文-Rainbow Noise: Lasting Love Letter-


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