第12話 デビュー配信

 あっという間に1週間が経ち、俺は配信部屋でパソコンを起動させ、後は配信開始のボタンをクリックするだけでデビュー配信が始まってしまうところまで来ていた。

 因みにYooTubeのチャンネル登録者数は20万人を突破していた。まだデビュー配信してないのにこんなに増えたって、どういうことだよ。


 1時間ほど前にトリッターでデビュー配信の告知をしたのだがわずか数分で1万以上の『いいね』がつけられていたことに驚いた。

 そのせいもあって、余計に緊張している。


「葵くんなら大丈夫だよ、自信もって」


「うん、頑張るね」


 千冬さんは俺が緊張していることに気づいていたみたいだ。この人は本当にお姉ちゃんみたいだ。

 先ほどまでは誰かに肩をツンツンされるだけで倒れてしまいそうなくらい緊張していたが、千冬さんに声を掛けてもらったお陰で少しだけ緊張は和らいだと思う。


 俺は大きく深呼吸すると、マウスカーソルを配信開始ボタンの上に持っていき、クリックした。

 すると、配信画面には俺のVtuberの姿――兎野レオが映り、チャット欄はもの凄い勢いで加速した。


【チャット】

:弟くんだ!

:可愛すぎん?

:でも隠れたかっこよさもある

:早く声聞きたい

:どんな声なんだろう



 俺はもう一度、大きく深呼吸をして声を発した。


『こんレオ~! 初めまして、兎野レオです!』


 俺は元気よく配信を見ているみんなに挨拶した。

 配信は最初が肝心だとおもったから、俺は緊張はしているけどそれを見ている人に悟らせないように元気よく振舞った。


 暗い印象を与えてしまうと視聴者も離れて行っちゃうと思うから。


 チャット欄の様子を見てみると、だいぶ良い感じみたいだった。アンチコメのようなものを書いている人は全くいなくて少しだけホッとした。


 

「かわいい」とか、「見た感じもウサちゃんの弟って感じするな」など色々なコメントがあったが、どれも褒めてくれているコメントばっかりで嬉しかった。


 本当なら絶望にぶつかりながら生きていくはずだった俺の人生は、千冬さんと出会ったことで良い方向に大きく変わったんだ! と、俺は改めて感じた。

 千冬さんには、感謝してもしきれないくらいだ。


 その後、兎野レオのプロフィールなどを画面に出して視聴者の人たちに紹介していった。

 ファンネームなども決めていく。


『みんな、ファンネームはどんなのが良い?』


【チャット欄】

:レオ民

:レオ民!

:レオ民しかない

:ウサ民に似た感じがいいからレオ民で

:全視聴者が同じ思考してる



『本当に良いの? 俺もウサ民ぽくて好きだけどね』


 結局、ファンネームは視聴者の満場一致で『レオ民』になった。

 兎野ウサの弟だしファンネームも似ててもいいよね?


 チラッと実は隣にいる千冬さんを見たら、声を出さないように我慢していたがファンネームが自分のものと似ている感じになったのが嬉しかったみたいで恥ずかしそうに顔を赤くしていた。

 うん、かわいい。



 よし、ファンネームも決まったことだし、そろそろ視聴者の人たちへのサプライズを決行しようか。


『こんウサ~! 兎野ウサだよ~! 弟のデビュー配信にお邪魔しちゃいました!』


【チャット欄】

:お姉ちゃん登場!

:これは激アツ展開

:デビュー配信から神回では?

:ウサちゃん、デレデレしてね? 本当にブラコンだったか!

:この姉弟、一生見ていられる、てぇてぇ



 視聴者の人たちへのサプライズとして千冬さん――兎野ウサに登場してもらったら配信は大盛り上がりだった。

「神回」や、尊いが語源となっている「てぇてぇ」などのコメントをしている人が数多く見られた。



 デビュー配信なのでそこまで長く配信をするつもりはなかったので、千冬さんと一緒に視聴者の人たちと少しばかり談笑して兎野レオの初配信は終えた。





 この日、トリッターでは『兎野姉弟てぇてぇ』というワードがトレンド1位に輝いたのだった。


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